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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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降りてきたのは

 

「あれ?先輩たち、なんでここに」


 バイト中のはず。さぼり?


「新たに島に来た観光客に店の宣伝しに来たに決まってんだろ。割引チラシ配るんだよ」

「オレんとこも同じく」


 店名がかかれたエプロンを付けた伊与里先輩と宮さんの手には、ランチ割引50円という文字とともに店名と地図が描かれたカードサイズのチラシがあった。


「そういう手があったんですね」

「むしろこのチャンスに何もしてないマスターと遠岳に驚くわ」


 他にもチラシを持った島の人たちが何人もいることに、今更ながら気が付いた。船から降りても観光客扱いされたことないから割引のチラシの存在を知らなかった。


「それで?シロさんが戻ってくるのか?」

「はい、そうなんです。メールが来て」


 伊与里先輩が話を戻す。


「CDのことを知ってそうな人物だったよな。直接、話を聞けるなら手っ取り早いな」

「これで色々と謎が解けるかもな。遠岳の師匠ってとこにも興味あるし」


 先輩たちにとってもシロさんは会ってみたい人物だろうな。紹介できるのは、嬉しいな。



 おがさわら丸がゆっくりと旋回し着岸する。タラップが設置されて、おがさわら丸から人が降りてくる。

 歓迎の演奏とともに、港が慌ただしく賑やかになる。船から次々と人があふれ出てくる。


「オレらはチラシを配らねえと」

「シロさん見つけたら、後で紹介しろよ」


 チラシを配りに先輩たちは、観光客が集まっている所に行ってしまった。

 ボクは船から降りてくる乗客たちがよく見える場所に移動しよう。



 夏休み中なので家族連れや若者グループが多く、旅慣れないこともあり、港は混乱状態になっていく。

 暑さでぼんやりしていたら、タラップの途中で乗客の一人が蹲るのが目に入ってきた。具合が悪いのかな?

 サングラスの小太りな男性が駆け寄って来て、蹲っている男性に声をかけると、フラフラと立ち上がり歩き出した。その姿に見覚えがある気が……。日差しに照らされていっそう明るい髪の色になっている、あの目立つ容姿。


「レイくん?」


 ボクの声に気づいたのか、レイくんが顔を上げた。


「ヨウタ!」


 ボクに気が付いて走り寄って来ようとして、崩れ落ちる。具合悪いのに走ろうとしたせいか。


「船酔い?大丈夫?」

 “I’m all right.”


 レイくん、この船に乗っていたのか。連絡がしばらく来なかったから、どうしたかと思ってた。

 弱ってしゃがみ込むレイくんにチャンスだとばかりに寅二郎が寄っていく。姿勢低くしている人は、自分を撫でてくれると思い込んでるんだよな。寅二郎は……

 レイくんも犬が寄ってきたら撫でるものと思ってるのか、自然に撫でだしたので放っておいてもいいか。


「もしかして、Raymondの知り合い?」


 レイくんの背後で佇んでいたサングラスの外国人がボクをじろじろ見ながら話しかけてきた。この人、蹲っているレイくんに声をかけていた人だよな。


「はい、遠岳っていいます」

「ああ、君か。私はRaymondの家庭教師でOrvoです」  


 サングラスを外した茶髪の外国人男性はボクのことを知っているようだ。それにしても、日本語上手だな。



「お!レイじゃねえか。ほんとに来たんだな」

「どうした?船酔いか?」

「   ナギ ミキ 」


 先輩たちがレイくんに気づいて戻って来た。


「知り合いなの?具合悪いみたいだけど」

「麦茶なら持ってるよ。よかったら」


 心配そうにナナちゃんとモエちゃんも近づいてきて麦茶の入った水筒をボクに渡してくれた。レイくんにコップに注いだ麦茶を渡すと、ゆっくりと飲み干した。レイくんが顔を上げ、日本語で「ありがとう」と二人にお礼を言ったもんだから、二人は盛大に照れだした。



 レイくんの体調が戻ってきたみたいなので、日陰に移動したものの、立ち上がることはできないみたいで寅二郎を抱きしめたまま座り込んでいる。

 家庭教師だというオルヴォさんは、先にホテルに行ってると言って、レイくんを置いて行ってしまった。


「病院で診てもらった方がいいんじゃないか?」

「だいじょうぶ 病院 必要ない」


 宮さんが心配してレイくんに声をかけるが、頑なに病院は嫌がる。


「お?日本語、話せるようになったのか?」

「翻訳機ある 少し 大丈夫」


 レイくんが首から下げてる小さな翻訳機を持ち上げる。

 確かに、会話ができてる。でも、スマホの翻訳アプリを使ってた時より、会話がスムーズなのは翻訳機の力というより、レイくんが日本語をある程度理解しているからみたいだ。覚えるの早いなぁ。


「おー、これなら色々と問い詰められるな」

「具合悪いのにやめてやれよ」


 伊与里先輩が悪者のような笑みを浮かべる横で、宮さんが呆れたようにタメ息をついた。


「レイがこの島に来た目的くらいは聞いてもいいだろ。聞かないことには、どういう対応していいか分からねえし」


 先輩の言葉で思い出した。レイくんがこの島に来た目的……。まだ聞いてない。レイくんがボクに会いたがってたって姉ちゃんが言ってたけど、この島に来るほどの理由って何だろう?


「ボクに連絡くれたみたいだけど、何かあったの?」


 顔色はよくなってきてるし、このくらい聞いても大丈夫だろう。


「ある これ   」


 レイくんがボディバッグから取り出した白いスマホを指さす。


「メール 見た」

「メール?」


 レイくんとはインスタントメッセンジャーでやり取りしてるので、メールでやり取りはしてないはずだけど……



「これ おじさん ベルナルディノのMobile phone」


 そう言うとレイくんが取り出した白いスマホを操作しだした。


「ヨウタ メール 見る」

「ボクにメールを送ったの?」


 直接話せない内容なのかな?

 スマホを取り出しメールを確認すると、メールが来ていた。

 ……でも、このメールアドレスは……


「このアドレス、シロさんの……。どうして、シロさんのメールアドレスから?」

「シロさん?」


 レイくんがよく分からないといった顔になる。


「これは ベルナルディノのアドレス」


 レイくんが白いスマホの画面を見せる。その画面には、ボクに送られてきたものと同じ文面が映っている。


「ベルナルディノ わたしのおじさん 写真ある」


 そう言ってレイくんが手に持っている白いスマホとは別のブロンズ色のスマホをバックパックから取り出した。そのブロンズ色のスマホの画面に、写真が表示される。


「あ!シロさん」

「ほんとだ。シロさんだ」


 モエちゃんとナナちゃんがその画像を見て声を上げた。


「シロさん?って、あのシロさんか……?」


 伊与里先輩と宮さんも身を乗り出して覗き込む。

 確かにスマホの中の男性はシロさんだ。黒い髪に茶色の瞳。ちょっと困ったように微笑んでる、この表情。シロさんだ。


「でも、シロさんは日本人だし、レイくんのおじさんというのは………」


 無理がある。


「確かに、濃いめの顔だけど日本人にしか見えねえな。スペイン人というには……」

「アラリコに全然似てないよな。兄弟といわれてもな」


 伊与里先輩と宮さんにも、シロさんは日本人顔に見えるみたいだ。

 レイくんのおじというには似ていなさすぎる。


「ベルナルディノの母 日本人  アラリコ母 スペイン人  父同じ スペイン人」


 レイくんが身振り手振りを交えながら説明してくれる。


「ああ、シロさんはアラリコとは異母兄弟ってことか」

「シロさんは日本人の血が入ったハーフか。それなら、似てないか」


 レイくんの説明に先輩たちは納得したようだ。、


「じゃあ、本当にシロさんがレイくんのおじさん……」


 あのシロさんとレイくんに関わりがあるなんて思ってもみなかった。


「あれ?でも、レイのおじさんは亡くなってるって言ってなかったか?」


 思い出したように声を上げた伊与里先輩が、すぐに気まずそうにボクに視線をよこした。

 ……そうだ。確かに聞いた……


「レイくんのおじさんがシロさんなら……、シロさんは……」


 レイくんを見ると、困ったような顔で何か言おうとして目を伏せてしまう。


「     おじさん ベルナルディノ 病気で もう いない」


 レイくんの静かな声が雑踏に消されることなく届く。


 病気……

 もう、いない……



 ……いない?


「……っで…も、……そん…な……は…ず…………」


 メールが。……メールはレイくんから?……でも、そんな……

 シロさんは、島にいる時は元気で………

 ………病気なんて…


 伊与里先輩の声が遠く聞こえる。でも、なんて言っているか聞き取れない……



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