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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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メール

 

 島フェス3日目。

 マスターがエプロンを外して調理台から離れる。


「洋太くん、ちょっと出てきていいかな?」

「はい、大丈夫です」


 多少の時間なら一人で乗り切れるくらいには、ボクだって一通りのことはできるようになった。


「よかった。花柄シスターズの歌をね。聴きに行きたかったんだぁ。じゃあ、あとはよろしくね」

「え?」


 そんな長い事、いなくなるつもりなの?

 ホットドッグとマンゴーラッシーはどうにかなるけど、ホットコーヒーはマスターじゃないと……。ホットコーヒーを買う客が来ないといいんだけど……


「Salut!  洋太 会いに来た」


 寝起きのようなジャクリーンさんが、フラフラとこっちに向かって歩いてくる。どうして、このタイミングで……


「ジャクリーンさん!……こ、こんにちは。おすすめはアイスコーヒーとマンゴーラッシーです」


 ボクが挨拶すると、視線をさまよわせた後、なにかに気づいたようにジャクリーンさんが瞳を輝かせた。


「Hot coffee ください」


 猫のような笑顔でジャクリーンさんがホットコーヒーを注文してきた。絶対、状況が分かって注文して来てる。意地悪だな。


 “What do Tereza Alisha order?”


 後からやって来たカラフルな髪のテレザさんと黒髪のアリシャさんにも注文を聞いているようだ。


 “Mango lassi , please.”

 “Me too.”


 よかった。


「お待たせしました」


 3人に注文の品を渡すと、笑顔で去っていった。大丈夫だろうか。コーヒーの出来は、ちょっと心配だ。

 入れ替わるようにモエちゃんがやって来て、ちょっと不思議そうに周囲を見回す。


「洋ちゃん、おはよう。あれ?マスターは?」

「花柄シスターズのステージを観に行っちゃった」


 まとわりつく寅二郎のほっぺを撫でながらモエちゃんが、ボクをじっと見た後、笑顔になった。


「帽子、被ってくれてるんだね」

「うん、涼しくて快適で、すごい気に入ったよ」

「よかった」


 モエちゃんがくれた帽子のおかげで、外にいても照り付けてくる夏の日差しをやり過ごせている。思ってたより帽子は重要アイテムだった。




 島フェス最終日。

 マスターと出店の準備をしていたら、マスターのスマホが鳴った。相手はマサさんのようで、込み入った話みたいだ。邪魔しないよう一人で準備を進めていく。といっても、軽く清掃するくらいなので、すぐに終わってしまった。

 まだ、フェスがはじまるには時間があるし、マスターはまだ電話中だし、ヒマつぶしがてら、ボクも自分のスマホを確認しようかな。


「メール来てる」


 誰からだろうと思ったら、……シロさんのメールアドレスからだ。

 また、迷惑メールかな。


【 もうすぐ島につく 】


 ……日本語だ。気になってメールを開いたけど、それ以上のことは書いていない。

 どういうことだろう。島に着くって……。

 メールが来たのは、……1分前?!



「洋太―!さぼってちゃダメだぞー」


 顔を上げると、ヒヨちゃんが目の前に立っていた。


「ヒヨちゃん、今日は船が来る日?」

「うん、もうすぐ、到着する時間じゃないかな」


 ヒヨちゃんが言い終わると同時くらいに汽笛が遠くから聞こえてきた。定期船おがさわら丸が港に入ってきた合図だ。

 ということは、メールは間違いじゃない?このメールはシロさんから?前のメールも、もしかしてシロさんだったってこと?


「ヒヨちゃん、少し時間ある?」

「……ないこともないけど。…なに?何かやらかしたの?」


 なぜか先輩たちを思い起こさせるような警戒の反応を示すヒヨちゃんに事情を説明する。


「シロさんが島に帰ってくるみたいなんだ。出迎えに行きたくて」

「え?シロさんが?」


 ヒヨちゃんの顔が明るくなる。シロさんは小学校の行事を手伝ったりしてたから、ヒヨちゃんとも顔なじみだ。


「そういうことなら、しょうがないな。貸しだぞー」

「ありがとう!ヒヨちゃん」


 マスターのほうに顔を向けると、すでに電話は終わっていたようで、ニコニコと笑顔でこちらを見ていた。


「あの、マスター、ヒヨちゃんに代わってもらっても」

「もちろん、かまわないよ。行っといで」

「シロさんに会ったら、すぐ戻ります!」


 自分も連れて行けと大騒ぎしている寅二郎も連れて急ぐ。港の待合所はすぐ近くだ。走って行けば、船から降りてきたシロさんに会える。




 二見港はすでにたくさんの人でにぎわっていた。船でやってくる観光客を迎えに来た宿の人やガイドだけでなく、歓迎の音楽を奏でる人たちなどであふれ、お祭り状態だ。おがさわら丸が到着することを知らせるアナウンスが流れる。

 はやる気持ちを押さえながら、出迎えの人たちの間を縫うように進んでいくと、見知った顔を見つけた。

 モエちゃんとナナちゃんだ。声をかける前に二人もボクに気づいたらしく笑顔を向けてくれた。


「洋ちゃんも宣伝に来たの?」

「え?宣伝?」


 二人とも 〔←島フェスの会場〕と書かれたプラカードを持っている。船から降りてきた観光客に島フェスを宣伝しに来てるのか。


「あれ?違うの?誰かの出迎え?」

「そう!シロさんがこの船で帰ってくるって、連絡があって」

「え?シロさんが?本当?」


 二人が驚いたように目を見開いた後、顔を見合わせてニィっと笑い合いだした。


「よかったねー。洋ちゃん、仲良かったもんねー」

「寅二郎と同じ顔になってるよー」


 笑顔の二人が、ボクの肩をバンバン叩き出した。寅二郎が足元で嬉しそうに尻尾を振っている姿が目に入る。なんか恥ずかしくなってきた。


「シロさんって、あのシロさんか?」


 聞きなれた声に驚いて振り向くと、いつの間にか背後に伊与里先輩と宮さんが立っていた。



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