沖縄の音色
「あ! 遠岳くーん、おはよう!」
「おはよ~う」
登校途中、校舎に向かって歩いていると、背中をポンと叩かれた。明るく楽しそうな女子二人の声。
「部長、副部長、おはようございます」
伝統文化部の部長と副部長が、嬉しそうに笑っていた。
「遠岳くん、今日の放課後、時間あるかな?」
「すみません。しばらく、放課後は用事があって」
「じゃあ、昼休みは? 見せたいものがあるんだぁ」
「昼休みなら大丈夫です」
「ほんと? よかった。それなら、いっしょにお昼食べようよ。遠岳くんは、お弁当? 学食?」
「お弁当です」
「じゃあ、部室で食べられるね。美味しいお茶を淹れてあげるね」
茶道を学んでいる部長たちが淹れてくれるお茶かぁ。美味しいんだろうな。
部長たちと別れて教室に向かう途中で、壁に寄りかかった中村と目が合った。
「見たぞ! 2年の先輩と親しげに話しているのを! お前だけはそんな奴じゃないと思っていたのに!」
裏切り者! と言って走り去って行った。裏切り者? 意味が分からない。
中村の奴、演劇部にうまく馴染めてないのか? 演劇部にはモデルやってる絶世の美少女がいると張り切っていたのに。
昼になり、弁当を持って伝統文化部の部室に行くと、部長と副部長は、すでに来ていた。
「失礼します」
「そんな畏まらなくていいよ。お茶入れるね。緑茶と紅茶、どっちがいい?」
両手にティーバッグを持った部長に「緑茶で」というと、にっこり笑ってお茶を淹れてくれた。泡だて器みたいのでシャカシャカやるわけではないのか。
食事を終え、お茶を飲んで一息ついていると、部長が赤い長方形のケースを部屋の隅から持ってきた。
「ふふ、見せたい物っていうのは、これなんだ」
赤いケースを開けると、その中に三味線が収まっていた。ただ、イメージとは随分と違うから、もしかしたら三味線じゃないのかもしれない。
「三味線ですよね? 自分のイメージと違うんですが……」
「そうそう、私もはじめて見た時、驚いちゃった」
ケースの中の三味線は、ボディ? の部分に色鮮やかなマンタの絵が描かれていて、地味なイメージとは正反対の華やかさだった。
「沖縄三味線らしいよ。沖縄では三線っていうらしいけど」
「沖縄の三線ですか。確かに南国沖縄って感じがしますね」
青い空と海と沖縄民謡が似合いそうな陽気な三線。これなら弾いてみたいかも。どんな音がするんだろう。
「手に取ってみていいですか?」
「もちろん! 三線の弾き方の本もあるよ」
「えっとね、ウマを立てるらしいよ」
「馬? ……ああ、これですね。……これでいいのかな?」
大雑把な説明しかない本に四苦八苦しながら、準備を整える。多分、これで大丈夫なはず。
「では、弾きます」
とりあえず、ギターと同じ感じで。
ポオオンポンポオン
「おお! 三味線の音がした!」
「スゴイよ。遠岳くん! 初めてで弾けるなんて!」
これだけで、ここまで喜んでもらえるとは。
「沖縄三線なら、沖縄民謡を弾くのがいいでしょうか?」
「お茶会で沖縄民謡か。合うかなぁ?」
「ワビサビとは真逆な気もするけど、楽しそうではあるよね」
部長たちがのんびりと頷く。
自分から言っておいてなんだけど、本当にいいんだろうか。
「まだ、時間はありますし、他に合いそうな曲も探しましょう」
「そうだね。私たちも探しとくね」
「みんなが驚くような曲見つけ出そう!」
部長たちはいつも楽しそうだ。どんな時も重苦しさがない。
自分も見習って、バンドの練習をもっと楽しんでみようかな。