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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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幼馴染3人

 

 何もせずに終わった昨日のバイト。今日は少しでも役に立てることをしよう。

 カフェ・トラジロウに行くと、マスターがすでに来ていた。


「おはようございま」

「よぉうぅぅぅたあぁぁぁぁぁ」


 それと、鬼の形相をした幼馴染が3人。

 ……どうしよう。怒ってる……


「千春ちゃんを押し付けて、逃げるって、どういうことだぁぁ」

「あの後、大変だったんだからねー」

「ごめん。せ、先輩たちといっしょだったから、……その…」


 せっかく半休になったわけだし、遊びたかった……


「まあ、それなら仕方ないか」

「そうだね」


 あっさり引いてくれた。先輩という言葉が効いたか。


「ね、ね、伊与里さんも洋太の先輩なんだよね?」

「……うん」


 3人の目がキラリと光った気がした。


「みんなは、なんでここが分かったの?」


 話を逸らそう。なんか先輩たちを話題にするの。怖い。


「洋太が逃げた後、捜し回ってたら、シゲちゃんに会ってバイト先を教えてもらった」

「レディたちの話を聞いてね。うちにくれば洋太くんに会えるって教えたんだぁ」


 マスター……



「その、話したいのは山々なんだけど。これからバイトだから、ボクに用事なら、バイトの後で」

「わたしたち客だから!」


 ……そう言われたら、もう何も言えない。


「洋太ぁ、メニューは?」


 海が見える窓際の席に着くと、手を振ってボクを呼びつける。あれ?でも、……


「メニュー?……マスター、ありますか?」

「まだ、用意してないねぇ」


 マスターが困った顔で首を振る。そうだよなぁ。この店のメニュー、まだ一度も見たことない。


「え?どういうこと?」

「実は目玉になるような料理が思いつかなくて。まだ、メニューを作ってないんだぁ。黒板に書いてあるものなら作れるよ」


 食材を並べながらマスターが、穏やかな笑みを浮かべる。


「ええぇぇ、それでやっていけてるの?」

「まだ一人の客も来たことないから大丈夫だよー」

「それは大丈夫って言わないよぉ」


 マスターの言葉に幼馴染たちが打ちひしがれる。

 悲壮な顔で顔を見合わせていた幼馴染たちが、なにか決意したように頷き合いはじめた。


「私たちで目玉商品を考えよう!」

「マスターと洋ちゃんだけだと、店がつぶれちゃうもんね」

「やろう!客がたくさん来るような、凄いメニューを生み出そう!」


 みんな、やる気だ。


「いや~、ありがたいね」

「そうですね」


 マスターと喜んでいると、「何で他人事なの!」と幼馴染たちに怒られてしまった。

 次々に幼馴染たちから意見が出てくる。凄いな。食べ物の名前なんて自分はほとんど覚えてないよ。わいのわいの言いながら、新たなメニューを提案していく幼馴染たちに比べ、あまり役に立ってないような……


「そうだ!洋太がバンドやってるって言ってたけど、本当なのか?」

「うん、先輩たちと。始めたばかりだけど」


 ヒヨちゃんが料理名を書き出している途中、不意にボクに話を向けてきた。


「へー、へー、へええ~、洋太がねぇ」

「洋ちゃん、歌うまかったもんね」


 ヒヨちゃんがからかう様にニヤついている横で、モエちゃんがフォローしてくれる。


「そういえばさ、世界的に有名な海外アーティストが島フェスに出るんだって。洋ちゃん知ってた?」

「うん、先輩から聞いたよ。バスマ?だよね?」

「すごいよね。こんな町内祭り程度の小規模フェスにでてくれるなんて」


 ナナちゃんが嬉しそうに話しているけど、複雑だ。どう考えても裏があるだろうから。

 船で24時間かかる小笠原まで来てくれる物好きなアーティストは日本人でも少数なのに、海外から来てくれるなんて普通ではあり得ない。先輩たちが懸念する通りだろうと思う。


「島の人たちだけじゃなく、観光客も騒いでるよね。僕も実は楽しみでね」

「うちの家族も店を閉めて見に行くって言ってたから、いつもより、たくさんの人手になるんじゃないかなぁ」

「島中から集まってくるだろうね。盛り上がるだろうなぁ。楽しみ~」


 マスターもモエちゃんもナナちゃんも楽しみにしているのか。


「それだ!」


 ヒヨちゃんが勢いよく立ち上がった。


「どうしたの、ヒヨちゃん」

「目玉料理を考えても宣伝しなかったら客は来ないと思うんだよね」


 テーブルに両手をついたヒヨちゃんが身を乗り出し、もっともなことを言い出した。


「それはそうだね」

「宣伝かー。……でも、どうしたらいいか」

「お客さんが来ないと口コミも期待できないし」


 宣伝の方法も考えないといけないんだよなぁ。商売って思った以上に大変だ。


「だからね!島フェスに出店したらいいと思うんだ」


 日焼けしたヒヨちゃんの拳が目の前に迫ってくる。

 島フェスか。


「確かに、いいかも」

「うん、いいアイディアだよ!客が来ないなら行けばいいんだよね」

「有名人が来るおかげで人出は期待できるし、宣伝にはもってこいだもんね」


 ナナちゃんとモエちゃんと頷き合う。


「でも、いまから、出店希望しても間に合うかなぁ」


 マスターが現実を突きつける。

 そうだよなぁ。島にとっては夏の一大イベントだし、急に出店したいといっても難しいよなぁ。


「ふふふ、心配無用!うちの母ちゃんが島フェスの役員やってるんだよね~」

「おお~!」


 ヒヨちゃんから後光がでてるようだ。


「それなら多少、無理を言っても聞いてもらえそうだね」

「今から頼んでみる」


 ヒヨちゃんがスマホを取り出して連絡をはじめたと同時くらいに、ボクのスマホが震えだした。確認すると、姉ちゃんからだった。

 珍しいな。姉ちゃんは気遣いからか、あまり昼間に連絡を寄越してこないのに。



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