表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章
8/133

バンド名

 

 晴れ渡る春の放課後。イヨリ先輩のうちにバンドのメンバー全員が集まり、……みんなで、猫を撫でている。先輩のうちの猫ちゃん人懐っこいよなぁ。


「ライブやるなら、新曲がほしいよな」

「新ボーカルの初ライブで新曲……。確かにほしいっすね」


 アカガネさんとミヤノオさんが、のんびりと世間話をするように話しだした。


「お前らな。今からじゃ、いくらなんでも間に合うわけねえだろ。新曲はボチボチ用意はしとくけどな。今回はある曲だけでやるしかねえだろ」


 イヨリ先輩が呆れたようにタメ息をつく。


「じゃあ、新バンド名くらいは用意しとくか。ライブの時に発表できるように。……なんかいいのないか?」

「……まったく思いつかねえ」

「同じく」

「ないです」

「お前らな」


 一つの意見も出ないことに、アカガネさんの顔が歪む。いつもはよくしゃべる先輩たちなのに、今はひたすら猫を撫でるだけ。猫の毛が舞い散るほど撫でている。考える気なさそう。

 そういえば、アインザイムってバンド名はどういう意味があるんだろう?


「前のバンド名は、どうやって付けたんですか?」

「ああ、あれはカイリが付けたんだよ。医学用語から引っ張て来た単語を少し変えたって言ってたな。カイリはセンスがよくて博識だったから任せておけば、うまくやってくれるんで、つい頼っちまってたな」


 アカガネさんが苦笑いといった感じの表情で答えてくれた。凄い人だったんだな。カイリさんって。


「全員の名前からでも取るか?」


 イヨリ先輩が体を起こし紙とペンを持ってくる。


「あ~、いいかもな。ええっとぉ、赤鐘将吾に、宮ノ尾巳希、伊与里凪と、トオタケってどんな漢字を使うんだ?」

「ペンを借りていいですか? ……遠岳洋太。こう、書きます」


 赤鐘さんが3人の名前を書き込んだ紙に自分の名前を書く。

 先輩たちは、こういう漢字なのか。


「遠い岳ね。……それで、名前から取るって、どうするんだ? TAMI? とかか?」

「……う~ん、どうしようもねえな。パッとしねえ。なんか他にねえか?」

「伊与里、お前なぁ」


 言い出しっぺの伊与里先輩が、即座にダメ出しをする。赤鐘さんが呆れたように肩を落とす。


「なんか適当に、好きな物の名前でもあげてこうぜ」


 見かねた宮ノ尾さんが、建設的なことを言い出した。


「好きなものねえ。……そうだな。カツカレー、味噌ラーメン、焼き鮭」

「焼き鮭ご飯って名前のバンドがいるから、焼き鮭は使えねえな」


 いるんだ。焼き鮭……


「バンド名って変なのが多いですよね」


 ぽつりと呟くと、先輩たちがニヤリと口の端を上げた。


「大抵、若いときにつけるから、やっちゃた感じになるんだよな」

「それが嫌で、無難な英語名をつけると覚えてもらえねーんだけどな」


 なるほど。思い浮かぶバンド名は変なのか英語だな。たまにセンスのいいバンド名もあるけど、知識や教養があるんだろうなって感じで、ああいうのを思いつけと言われても難しいよな。

 売れてるバンドも割と変なのや単純な英語名だし、実力があればバンド名は何でもいいのかもしれない。


「遠岳、食べ物以外の好きな物あげてけ」

「え? 食べ物以外でですか? う~ん、……うちの犬ですかね。他には」

「犬飼ってんだ? 犬種はなに?」

「雑種です。鼻と眉間の部分と足先だけが白い虎毛の中型犬で可愛いんですよ」

「……虎毛の雑種かぁ。……ざっしゅ、ザッシュ……いいかもな」

「いいですよ。雑種は個性があって。うちのは人見知りしなくて愛嬌はあるんですけど、見た目が怖くて子供は泣いて逃げてしまうんですが」

「いや、バンド名にだよ。ザッシュ。アクセント変えてカタカナで書いたら、それっぽいだろ」


 それっぽい? 何っぽいんだろ?


「ああ、いいんじゃないか。ザッシュ」

「でも、それだけだと物寂しいな。もう一単語くらい欲しいかな」


 宮ノ尾さんと赤鐘さんまで。


「じゃあ、他になんか飼ってる生き物いるか?」

「俺んちには文鳥がいる」

「ザッシュぶんちょう……。ないな。他には?」

「目の前にいるだろ」

「ザッシュネコ? 黒、サバ白、ハチワレで、……ザッシュブラック、ザッシュサバシロ、ザッシュハチワレ……、どれも微妙だな」


 ザッシュは決定なのか。


「動物は離れたほうがよさそうだな。ほかに」

「凪! そろそろお夕飯だけど、お友達も食べてくわよねー? 今日は鮭の西京焼きとごった煮だから早くいらっしゃいー」

「ああ、もう分かったよ」


 伊与里先輩のお母さんが、遠くの方から呼びかけている。どこの母親も同じなんだな。母親と話している時の先輩も、普通の高校生っぽいし。


「ザッシュ西京焼き、ザッシュごった煮。……ザッシュゴッタニは、もう少しって感じだな」


 赤鐘さん、まだやってたのか。


「……ザッシュゴッタニ、……ザッシュゴッタ……、お、それっぽくね?」

「おお、いいじゃん。ザッシュゴッタ」

「ザッシュゴッタ。これでいくか。新しいバンド名!」

「よし! 決定だな! これでゆっくり夕飯が食える」


 決まったらしい。ザッシュゴッタに……

 なるほど。こうやって、珍妙なバンド名が出来上がっていくのか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ