表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/133

アコースティックギター

 

 宮さんが欠伸しながら、部屋からでてきた。


「おはよーさん」

「おはようございます」

「おーっす」

「おはよう」

「ん?……あ!遠岳のばあちゃん?…っ、お邪魔してます!」


 寝ぼけた感じだった宮さんが、ばあちゃんの存在に気づいてシャキリと姿勢を正す。


「いらっしゃい。ふふ、宮ノ尾くんね?洋ちゃんから聞いていたから一目で分かったわぁ。よろしくね」

「そうなんですか。洋太くんはボクのことなんて言ってました?」


 笑顔の宮さんが、変なことを聞く。


「シベリアンハスキーみたいだって」

「ほおぉぉ」


 ばあちゃん、なんで言うの。


「いや!あのですね!見た目のことで」

「……見た目がシベリアンハスキー?髪の色?目つきか?」


 宮さんの眉が寄る。


「俺のことも一目で分かりましたよね?なんて言ってたんですか?」

「赤鐘くんのことはセントバーナードって」

「セントバーナード……、大きさか」

「もしかして全員を犬で例えてるのか?じゃあ、もう一人の伊与里凪のことは何て?」

「聞かなくても……」

「伊与里くんはプードルね。プードルみたいな愛らしい男の子って、どんな感じなのかしら。会うのが楽しみだわぁ」


 ばあちゃんが嬉しそうに微笑む。


「ブフッ」

「一点だけで、特徴を捉えすぎだろ」


 宮さんと将さんが堪えきれずに笑い出す。

 先輩たちを連れていくって言ったら、どんな感じの子たちなのか、ばあちゃんが聞いてきたから答えただけなのに。


「ばあちゃん、……もう、やめ……」

「プードルね~」


 背後から地を這うような低い声が聞こえてくる。


「……起きてたんですか。伊与里先輩」


 振り返ると、ぼさぼさの髪の先輩が縁側に立っていた。笑顔が怖い。


「まあ、君が伊与里くんね!イメージ以上ね!いつも洋ちゃんがお世話になってます」

「あ、こちらこそお世話になります」

「焼きたてパン買ってきたから、朝御飯にしましょう」


 ばあちゃんが先輩の毒気を抜いてくれて助かった。




 朝食をとると、先輩たちはチラシの中から選んだバイト先に向かった。

 伊与里先輩はカフェ、

 宮さんは大衆食堂、

 将さんは漁港手伝いとノヤギの捕獲仕事、……ノヤギの捕獲って、どういうバイトなんだろう?


 残ったバイトのチラシを見ながら居間でまったりしていると、ばあちゃんが冷たいカフェオレを淹れてきてくれた。


「洋ちゃんは、バイトいいの?」

「豊増さんが始めたカフェを手伝うことになってるよ。あとは畑仕事と時間を見つけてできそうな仕事をやろうかなって」

「そうかー、洋ちゃんも、もう高校生だものね」


 なぜかしみじみし始めたばあちゃんに困ってしまう。


「そうだ!ばあちゃんちにあるギター貸してくれない?」

「ギター?ああ、あれね。どこにしまったかしら?」


「そうそう」と言いながら北側の部屋に入っていったばあちゃんが、見覚えのあるギターケースを抱えて戻ってきた。


 オレンジ色のギターケースを開くと、甘い香りが広がる。

 手にしたアコースティックギターを、改めてじっくり眺める。

 今まで気にしたことなかったけど、謎の多いギターだよな。見た目は普通のアコースティックギターだけど、ヘッドの部分を見るとロゴはなく、指板の表面についてるポジションマークはウミガメの形をしている……

 メーカーがどこか分からない。もしかして、オーダーメイドのギターなのかも。


「ねえ、ばあちゃん。このギターって誰のなの?」

「……誰のって、……洋ちゃんのよ」


 ちょっと困った顔になったばあちゃんが微笑む。


「シロさんが島を出ていくときに、置いていったのよ。洋ちゃんに渡してほしいって言って」

「あのギター、シロさんのだったんだ」

「シロさんからのプレゼントだって言いたかったんだけどね。言わないでほしいってシロさんに頼まれてたの。洋ちゃんがギターを見て寂しがると思ったのね。優しい人だったから」


 そうか、このギターはシロさんの。

 シロさん……。シロさんが島を出て行ってしまった時は、ショックだったな。


「もっと早く洋ちゃんに渡さないといけなかったのにね。つい、渡しそびれちゃって。このギターがうちにある間は、洋ちゃんが遊びに来てくれるかな、なんて思ってしまって」

「ギターがなくても帰ってくるよ」


 変なこと言うばあちゃんだな。


「ふふ、そう、ね」


 ばあちゃんが嬉しそうに笑う。


 ギターはシロさんからのプレゼントか。そうなると、このギターは謎のCDとは関係ないってことか……

 でも、もしかしたら……


「じゃあ、あのCDも、もしかしてシロさんの?」

「CD?」

「ボクがよく聴いてた」

「ああ、あのCDね。シロさんから預かったのは、ギターだけよ」

「そうかぁ。あのCDの持ち主が知りたいんだけど、誰か思い浮かばない?」

「う~んん、そう言われてもねえ。洋ちゃんのものかと思ってたくらいだし」

「……分からないか」


 ばあちゃんも知らないCD。

 何で家にあったのかさえ、分からないCDかぁ。何なんだろう。あのCDは……


「シロさんだったら、何か知ってるかもしれないんだけどなぁ。連絡先分からないしなぁ」

「メールアドレスなら聞いてるわよ。今でも使ってるかは、分からないけど」

「教えて!シロさんの連絡先!」


 ああ、でも、いきなりメールを送ったりしたら迷惑かなぁ。でも、もう一度、話したいな。シロさんと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ