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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章
7/133

予定

 

「5月にライブやるから」


 バンドメンバー全員で文化会館に集まって練習中、いきなりイヨリ先輩が言い出した。


「急だな。今からハコを押さえられるのか?」


 アカガネさんが怒るでもなく水を飲みながら、イヨリ先輩に視線を向ける。


「カムカムチェーンと共演することになってたバンドが、出演できなくなったらしくてさ。いっしょにやってくれるバンド捜してるっていうから名乗り出た」

「ああ、そういう訳ね。カムカムチェーンなら客の入りもいいだろうし、悪くない話だな」


 ハコ? カムカムチェーン? よく分からないけど、バンドっぽい話してるな。いや、バンドなんだから当たり前だけど、自分には遠い世界の話に思える。


「出演が取りやめになったバンドっていうのは、どこ?」


 ミヤノオさんがギターの弦を拭きながら、問いかける。


「ガールズバンドのニャゴミーだとさ」

「ニャゴミーかぁ。ニャゴミー期待してた客からブーイング受けそうだな」

「ボーカルがアイドルみたいに可愛いっていうんで、男に人気のバンドだもんな。オレたちとは客層が違う」


 人気のガールズバンドのライブか。見てみたかったな。ライブハウスなんて自分には縁遠い場所だと思ってたけど、3人がライブやるなら見に行っても大丈夫だよね。ちょっと楽しみかも。


「客層か……。カイリに付いていたファンは来ないだろうな」

「カイリ?」


 また知らない名だ。


「ああ、遠岳は知らないか。カイリっていうのは、うちのバンドの前のボーカルだよ。ヒメミヤカイリ。母親が音大出身で子供の時からボイトレとかしてたらしくて、オペラ歌手みたいな声が出せる奴でさ」

「見た目もよかったから、女性ファンが多くついて、チケット捌くの楽だったな。その分、男に人気はなかったけど」


 そういうバンドだったのか。オリジナル曲を聞いた感じでは、割とロック寄りな感じだったから硬派なバンドなのかと思ってた。

 聞かせてもらった曲は歌声の入ってないデモだけだから、前のボーカルの声が入ると違うのかな?


「あの、オリジナル曲のデモだけじゃなく、そのカイリさんのボーカルが入った状態の音源はないんですか? 聞いてみたいんですけど」

「ああ、それはダメだな。歌い方が似ると意味ねえだろ」


 意味がない? ……何がダメなんだろ? イヨリ先輩の言うことは、相変わらず、よく分からない。


「思ったんだけどさ。ボーカルが変わったわけだし、バンド名も変えたほうがよくないか? トオタケとヒメミヤじゃ、同じ歌を歌っても全くの別もんだし、前と同じバンドと言うには無理がある」


 アカガネさんが新たな提案をする。


「それもそうだな。でも、今回のライブは〝アインザイム″の名前で組んでもらってるから、変えるのは次からだな」

「今回は、新ボーカルと新バンド名のお披露目って感じにすりゃいいんじゃねえの。今からバンド名を変えて、一から客集めはきついし、利用できるもんは利用しないとな」

「おう、トオタケ、しっかりアピールしてくれな。次のライブに客を引っ張ってこれるようにさ」

「え? ボクですか? ボクも何かするんですか?」


 ボクの疑問に、3人とも時が止まったみたいに、微動だにしなくなった。

 沈黙が続く。どうしたんだろう?


「……トオタケ、分かってるよな?」

「えっと、何をでしょうか?」

「今度のライブは、トオタケの初ライブになるんだってこと」


 ボクの……初ライブ?


「まさか、ボクが歌うんですか?!」

「他に誰が歌うんだよ……」

「いや、だって、今日初めてまともに練習した程度のボクに、そんなこと言われても……」


 無茶ぶりすぎる。全く覚えてないよ。歌もギターも。練習にもついていけてないのに、何を考えてるんだ? この人たち……


「ライブやるって言っても全く動じてないから、度胸があるのかと思ったら理解してなかっただけか」


 3人が大きくタメ息をつく。


「初ライブがそれなりに客の入るカムカムチェーンと共演というのも気の毒ではあるよな」

「あの、そのカムカムチェーンというのは?」


 アカガネさんとミヤノオさんが交互に見ながら質問する。


「インディーズでやってるこの辺では、かなり有名なバンドだよ。硬派なパンクロックグループでさ。熱烈ファンもついてるような」


「その割に、気さくでさ。若手とかともライブで共演してくれたりするんで、慕われてる感じだな」


 なんか思ったよりすごそうなバンドなんだ。


「ほかにも演奏するバンドがいるのは心強いだろ? 気楽にやればいいからさ」


 イヨリ先輩が笑顔を浮かべて、励ますようなことを言ってくる。ほかの二人を見ると、気まずそうに視線を逸らしてしまう。

 イヨリ先輩が言うような、気楽にやれるものじゃないということが、二人の表情から漂ってる。


「トオタケ、そういうわけだから、これからライブまで毎日練習な」


 さらに笑顔を深めたイヨリ先輩が胡散臭いものにしか見えなくなる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の導入の切り口が斬新 [一言] どんなバンドになるか楽しみです
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