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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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準備

 

「明日の船に乗るんだよね?時間は確認してある?お友達の分も酔い止め用意してあるから、乗船する前に必ず飲んでね。あとは……」

「島で買えないような食料品は宅配で送ってあるけど……。他に必要なものあるかしら?ギターは持っていくんでしょ?」


 小笠原のばあちゃんちに行く準備をしていると、姉ちゃんと母さんが交互にやってきては、あれこれ言っていく。

 昨日までアカフジの最終審査ライブのことだけで手一杯で、何も用意してなかったから心配してくれてるんだろうけど。


「大丈夫だよ。準備は万全だよ。あとは島で買えばいいし」


 姉ちゃんの心配症は母さん以上だ。


「寅二郎ちゃんはもう準備できてるのにね」

「ぅあん!」


 母さんが声をかけると寅二郎が尻尾を振りながら返事した。


「え?寅二郎?」

「え?って、寅二郎ちゃんも連れて行くんでしょ?毎年、連れて行ってるじゃない」

「今年は先輩たちもいっしょだから……」


 まあ、先輩たちは動物好きだから大丈夫かな?猫とよく戯れてるし。


「あまり遊んであげられないと思うけど……」

「ここにいるよりはいいよね。散歩好きの寅二郎ちゃんに東京の夏は過酷すぎるもの」


 姉ちゃんが寅二郎の頬をわしゃわしゃと撫でると尻尾が回転しだした。

 小笠原諸島はここから遥か南にあるけど、夏の間は東京より気温は低いから過ごしやすい。島の周りに海しかないからだろうか?


「寅二郎とギターを背負って、電車で行くのは大変でしょ?お父さんが港まで車で送ってくれるって」

「父さん、最近忙しそうだけど大丈夫なの?」

「休みだから大丈夫、大丈夫」


 母さんが安請け合いしてもなぁ。父さん、すぐに仕事だって、予定変更になるからなぁ。


 スマホが鳴る。

 宮さんからだ。


 〈これから凪たちと必要なもの買い出しに行くから遠岳も来ないか?〉


 ギターの弦を買いに行こうと思ってたし、ちょうどよかった。

 行くと伝えて出かける準備を大急ぎでする。


「先輩たちと買い物に行ってくるね」

「気を付けるのよー」


 外に出ると、照り付けるような日差しで汗が噴き出してくる。夏が始まったんだなぁ。



 待ち合わせ場所の駅前には、すでに先輩たちが顔をそろえていた。


「おはようございます」

「おう、来たか」

「まずはどこに買いに行くか?」

「スポーツショップだな。水着とシュノーケルと他にも……」

「ショウグン、遊ぶ気満々だな」


 呆れたような口ぶりだが伊与里先輩も買うつもりのようで、みんなで総合ディスカウントストアに行くことにした。あれこれ見て回って必要なものを捜していくには最適だ。


「遠岳、小笠原に持っていった方がいいものってなんかあるか?」


 夏のレジャーコーナーを物色していた将さんが尋ねてきた。


「思っている以上に日差しが強いので、日焼け止めは必須です。あとは海で遊ぶなら、ウォーターシューズなんかも」


 東京なら安売り店がいくらでもあるけど、小笠原にはない。食べ物以外は東京より高めなことが多くて、売っている物も限られてくる。通販は時間も送料もかかるし、買える物は買っていった方が賢明だ。


「遠岳は何を買うつもりなんだ?」

「寅二郎のライフジャケットと靴と……」

「寅二郎?」


 訝し気に伊与里先輩が眉を寄せたことで思い出した。寅二郎のこと、言ってなかった。


「あ!うちの犬です。毎年、夏休みには小笠原にいっしょに行ってたので。寅二郎もいっしょに連れて行ってもいいですか?」

「ああ、噂の雑種犬。そりゃあ、かまわねえけど」

「犬と海で遊んでみたかったから、オレは大歓迎」

「どっちかっていうと、ワンちゃんに俺たちもいっしょに行っていいか聞く立場だしな」


 伊与里先輩も宮さんも寅二郎といっしょでも不満ないみたいだ。将さんも笑っているし。よかった。寅二郎、海では困った行動を取ることもあるけど、先輩たちなら頑丈だし大丈夫だろう。



「あとは、服だな」

「服ですか?」


 買い物袋を手にした将さんが、次に買いたいものを上げる。


「南の島に行くのに、いつも着ているような服じゃ様にならないだろ」

「……いつも着ているような服で大丈夫ですよ?」

「遠岳は南の島を何だと思ってんだ?人生舐めてるのか?」

「何を言ってるんですか?」


 将さんがワケ分からないこと言いだした。


「夏に南の島で過ごすんだぞ。アバンチュールな夏!どんな出会いがあるか分からないだろ。女性受けのいい服を着ていくのは、紳士のたしなみ……」


 話の途中で、将さんがなぜかボクから視線を逸らした。


「……伊与里、お前の後輩が、俺のこと虫けらを見るような目で見てくるんだけど」

「ああ、オレもよくそういう目で見られるよ」

「見てないですよ。そんな目で」


 伊与里先輩に言いつけなくても……


「服買いに行くって、いつも買ってる店はこの辺にないしな。今から行くのも」

「先輩たちって、自分で服を買ってるんですね」


 行きつけの服屋があるんだ。


「「「え?!」」」


 先輩たちが一斉にボクを凝視してくる。


「あ、なんでもないです」


 そうだよな。高校生なんだし、自分で服は買うよな。過保護な姉ちゃんと母さんが服を買ってきちゃうから、自分で買ったことあまりなかったから、そんなものだと思ってた。


「遠岳、まさか、……まだ」

「なんでもないです!気にしないでください!」

「遠岳……」


 哀れむような眼で見てこないでほしい。バカにされたほうがマシだよ。


 将さんが駄々をこねて、服を買いに行くことに。

 予定にない物まで買ってしまって、思いのほか大荷物になってしまった。


「他に買うものは……」

「ギターの弦を」

「ああ、それはオレもだ。じゃあ、楽器店に行くか」

「楽器店は島になさそうだもんな。こっちで揃えていかねえとなぁ」


 小笠原に行くのはバンド練習の合宿も兼ねているので、忘れたら意味がなくなってしまう。念のため予備の予備も持っていきたい。


「ショウグンはどうすんだ?ドラムは持っていくのか?」

「いや、遠岳が借りられるって連絡くれたんで用意してないんだけど、大丈夫なんだよな?」

「はい、ばあちゃんが知り合いのおじさんに話したら、古いドラムで良ければ貸してくれるそうで」


 父島は観光地なこともあって音楽イベントが盛んだ。ドラムセットを持っている店や人もそれなりにいたりする。


「おう、そりゃあ、助かるわ」

「……ただ」

「……なんだ?そこで言葉を止めるなよ」

「ばあちゃんが言うには、妙なことを頼まれる可能性があるそうです」

「………まあ、そのくらいは」


 将さんの顔が若干引きつったが、すぐに気を取り直したみたいだ。島の人なので、あまり無茶なことは言わないだろう。……たぶん。



 楽器店は珍しくにぎわっていた。将さんに荷物を見ていてもらって大急ぎで買い物をする。今日はヤコさんはいないみたいで、ちょっと残念。

 買い物を終えて、先輩たちと明日の待ち合わせ場所を確認し合って解散となったけど。いつもと違って、準備だけでも大わらわだったな。



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