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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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リハ

 

 大人な感じの女性が行き交うオシャレな広場を通り抜けていく。

 左右に煌びやかな店が立ち並んでいる広場は人であふれていて、前になかなか進めない。買い物客とライブの観覧者が混じっている感じだ。

 楽器を持っているのは、最終審査ライブの出場者だと思うけど……。自分たちとは雰囲気からして違う。醸し出している空気感が経験豊富な玄人って感じだ。しかもみんな貫禄がある。場慣れしているというか……


「なんか強そうな人たちばかりですね……」

「強そう?」


 あ、表現を間違えた。貫禄がある、だな。


「まあ、確かに強そうなのがいるな」


 ……伊与里先輩が同意してきた。


「あの辺なんか、プロレスラーだよな」

「バイカーギャングっぽいのもいるな」


 先輩たちの視線の先をみると、確かにいた。黒いTシャツにタトゥーの体格のいい人たちや、髭に長髪で黒い革のベストのようなのを着ている人たちと、どちらも強そうだ。その人たちも楽器を持っているので出場者だろう。


「まあ、うちにはショウグンがいるから、強さ度でも負けてねえな」


 伊与里先輩が張り合いだした。


「オレは見た目だけじゃなく、それなりに強いからな。乱闘になっても、そうそう負けはしないから安心しろよ」


 将さんに軽く背を叩かれる。……安心しろと言われても。ライブで乱闘になることなんて……。もしかして、あるの?




 広場を抜け茶色の箱型の建物の前に来た。ここが会場か。

 落ち着いた感じの内装だな。出場者たちの個性的なファッションとはちょっと合ってない感じもする。

 ゲームキャラのようなヴィジュアル系、パンクファッション、ゴシック系、ヒップホップ系。スーツのバンドはこの場に似合ってるな。

 ここにいるのは全員出演者なんだよな。アカフジ出演をかけて争うライバル……



「受付してくるから、お前らはその辺をうろついてろよ」


 将さんが一人、人だかりができている場所に向かっていく。


「うろついてろって……犬じゃないんだから」


 将さんの言葉に宮さんががくりと肩を落とす。


「んじゃあ、うろつくか。会場がどんな感じなのか知っておきたいし」

「あ~、そうだな。ホールに入れるなら見ておいた方がいいよな」


 伊与里先輩たちが歩き出す。

 うろつくのはいいんだけど、先輩たちは気にならないんだろうか……。周囲から、ものすごく見られてるんだけど……

 場違いだって思われてるんだろうなぁ。



 開かれている扉をくぐると、体育館を広くしたような場所に出た。


「広いですね……」


 練習でいつも利用している文化会館の大ホールと同じくらいの広さがありそうだ。


「アカフジの審査ライブは人気あるからな。この広さでも、すぐに埋まっちまうらしいぜ」

「そうなんですか。埋まるんですか……」


 つまり会場を埋め尽くすほどの観客の前で歌うってことか……



「ここ、音響は大丈夫なんかぁ?バスケでもさせる気ちゃうやろな」

「多目的ホールやろ?音楽やるのに向いとんのか?」

「なんちゅーか、今年のアカフジは信用できへんよなぁ」


 関西弁?ホールに響き渡るほどの大声で話しているのは、黒いTシャツにタトゥーの強面な人たち。


「あそこにいるの『脳天レッド』だよなぁ」

「オーディション的なのには、ぜってえ出ないタイプだろ。何でいるんだ?」


 近くにいたパンクファッションのグループが、ホールの中心にいる黒Tシャツタトゥー集団のほうに視線を向けて声を潜める。


「去年あたりから解散の話も出てたし、尻に火が付いたってところだろ」

「実力はあるからな。いつもなら選ばれる可能性は高かったけどな。今年は、どうだろうな」


 噂話をしていたパンクファッションたちが、チラリとこちらに視線を向けてくる。非難交じりの視線なことは想像がつく。

 そこら中で、不満が渦巻いてる感じだ。



 リハの時間になり、ステージ裏に向かうと、前の人の演奏が聞こえてきた。今回は出演順の後ろからやっていく逆リハだから、今、演奏している人たちは、本番では自分たちの後に出場することになるんだよな。

 女性二人組。ボーカルなしのサックスとギターのデュオのようだ。存在感あるな。サックスとギターだけなのに。

 ステージパフォーマンスなのだろう。大きく身体を反った時、サクソフォンがマイクにぶつかってしまった。マイクスタンドが倒れ、耳障りなハウリングが会場をつんざいた。


「すみません!」


 サックス奏者が慌ててマイクを拾おうとして、転がっているマイクを蹴ってしまう。また、ハウリングが起こる。


「うるせー!何やってんだよ!!」


 どこからか怒号が飛んできた。ステージの二人が竦むのが見えた。

 うまいのにな。あんな風に怒鳴りつけられたら本番で委縮してしまいそうだ。……もしかして、それが目的なのか?


 沈んだ様子でステージを降りていった二人組と入れ違いに、先輩たちが上がっていく。ただのリハなのに緊張してくる。ピリピリした空気が会場全体に広がっている気がする。


「遠岳、時間ねえから、歌わずに軽く声だけ出しとけ」

「は、はい」


 出演者が多いので与えられるリハ時間は短い。各パートのサウンドチェックができるくらいの時間しか与えられていない。ベテランが多いので、リハに時間をかけなくても問題はないらしい。


 マイクの前に立つと黒Tシャツタトゥーで髭の人が目の前にいた。ノーテンキレッドだったかな?腕を組んで、こちらをじっと見ている……。すごい気になるんだけど……

 緊張で手に汗がにじんできた。

 ギターの音出しを求められ鳴らしていると,ピックが汗で滑って弾け飛んで行った。ステージの下に落ちていく。最悪なことにタトゥー髭の人の足元に……

 どうしようかと悩む前に、髭タトゥーにピックを踏みつけられてしまった。

 ……予備のピック、たくさん持ってきておいてよかった……


 リハが終わった。なんか、もう……、心身ともに疲れた。音を鳴らすのが怖いと思ったのは始めてた。あの空気苦手だな。

 ……まだ本番があるんだよなぁ……



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! いよいよオーディションで緊張感が高まってきましたね! [気になる点] 先輩方……さては,わざと遠岳に歌わせなかったな?
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