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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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最終選考ライブ

 

 今日から夏休み。そして、

『RED FUJI MUSIC』最終選考日

 会場は恵比寿のイベントホール


 昨夜は、なかなか寝付けなかったのを寅二郎に嗅ぎつけられてしまったため、夜中に遊びに付き合うはめになったけど、おかげでぐっすり眠れた。体調は万全だ。


 先輩たちと待ち合わせして会場へと向かう。恵比寿駅に来たのははじめてでどっちに行ったらいいかもわからないので、先輩たちの後についていく。


「ええっと、この動く歩道に乗って行きゃいいのか……」

「楽器を持って、歩かなくていいのはいいな」


 動く歩道には楽器を持っている人たちが何組もいた。この人たち全員、アカフジの最終審査ライブに出る人たちなんだろうか?なんか緊張してきた。


 歩く歩道から外が見える。ガラス窓の向こうは、雨が止んで、雲間から青空が見えてきている。


「……長いな」

「どこまで続いてんだ?」


 伊与里先輩たち、飽きてきたな。

 動く歩道を降り、次の歩道に乗ろうとしたら、背を押された。


「おい、邪魔なんだよ!」

「あ、すみません」


 咄嗟に謝ったけど、邪魔はしてないと思うんだけど……。自分を追い抜いていく赤や青の髪をした集団も、ギターケースを背負っている。出場者か……


 前に割り込まれ、先輩たちと離れてしまった。


「チィ、ガキがなんでいんだよ」


 目の前に立っている赤い髪の人物から発せられた言葉に思わず顔を上げると、目が合ってしまった。すぐに視線はそらされたけど、不快感を表したつぶやきは、明らかに自分に向けられていた……


「ギター持ってるってことは、アカフジの選考ライブに出るのかよ。アカフジだけは、日和らないと思ってたのによ」

「ガキを取り込みたいんだろうぜ。落ちぶれたもんだよなぁ。実力者しか出さないっていうのが、アカフジの売りだったはずがよぉ」


 聞こえよがしに前の集団が、中傷交じりの不満を口にしだす。動く歩道で距離を取ることもできない。まいったなぁ。この人たちもアカフジの最終審査ライブに出場するみたいだけど……。敵意むき出しで怖いよ。


「お、はぐれてはなかったな」


 将さんの声が狭い通路内に響いた。動く歩道の終わりのところで、先輩たちが待っていてくれた。陰口を言っていたバンドマンたちは、将さんの姿が見えた途端、大人しくなって気まずそうに走っていった。

 バンドマンというより重量級格闘家のような見た目だものな。将さん……


「もしかして、今の奴らになんか言われたか?」

「……ええっと、まあ…」


 なにかと目ざとい宮さんに聞かれ、どう答えようか悩む。直接、絡まれたわけじゃなく愚痴のような感じで言われただけだからなぁ。でもバンドに関わることだし、話した方がいいか。

 歩きながら、簡単に会話の内容を話す。


「あ~、そういう……」


 将さんが眉を寄せる。


「アカフジは他の音楽フェスと毛色が違うからな。そういうこと言う奴もいるだろうとは思ってたけど…」

「毛色が違うというのは?」


 他の音楽フェスのことをよく知っているわけじゃないから、いまいちピンとこない。


「アカフジは音楽好きな奴らが集まって運営してるフェスで、日本で最も出場するのが難しいフェスって言われてんだわ。人気があっても曲の完成度の低いアーティストは出られない。アイドルは一度も出たことがなかったんじゃねーかな」


 音楽フェスにはアイドルや人気歌手が出るのは当たり前だと思ってた。祭りに盛り上げ役というのは必要不可欠というか、そんなイメージだったんだけど。アカフジというのは、そういうんじゃないんだ。格式があるというのかな?思っていた以上に厳しいフェスなんだな。


「だからこそ、インディーズやメジャーでくすぶってる連中にとって、アカフジ出演は特別な意味があるわけよ。アカフジにでたってだけで箔がつくからな。しかも、アカフジに来る客は、音楽フリークや、業界関係者が多くて、チャンスを掴める機会が転がってるようなもんなんだよ」


 伊与里先輩が皮肉気な笑みを浮かべ説明してくれる。


「鳴かず飛ばずで解散を考えてたバンドが、アカフジにでて業界関係者の目に留まって、一躍人気アーティストの仲間入りしたって話は、割と聞く話だよな」


 前を歩いていた宮さんが、ギターを背負い直す。

 アカフジのこと、みんな詳しいんだな。自分が知らなすぎるだけか……


「そういうアカフジに懸けてる連中にとって、素人高校生バンドが出場するのは受け入れ難いんだろうよ。たとえ、オーディションといっても。実力で選ばれたわけじゃなく、同世代に人気があるだけか、話題性があるだけとしか思えない。そんな選考基準じゃ、アカフジの格が下がるってところか」


 高校生バンドの実力なんて大したものじゃないと思われてしまうのは仕方ないか。長年音楽に打ち込んできた人たちからしたら、高校生バンドは経験不足のアマチュアでしかないよな。先輩たちの腕はアマチュアレベルを超えているとは思うけど、ボーカルがボクなわけだし……


「ええっと、……ということは、ザッシュゴッタが選ばれたのは話題性ということなのでしょうか……」

「さあな、そこんとこは分かんねえな。実際、オレらはそこそこネットで話題になってるわけだから。違うとも言い切れねえ。でも、ま、チャンスはチャンスだからな。実力を示して選ばれればいいだけのことだろ。それで全て丸く収まるから問題ねえよ」


 いや、それが問題なのでは……。示す実力がないような……

 伊与里先輩、ボクがボーカルだってこと忘れてるんだろうか……



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