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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章
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部活

 

 リズムが取れてないと言われてから、家ではギターの練習をずっとしている。イヨリ先輩に教わった練習法のおかげで、上達している実感がある。ギターを弾くのがこんなに楽しいと思ったことは、今までなかった気がする。

 今はギター練習に力を入れたいので、部活はあまり活動してない所に入ることにした。


「写真部にしよう」


 写真部は幽霊部員も歓迎の部で、たまに顔を出すだけでいいらしい。それに、写真をうまく撮るコツを教えてもらえるのも魅力だ。

 入部届を出しに、写真部の部室になっている化学準備室に向かう。


「君、一年?」


 人気(ひとけ)のない薄暗い廊下を歩いていると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「手に持ってるの入部届だよね?まだ、どこにも入部してないの?」


 女性の声だ。廊下に人影はない。一体どこから?


「君のこと、知ってる」


 ええ?!なに、怖い。


「ギター持って、文化会館に入っていったよね?見たよ」


 えええぇぇ、なに?お化けのストーカー?!怖い!怖い!

 辺りを見回すと、数歩先の扉が10センチ程度開いているのに気付いた。その扉がゆっくりと開いていく。

 髪の長い女性が扉の隙間から、ぬったりとでてきた。怖い!


「さあ、中へ。お話ししましょう」


 手招きしてる。手招きしてるよ。

 逃げようと背を見せずにジリジリと後退していたら、長い髪の女性がいる部屋から別の女性の声が聞こえてきた。


「どうしたの?あ!もしかして、入部希望者?どうぞ、入って、入って」


 髪の長い女性を押しのけるように現れた眼鏡女子が、にこやかに招き入れてくれた。招かれても困るんだけど。


「あの、ボクは入部希望では」

「さあ、さあ、入って」


 断り切れず、中に入ると物置きのような場所に机と椅子が置かれていた。


「ようこそ、伝統文化部へ」

「伝統文化部?」


 聞いたことない部だな。


「伝統文化部は日本の伝統文化を学ぶ部です。茶道、華道、着物の着付けを中心に活動しています」


 どうしよう。興味ない。


「男の子が入ってくれるなんて嬉しいなぁ。女子部員しかいないから寂しかったんだよね」

「いえ、ボクは写真部に」

「兼部もOKだよ!うちの部は週2だけの活動だから忙しくないし!」

「練習やなんやで、週1ででるのがやっとだと思うので……その…」


 バンド活動だけじゃなくバイトもしたいし、週2でもでるのは無理だろうな。


「シホちゃん、彼、ギタリストだよ」


 髪の長い女性が、眼鏡女子にそそっと近づき耳打ちした。


「ギタリスト?!じゃあ、三味線や琴も弾ける?」

「弾けないです」

「でも似たようなものだよね?ギターが弾けるならイケるんじゃないかな?」

「そうだよね。そう思う」


 弾けないって言ってるのに、女生徒二人がなぜか満足そうに頷き合っている。

 眼鏡女子が、眼鏡をクイっと上げて微笑みかけてきた。


「では、こうしましょう。文化祭の時だけ出てきてくれればいいことにします!これなら大丈夫ですよね?」

「文化祭にだけって言われても」


 確かに楽そうではあるけど。何も知らずにいきなり文化祭で茶道や華道をしろと言われるのも、それはそれで困る。


「伝統文化部といっても、実質、茶道部と華道部が合体したようなもので、活動内容は地味なんだよね。文化祭では訪れてくれるのは、友人と先生くらい。何か打開策をと思っていた時に、学校に和楽器を寄付してくれた方が現れてね。これは我が部でぜひ活用したいと思ったんだけど……」

「部員の誰一人、和楽器を弾ける人はいなかったの」


 ……まあ、大抵は中学の授業で触ったことがある程度だよね。うちの中学では和太鼓と琴を少し触れた程度だったな。


「そこに現れたのが、君!楽器を弾きこなせる君が入部してくれれば、存在感のない我が部も華やかで目立つ部に変身できるのだよ」

「茶会で優雅に三味線で伝統音楽を奏でてくれるだけでいいの」

「いや、だから、弾けないと言っているのですが……」


 話を聞いてほしい。ギターだって、まだ一人前とは程遠いいのに。三味線まで弾きこなすなんて無理。


「でもね、君は我が部に入部するしかないよ。だって、君は写真部には入れないから」

「え?どういうことですか?」


 長い髪の女生徒がボクを指さし、不吉な予言めいたことを言い出した。


「知らないの?写真部では幽霊部員を認めてないよ?」

「え?でも、聞いた話だと、幽霊部員歓迎だって」

「情報が古いようだね。写真部は昨年大幅リニューアルをしてね。SNSで注目される写真や動画を撮るコツなんかを教えるようにしたら、それまで写真オタクの巣窟だったのが、美女やイケメンが集う社交的な部に様変わりしたんだよ」

「今や、文化系部活の中でも、一、二位を争う人気の部だから、幽霊部員なんて許されないよ」


 知らなかった。


「どこの部も幽霊部員に厳しくなってるからねぇ。サボる前提で部を探すとなると、うちか天文部くらいしかないんじゃないかなぁ」

「天文部……」


 もれなくイヨリ先輩がついてくる天文部……


「うちならお茶とお菓子付きだよ。面倒なこともないし、和楽器なんてこんな機会ないと触れる機会ないと思うんだよね。いろいろ経験できる素晴らしい部だと自信を持ってお勧めできる部なんだけど」


 眼鏡先輩がこぶしを握り締め、穴が開きそうなほどボクの顔を凝視してくる。

 他に選択肢はなさそうだし、ほとんど出ないなら、ここでいいかな。


「……伝統文化部に入部します」


 考えたこともなかった部だけど、大丈夫だろう。


「……ほんと?入部してくれるの?………やったぁぁ、やったよ。ヨッシー」

「シホちゃん!やりましたね。待望の男子部員!」


 手を取り合って喜んでくれる二人の姿に、部に入ってよかったと、ちょっぴり思う。眼鏡女子と視線が合うと、コホンと咳払いして姿勢を正し、こちらに向き直った。


「申し遅れました。私、伝統文化部部長で二年の杉崎(スギサキ)志穂(シホ)です。気軽にシホって呼んでね」


 眼鏡女子は部長だったのか。


「それで、うちは副部長で二年の小松(コマツ)由乃(ヨシノ)。ヨッシーって呼んでいいよ」


 長い髪の女生徒が、副部長か。


「ボクは一年の遠岳 洋太です。よろしくお願いします」

「遠岳くんね。これからよろしくね」

「よろしく~」


 和やかな空気が流れる。案外、自分にあってるかも。伝統文化部。

 幽霊部員でいいと言ってもらえたけど、入部したからには色々聞いておいたほうがいいよな。


「伝統文化部は普段どんな活動してるんですか?」

「お茶の先生が週一で来てくれて基本を教わってる感じかなぁ。真面目にやれば、お免状も取れるよ。華道のほうは、……実は予算がなくて月一なんだけどね。基本的なことは教えてもらえるし、花の知識もついて楽しいよ」

「そうなんですか」

「まあ、基本、先生が来るとき以外は、部室でダラダラしてるだけかな!」

「遠岳くんも部室は自由に使っていいからね」


 思ったより、良い部に入部できたかも。



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