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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章
51/133

似ている?

 

「そういや、昨日、どうだったんだ?」


 そのまま、のんびり庭でサイダーを飲んでると、宮さんが世間話のように聞いてきた。


「どうだったと言われてもな。…小遣い5万貰ったかな。な、遠岳」

「え、まあ」


 伊与里先輩、なぜお金の話からするかな。


「5万!?何してきたんだよ。お前ら」


 将さんが疑惑の眼でボクたちを見てくる。


「何もしてないです。歌っただけです」

「歌った?なんで?」


 何でと言われても、……何でだろう?いつの間にか歌うことになってたんだよなぁ。


「状況が分かんねえな。詳しく話せよ。ストーカー外国人と何を話したんだ?」

「話したのは、ストーカーの母親とだけどな」

「母親と?」


 伊与里先輩が話せば話すほど、二人は怪訝な表情になっていく。


「それで、その母親が、アラリコ・マルチェナの奥さんのジャクリーンだったんだけど」

「……アラリコ・マルチェナ?」

「映画『ガウディの秘密のショーケース』の主題歌を作ったシンガーソングライターだよ」

「ああ、その映画なら知ってる。あの曲か」

「映画は観たことねえけど、曲は知ってる。あの曲いいよな。民族音楽が混じった感じで」


 音楽の話になると、全員が楽しそうに話し出すが、横道にそれていくことも多い。


「ええっと、つまり、ストーカーの母親がアラリコの奥さんだったんだよな?」

「そう、それでストーカーの母親ジャクリーンの前で歌ったんだよ。遠岳がアラリコの歌を」

「説明されればされるほど、理解できなくなる……」


 宮さんと将さんが困惑するのも当然だ。事実ではあるけど、伊与里先輩の説明では混乱するだけだ。


「説明するより、聴いた方が早いか。遠岳、『Nap in the Meadow』ちょっと歌ってみろ」

「え?ここで歌うんですか?」


 伊与里先輩が唐突なこと言いだすのは、いつものことだけど……。歌うことに何の意味が……


「伴奏してやるから」


 伊与里先輩が部屋からアコギをわざわざ持ってきて準備をはじめる。みんなで部屋に入ればいいと思うんだけど……。宮さんと将さんまで、ボクを見たまま動かない。


 何で歌わないといけないのか理解できないまま歌うのは、ホテルの時と同じだな。ギターが鳴り出す。外なのでいつもより音が拡散していく。




 先輩たちだけなので緊張もなく、ホテルの時よりはうまく歌えた気がする。


「お~、いいな!こういう郷愁を誘う歌、好きだよ」

「アラリコ・マルチェナの曲だよな?いいな」


 将さんと宮さんがうんうんと頷きながら、曲の話をしだす。


「お前ら、なにか気が付くことあったか?」


 そんな二人を眺めながら伊与里先輩が、二人に質問する。


「え?ああ、英語がメチャクチャだったとかか?」

「アコギの音が、少し硬めだったとかか?」


 将さんと宮さんが気が付いたことを言っていくが、伊与里先輩の顔は曇っていく。


「そうじゃねえよ!あ~、ほら、なんだ……」

「なんだよ」


 ……先輩たちの動きが止まる。


「似た印象の曲を思い出したりしなかったか?」


 伊与里先輩がさぐる目付きで、将さんと宮さんを見つめる。


「……似た印象ねぇ。そう言われてもな」

「遠岳が歌うと、どの曲も遠岳の歌になるからなぁ」


 将さんと宮さんともに、これといって思い当たらなかったらしく反応は鈍い。


「ああ、んん~、そうだよなぁ」

「なんなんだよ一体」


 伊与里先輩の意味深な言動に、イラ立ち始めた二人が先輩に詰め寄る。


「……ジャクリーンがいうには、あの懸賞金の歌を作ったのはアラリコ・マルチェナだそうだ」


 伊与里先輩の説明に、驚愕の表情になった二人がボクを見てくるが、困った顔をするしかできない。自分も何が何だか。


「……懸賞金の歌って、遠岳が子供の時に歌ってるあの歌だよな?事実なのか?」

「ボクにも分かりません」


 記憶の中にある謎のCDの歌声とアラリコさんの歌声が同じだったかと言うと、微妙だ。すでに記憶は曖昧で、はっきりと言えることは何一つない。


「その辺は分からない。証拠を見せられたわけでもないしな。遠岳にアラリコの歌を歌わせただけで」


 宮さんの疑問に答える先輩の言葉に首が傾ぐ。


「それが分からないんですけど……」


 ボクにアラリコさんの曲を歌わせて意味があるんだろうか?


「アラリコの歌を遠岳に歌わせて、2つの曲の印象が似てる……、と、言わせたかったんだろうな」

「曲の印象が似てると………」


 ジャクリーンさんには、そういう意図があったのか。曲の印象か。謎の歌とアラリコさんの歌……。似てるかなぁ。


「似てる……か?」

「う~ん、遠岳の歌だけ聴いても判断できねえな。凪はどう思ったんだ?」


 将さんと宮さんは、あまりピンと来なかったようだ。


「………まあ、フッと似た感覚に……、なったよう…な……」

「微妙な感想だな」


 伊与里先輩は何か感じ取ったようだけど、曖昧な感じだ。作曲者が同じかどうかなんて、そう分かるもんじゃないよなぁ。


「原曲を聴けば、はっきりするんだけどな。そういや、遠岳が、あの曲を知ったのは、CDでだって言ってたよな?そのCDはどうしたんだ?」

「子供の時に、割ってしまって、聴くのは無理です」

「あ~、そういえば、聞いたような」


 将さんが残念そうに頭を掻く。


「そのCDだけどさ。遠岳は、どこで手に入れたんだ?」

「ばあちゃんちにあったCDで、詳しいことは知らないんです」


 宮さんが今さらながらな質問をしてきた。そういえば、あの懸賞金が懸けられている歌の事、今まで先輩たちにほとんど尋ねられたことなかったな。


「じゃあ、ばあちゃんに聞けば、出どころが分かるんじゃないか?」

「それが、ばあちゃんにCDのこと尋ねたことはあるんですが、知らないって言ってたので……」


 将さんの言葉に記憶をたどる。CDのことを尋ねた時、ばあちゃんは、あのCDをボクのだと思ってたんだよな……


「ばあちゃんは一人暮らしなのか?他の家族なら知ってたりしないか?」

「一人暮らしです。じいちゃんはボクが生まれる前に海難事故で亡くなってしまっているので、身内は離れて暮らしてるボクたち家族だけです。家族の誰もCDのことは知らないと思います」


 ばあちゃんちにCDを置き忘れて、存在まで忘れるということはないだろう。


「どういうことだ? CDがいつの間にかあったってわけじゃないだろ?」

「それが、いつの間にかあって……」

「…………」

「…………」


 みんな沈黙してしまった。



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