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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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ジャクリーン

 

「えっと、あの……」

「会いたかった はじめまして ヨウタ」


 美女が勢いよく立ち上がったかと思ったら、両手を広げて軽くハグしてきた。顔が近づいてきて、何度か頬に頬を当てられた。映画で見たことあるけど、本当にこういうあいさつするんだ。

 挨拶なので、ボクも何かしないといけないのかもしれないけど、緊張のあまり硬直したまま動けなかった……


「あなたは ヨウタ バンド メンバーね? ナギ でしょ?」


 今度は先輩のほうに顔を向け金髪美女がニコリと微笑む。


「まあ、そんな感じです」


 先輩の名前まで知っている見知らぬ外国人女性に、伊与里先輩が困惑の表情を浮かべる。笑顔を浮かべた金髪美女が、先輩と握手する。

 ……あれ?握手だけ?


「それで、あなたは誰なんでしょうか?」


 伊与里先輩が当然の疑問を口にする。女性は悠然と微笑み少し顔を上げた。


「この歌 聴く わかる? わたしの夫の歌」


 金髪美女が悲しそうに眉を寄せる。


「夫の歌?」


 ん?どういうことだ?この歌って、……今かかってるのはアラリコ・マルチェナの曲だよね……

 この女性がアラリコさんの奥さんってこと? 状況が、全く飲み込めない。


「アラリコ・マルチェナの奥さんねえ。……似てはいるな」


 伊与里先輩がいつの間にかスマホで調べていたらしく、見せてくれた画面には、アラリコさんと目の前の女性が仲良さそうに微笑み合ってる画像が映しだされていた。本当に、アラリコさんの奥さんなのか……

 ますます、分からないな。なんで、ここにいるんだろ?


「レイモンドと言う人と待ち合わせしているはずなんですけど、あの……」

「レイモン・パラディール わたしの子供 わたし、レイの母 ジャクリーン・パラディールいいます」


 ボクたちに向かってウィンクする。その姿で思い出した。

 倒れた謎の外国人の病室前ですれ違った女性。髪型も服も違ってるから気づかなかった。


「つまり、あのストーカー外国人の母親が、ジャクリーンさんってことなのか?」

「あの外国人を運び込んだ病院に来てたので、そうだと思います」


 つまり、ボクを捜し回ってたあの外人さんは、アラリコさんの息子?わけが分からないな。


「だとしても、どうして、息子のほうじゃなく、母親が?」

「……そうですよね」


 伊与里先輩が胡散臭そうに自称アラリコさんの奥さんを見ている。自分も似たような眼をしているだろう。


「あの!息子さんは?メールが送られてきて」

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あ、すみません」


 ウェイトレスさんが引きつった笑顔で隣に立っていた。ラウンジで立ち話は邪魔だよね。全員席に座るが、よく考えたら座ってよかったんだろうか?目の前の女性は得体が知れない……


「好きなもの たくさん 頼む わたしのおごり」


 ウィンクして寄越したジャクリーンさんと笑顔のまま圧力をかけてくるウェイトレスさんに負けて、とりあえず飲み物を頼む。


「これ おいしい 食べる。 I’d like 2 of Late afternoon tea set. and Panini and ~ 」

「え?あの……」


 ジャクリーンさんが勝手にどんどん注文していってしまう。


「いいじゃねえか。こうなったら食えるだけ食おうぜ。奢ってくれるんだろ」


 伊与里先輩って気楽だよな。


「それで、息子のレイモンさんは、どこに?もしかして、また具合が悪くなったりしたんでしょうか?」

「レイ 関係ない。 ヨウタにメールしたの わたし ジャクリーン。 レイは元気。 その辺 いる」


 胸に手を当てジャクリーンさんが静かに微笑む。優雅な仕草だけど、言ってる内容は、おかしい。


「……なんで、そんなことを」

「わたし ヨウタと話ししたかった」


 ……なんで?ボクと?


「親子そろって遠岳のストーカーなのか。すげえな」

「違うと思いますけど……」


 伊与里先輩がなぜか感心してる。感心するようなことではないだろう。親子そろって行動が意味不明だなんて、どうすればいいんだ……


「ヨウタ ナギ。 アラリコ・マルチェナの歌 好き?」

「え?はい、好きです」

「オレも気に入ってる方かな」


 ボクたちの返事に、ジャクリーンさんが嬉しそうに身を乗り出してくる。


「アラリコの歌 好きな歌 どれ?」

「好きな歌ですか?……その、題名は読めなくて、アコースティックギターで弾き語りしている曲で…」

「『Nap in the Meadow』?」

「あ、それです」

「はじめてのデート アラリコ歌ってくれた曲 思い出の曲」


 懐かしむように目を細めるジャクリーンさん。そういえば、アラリコさんって、確か……


「ナギは?」

「オレは『Sol en manos』かな」

「その歌 息子 生まれた時の曲 わたしも 一番 好き」


 満足そうに微笑むジャクリーンさんは本当にうれしそうだ。

 どういう状況なんだ?本当に話したかっただけ?



「お待たせいたしました」


 ウェイトレスさんがワゴンで飲み物と大量の食べ物を運んできた。


 目の前に小さな3段のラックが置かれる。ラックには一口サイズの食べ物らしきものが乗っている。他にもサンドイッチみたいなのからパイみたいなものがテーブルに乗り切れないほど置かれている。


「たくさん話したい たくさん食べる」

「じゃあ、遠慮なく」

「えっと、いただきます」


 ジャクリーンさんに勧められカエルの卵のようなのが乗っているラーメンのレンゲを手に取る。食べ物だよね?口に入れるとゼリーのような食感だった。美味しいけど何を食べてるのかは分からない。


「それで?ジャクリーンさんが遠岳を呼び出した目的はなんですか?旦那の話がしたかったわけじゃないですよね?」


 マリモみたいなものを食べている伊与里先輩が聞きたかったことを先に尋ねてくれた。紅茶を一口飲んだジャクリーンさんが、薄く微笑む。



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