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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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メール

 

 練習を終えてスマホを見るとメールが来ていた。

 差出人は、Raymond・Paladilhe?

 ライモンド……レイモンド、レイモンドかな?名前だよね?パラディ……

 知らない外国人の名前。たぶん、倒れた外人さんの名前だとは思うけど。このメールアドレスはほとんど使うことないから迷惑メールも来ることがないし。


 開くと、英語ではなく日本語の文字で、


 〔会いたい〕


 うう~ん、まあ、そうなんだろうけど、ボクを捜し回ってたのも会って話したいことがあるからだろうし……、でも、なぁ。

 ……重い。


 〔HORIZON HOTEL ロビー 金曜日 6:00 pm〕


 うううう~んん


「何してんだ?遠岳、帰るぞ」


 ベースを担いだ伊与里先輩が、出口に向かう足を止め帰りを促す。

 今までの経験上、伊与里先輩たちはいざという時に頼りにならない。でも、他に頼れる人がいないしなぁ。


「伊与里先輩、金曜日ヒマですか?」

「金曜?別に用はないけど、どうしかしたか?」

「いっしょにホテルに行ってくれませんか?」


 なぜか伊与里先輩が驚いた顔になり、今にも噴き出しそうな笑い顔になった。


「いや~、悪いけど、そういう趣味ないんだわ」

「趣味?」


 趣味って、なんの…………


「………って、違います!」

「違うのかー」


 ゲラゲラ笑いだした伊与里先輩に気が付いた宮さんと将さんが近くまでやって来る。


「何やってんだ?」

「いや~、遠岳にホテルに誘われちゃって」


 伊与里先輩、誤解を生むような言い方を……


「遠岳、お前……」


 宮さんと将さんが心配そうにボクを見てくる。


「違います!いや、違わないんですけど」

「違わないのか」


 二人が驚愕の表情になる。先輩は腹を抱えて笑っている。

 ああ~、違うのに~。


「これ!見てください!」


 スマホの画面を三人の前に突き出す。

 訝しがりながら画面をのぞき込んだ三人が、一様に目を丸くする。


「なんだ?いかがわしいサイトでも利用してんのか?やめとけよ」

「してません!あの外国人からですよ!この場所に来てほしいってメールを寄越してきたんです」


 指定してきた場所が高校生を呼び出すような場所じゃないせいで誤解されてしまう。もうちょっと、出向きやすい場所を指定してくれればいいのに。ファミレスとかさ。


「あのストーカー外国人からなのか」

「メールし合うような仲になってたのか」

「やるなー」

「なってないです!アドレスを残してきただけで、連絡が来たのは、これがはじめてです」


 だから困ってるんだ。まともに話したこともない外国人にいきなり呼び出されて、一人で会いに行く勇気はない。


「ホライズンホテルって、桁違いの金持ちじゃねえと泊まれないところだよな?」

「こんなところに呼び出すということは、あの外国人、金持ちか?」

「そういや、高級そうな服着てたよな」


 先輩たちの言葉に、倒れた外国人の姿を思い浮かべる。……思い浮かべてみたものの、高級な服がどんなものか知らないから値段の想像はつかない。ああ、でも、あの外国人のお母さんがオシャレだったのは自分でも分かる。うちの母さんが着てる服とは全然違った。


「だとしたら、懸賞金目当てに近づいてきたわけじゃないってことか」

「そうだな。高級ホテルに泊まれるような金持ちが、百万や一千万の懸賞金に興味持たねえだろうからな」

「そうなると話が違ってくるよな。目当てが金じゃないとなると……」


 三人の目がボクに向けられる。


「……遠岳が目当てか」

「何で、そういう話になるんですか……」


 真剣な顔してこの人たちは何を言ってるんだ。


「いや、だって、なあ?」

「熱心すぎるしなぁ」

「他に理由らしい理由が思いつかない」


 先輩たち、もしかして冗談でなく本気で言ってるのか……。でも、確かに考えたら怪しい人物なわけだし。不安になってきた。


「……行くの、やめときます」


 懸賞金目当てなら、まだしも、目的が分からない外国人と会うのは怖い。


「何言ってんだよ。それじゃあ、何も分からないままだろ」

「このままストーカーを野放しにしとくより話付けたほうがいいんじゃないか?」

「まあ、こんな機会でもないと最高級ホテルに行くこともないだろうからさ。見学がてら行ってきたらどうだ?」


 面白がってる。先輩たち、面白がってる。口の端が上がって来てる。


「そうまで言うなら、先輩たちもいっしょに来てくれるんですよね?」


 行けと言うなら、いっしょに来てもらう。


「金曜日だっけ?あ~、残念だな~。バイトなんだよな~」

「オレもバイトだ。残念だけど無理だなー」

「オレも」

「伊与里先輩は用事ないって言いましたよね。聞きました!はっきりと!」


 断らせるものか。伊与里先輩には一緒に来てもらう。


「先に用があるか聞くのは卑怯だろ!」


 伊与里先輩が顔を引きつらせてる。


「いいから、行って来いよ。男二人で、高級ホテルに」

「楽しんで来いよー」

「………」

「………」


 笑っている将さんと宮さんを睨みつつ、伊与里先輩が大きくタメ息をつく。どうやら、ついてきてくれる気になったようだ。これで一先ずは安心だな。

 目的不明の謎の外国人を放置するのも確かに怖いし、話だけでも聞いて、早くどっかに行ってもらった方がいいだろう。

 金曜日か。……気が重いな。



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