表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/133

笑い

 

 先輩たちが笑いすぎて息も絶え絶えになって、ようやく笑いが収まってきた。


「はあぁ、練習するか」

「そうだな」

「ほら、遠岳のギター」

「ありがとうございます」


 伊与里先輩にボクのギターを預けたままだった。


「そういや、遠岳、昨日のあの外国人はどうだったんだ?」

「あ!忘れてました。ひどいですよ。先輩たち、ボクだけにして」


 文句の一つでも言おうと思ってたのに、猫の名前の衝撃で忘れるところだった。


「そうは言っても、ほら、オレら気ぃ弱いしさ。ストーカーとか怖い」

「………………」

「……遠岳って、時々、チンピラのような目付きでオレを見てくるよな」

「そんな目付きで見てません」


 チンピラみたいな目付きって、ただ呆れてただけなのに。伊与里先輩のほうが目付きは悪いと思うよ。


「それであの外人は?」

「眠ったまま目を覚まさなかったので、話はできませんでした」

「ストーカーの正体は分からずじまいか」

「はい」


 連絡先は残してきたけど、連絡が来たとして、正直、どう対応したらいいのか分からないよなぁ。


「遠岳といると退屈しないな。常に何か事が起こって」


 ギターを拭きながら宮さんが、あまりうれしくないことを言う。


「そういや、事が起こるといえばさ。ザッシュゴッタのアカウントに、メッセージが来てたんだけど」


 将さんがスマホを取り出し触りだした。


「メッセージくらい来るだろ」


 伊与里先輩が興味なさそうにベースを弾き始める。


「それが!相手がさ。ちょっと面白いんだわ」

「……誰だよ」

「誰だと思う?」

「勿体つけんなよ。どうせ大したことねえんだろ」


 ニヤリと笑う将さんに、イラっとした伊与里先輩が丸めたタオルを投げつける。


「見て驚け!なんと!ニセマッシュルームからだ!」


 ニセマッシュルーム?


「遠岳の偽者ってことっすよね?」


 宮さんがギターを置いて身を乗り出してくる。

 テレビに出てたあの偽者のことか。偽者から連絡? ザッシュゴッタ宛てに?


「はあぁ?偽者が?なんて送ってきたんだよ」


 伊与里先輩も身を乗り出し、将さんのスマホを覗く。ボクも気になり画面を覗きに行くと、小さな画面には短い文が表示されていた。


 《どちらが本物か対決しましょう》


「だってさ」

「はああぁぁぁ?!ふざけやがって」

「挑戦状かよ」


 先輩たちの言葉は怒ってるように聞こえるけど、顔は正直だ。面白がってる。


「どういうことでしょう?対決って?」

「遠岳のほうが本物だって意見が多いからな。勝負して自分が本物だと証明したいんだろ」

「多いんですか?」


 偽者のほうが、声変わりしてしまったボクより似てるから、てっきり本物だと認識されていると思ってた。


「そりゃそうだろ。遠岳もテレビで偽者が歌うの聴いたんなら分かるだろ」

「聴きましたけど……」

「加工なしで歌ったら、大して似てなかったろ」


 そうかなぁ。自分の声と比べるというのは難しいな。客観的に見れないから、よく分からない。


「俺も途中からだけど見た感じでは、まあ、本物とは言い難かったよ」


 将さんも先輩に同意してるし、そうなのかな?自分で自分の声を判断するのは難しい。


「オレ、そのテレビ見てないんだよな」

「ネットに上がってるんじゃないか?話題になってるなら」


 宮さんが不服そうに息を漏らすと、伊与里先輩がパソコンの電源を入れ検索を始めた。


「あった」


 先輩が動画を見つけだし再生すると、パソコンのスピーカーから歌声が流れだした。少年のような声の偽者の歌は、やはりボクの少年の時の歌声と……似てるかな?前の動画では、もっと似てたけど、これは似てるけど、微妙に違うような?


「ああ、これは……。モノマネって感じだな。声の出し方が違う」

「遠岳は子供の時から地声でパワフルに歌うのが特徴だからな。それに比べて、偽者のほうは地声で歌えてない。声を寄せようとして作った声になってる」

「声変わり前の少年声を真似しようっていうのが無謀だよな」


 なるほど、似て聴こえても、音楽をかじってる人達には違いに気づくレベルってことか。これなら心配はいらない?のかな?


「これなら、容易に返り討ちできるな。どうする?遠岳」


 将さんが笑顔で聞いてくる。


「どうするって、勝負なんてしないですよ」

「は?何、言ってんだよ?戦えよ。こんな面白い対決、オレが観たい」


 伊与里先輩って……


「勝負なんてしたら、ボクが本物だと名乗りでたようなもんじゃないですか。やりません」

「それもそうか。本物か証明する対決なんだから、そうなるよなー」


 困った顔の宮さんが軽く笑う。


「面白そうだったのになー」

「歌で対決!なんて、そうないもんな」

「ま、仕方ねえか。おら、練習始めるぞー」


 将さんが戦う前のような腕のストレッチをはじめると、同じようにみんなストレッチをはじめた。

 広い敷地内とはいえ、伊与里先輩のうちで大きな音は出せない。軽く流すように控えめな演奏を何度か繰り返す。


「あ~、早くライブしてえ。電子ドラムじゃ、叩いてる気がしねえ」

「曲が揃ったらな」


 軽く合わせた後、将さんがもらした言葉に、伊与里先輩がニヤリと笑う。


「それはそうなんだけどな~。せっかくいい感じの曲ができたんだしさ。早く聴かせてえだろぉ」

「そうっすね。アインザイムの時とは曲調が全く違うから、ライブでどうなるか。客層も変わるだろうし。早くやって反応が見たい」


 宮さんが将さんに同意して笑顔になる。


 ライブか。カイリさんに歌って貰ったライブの時は、自分は端っこにいただけだから、ライブの楽しさというのは、正直よく分からなかった。ザッシュゴッタでライブするなら、ボクが歌うことになるんだよなぁ。……想像できない。


「ライブしたければ、練習しろ。練習を」


 伊与里先輩が促すと、みんな気合を入れ直し、楽器をかまえる。先ずは完成した2曲の出来を上げることだよな。

 練習を再開しようとした時、黒猫が部屋に入ってきた。


「黒は、ニャウニャでしたよね?ニャウニャ、ニャウニャ」

 みあ~ん

「返事できるんだ。ニャウニャ偉いね!あ、ミーニャも部屋に入ってきた」

「ここにミヤノオもいるぞ」


 ニャウニャ、ミーニャを撫でてると、将さんがおかしなこと言ってきた。


「やめろ!遠岳、ショウグン」


 伊与里先輩と宮さんが顔を引きつらせている。


「また、笑えて来た」

「練習できると思ったのにっ」


 先輩たちが、また笑い出して練習はなかなかできなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ