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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章
41/133

猫ちゃん

 

 病院に正体不明の外国人を運び込んだのはいいけど、診察までには時間がかかるらしく、まだ仕事中だった店長は帰っていった。どうしたものかな。ボクまで帰るわけにはいかないよなぁ。倒れた外人さんが、どこの誰かも知らないんだけどなぁ……


「まいったなぁ」


 しばらく待って、やっと、診察してもらえた。お医者さんの話では、少し熱はあるようだけど、大病ではなさそうだということだ。一先ず安心。

 看護師さんが入って来て、寝ている外人さんの様子を確認していく。


「付き添いの方、お母さんと連絡が取れたから安心していいですよー」

「そうですか。よかった」


 外人さんが、どこの誰かも知らないから、どうしようかと思ってたんだけど、病院のほうで連絡を取ってくれてたみたいだ。

 赤っぽいブロンドの髪、小麦色の肌。人種が違うと年齢を推測しにくいけど、ベッドで眠っている外人さんは、ボクとそう年齢が変わらないように見えたから、病院に置いて帰るの気が引けてたんだよね。

 親と連絡がついたなら安心だ。


「容態も落ち着いてるし、付き添いの方は、もう帰っても大丈夫ですよ」


 忙しくなく動き回っていた看護師さんが、疲れた顔に笑顔を浮かべ去っていった。忙しそうだな。ここにいても邪魔になるだけだし帰るか。外人さんに話を聞きたかったけど無理そうだし。


 一応、連絡先だけ残して行こうかな。メールアドレスと名前、名前はどうしよう。TAKEでいいか。フルネームじゃなくても連絡は取りあえるだろうし。

 メールアドレスを書いた紙を外人さんのスマホの下に置いて離れる。部屋から出たところで、人にぶつかりそうになった。


「すみません」

「パフドン」


 あれ?外人さんと同じ言葉?

 顔を上げると、金髪のキレイな外国人女性がウィンクして部屋に入っていった。

 あの外人さんのお母さんかな?外国映画にでてくる女優みたいだったけど。そういえば、倒れた男性もモデルになれそうな見た目だった。ストーカーってことで意識しなかったけど。

 モデルのような外人さんがボクにストーカー?やっぱり変だよな。懸賞金目当てだとしても、割に合わないような……。モデルでもした方が金になるだろう。

 なんか、謎な外人さんだな。


 ✼


 夢を見た。

 自分がまだ小さな子供で、ばあちゃんがいて、友達がいて、近所のおばさんと近所のお兄さんがいて、漁師のおじさんがいて、近所の犬もいて、みんなで歌っていた。


 目が覚めると夢で歌っていたことは覚えているのに、どんな歌を歌っていたかは思い出せなかった。楽しい曲だったと思うんだけど。

 ちょっと残念。


 ✼


 霧雨でぼんやりとして見える町中を歩いて行く。伊与里先輩のうちに着くと、庭に泥だらけの何かがいた。


「もしかして、先輩のうちの猫ちゃん?」

 み~


 か細い声で鳴く姿をじっくり見ると、どうやらサバ白ちゃんのようだ。そーっと持ち上げて母屋のほうに向かう。

 家の中にいた先輩のお母さんが気が付いて縁側のガラス戸を開けてくれた。


「こんにちは。猫ちゃんが庭で動けなくなってました」

「あら、まあ、ミュミャミャったら、お外に出てたの?困った子ねぇ。ありがとうね。洋太ちゃん」


 ん?今、なんか聞いたこともないような単語が……


「ミュミャミャ?」

「そうよ。可愛い名前でしょぉ。凪が小学生の時に、この子につけた名前なの」


 そう言い残し、先輩のお母さんは泥だらけの猫を新聞紙に包んで、家の奥へ行ってしまった。




「先輩!先輩!先輩んちの猫ちゃん、ミュミャミャって言うんですか?!」


 先輩の部屋の戸を開け、尋ねると、

 ぶはっ!

 中にいた3人が一斉に噴き出した。


「……違う!あいつは『サバ』だ!」

「でも、先輩のお母さんが、先輩が付けた名前だって言ってましたよ?」


 伊与里先輩の顔が引きつっている。

 将さんと宮さんが蹲って震えている。


「黒ちゃんやハチワレちゃんも本当の名前あるんですか?なんて名前ですか?」

「……クロとハチだよ」


 ウソだな。先輩の目が泳いでる。


「黒がニャウニャで、ハチワレがミーニャだよ。みんな息子が付けたんだよー」

「あ、先輩のお父さん、こんにちは」

「はい、こんにちは。ゆっくりしていってね」


 いつの間にか背後にいた先輩のお父さんが、貴重な情報を教えてくれた。


「先輩!ニャウニャとミーニャ!ミュミャミャとニャウニャとミーニャ!!すごいですね!」


 真っ赤になった伊与里先輩が、ボクを押しのけ外にでる。


「クッソ親父ぃぃぃ、嘘つくんじゃねえ!!黒とハチは親父が付けたんだろぉがぁぁぁ」」

「お?反抗期か?こわーい」


 遠くから先輩のお父さんのからかうような声が聞こえてくる。先輩とお父さん仲いいんだな。


 笑いすぎて咳き込んだ将さんが、ペットボトルのお茶に手を伸ばす。


「すげえよな。ミュミャミャ、ニャウニャ、ミーニャ、ミヤノオ。初めて聞いたときは、何事かと思ったよ」

「ショウグン!なに、さらっとオレの苗字を混ぜてんっすか!」


 宮さんの抗議に、伊与里先輩が耐え切れずに笑い出す。


 ミュミャミャ、ニャウニャ、ミーニャ、ミヤノオ!


「ほんと、スゴイですね!」

「遠岳ぇぇ、なに、感心してんだよ!」


 宮さんに軽く小突かれるが、衝撃的な言葉の羅列に耐えきれない。


「ダメだ。また、笑いがぶり返してきた」

「クソ!やめろよ」

「あーもー、なんだよ」


 全員、体を震わせ笑うしかなかった。



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