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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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ケ・セラ・セラ

 

 スタジオで『炎天下の雷雨』の音源をなんとか録り終えると、すぐに、『RED FUJI MUSIC』オーディションに応募した。


 スタジオの休憩所で一息つく。


「何とか、間に合った。あとは審査を待つだけか」


 将さんが缶コーヒーを飲みながら、ハァと息を吐きだす。

 慌ただしかったな。

 アカフジか。出演は無理だろうけど、先輩たちは観に行こうって言ってくれたし楽しみだな。


「アカフジに向けて、もう2、3曲、夏までに完成させないとな」

「無茶言うなよ。短期間で2曲仕上がっただけでも奇跡的だっていうのに」


 伊与里先輩の言葉に疲れたように宮さんが机に突っ伏す。


「アカフジ?もしかして、君たちアカフジのオーディションに応募するつもりかい?」


 頭に手ぬぐいを巻いた店長が、ホウキを片手に話しかけてきた。


「つもりというか、応募したところっすよ」

「ああ、う~ん、アカフジかぁ。もう少し早ければ、他のフェスのオーディションに応募できたんだけどねぇ」


 ホウキの柄で頭をかく店長の顔は困り顔といった感じだ。先輩たちが顔を見合わせる。


「アカフジに応募したらマズい事でもあるんですか?」

「あるといえばあるかなぁ。誰でも応募できるとは書いてあるけどね。アカフジは素人の未成年が応募しても聴いてさえもらえないって噂があるんだよ」

「え?そうなんですか?」


 先輩たちが眉をひそめる。


「噂だけどね。でもね~、実際、最初の一次音源審査さえ通過した未成年は、今のところ一人もいないんだよねぇ」


 そうなのか……


「まあ、ダメ元って感じなんで」

「そうだよねぇ。余計なこと言って悪かったね。ああ、まだ募集してるコンテストあったよ。コレ、コレ、これにも応募してみたら?」


 店長が壁に貼ってあるポスターの一つを指さした。そのポスターの前にみんな集まる。


「『Song of Mysterious boy』を歌って賞金をゲットしよう?」

「ネットで流行ってる曲をアレンジして歌うコンテストなんだけどね。優勝すると、なんと200万円の賞金がでるそうだよ。コレなら高校生でも優勝を狙えるんじゃないかな」


 そう言って、店長がスマホから曲を流しだした。よく知っている曲だ。


「この歌って……」

「アレだよな」


 ヒソヒソと小声で話しながら先輩たちが、ボクを見てくる。

 ネットで流行ってる曲というのは、ボクが歌った謎の歌の事か。


「それも無駄ですよ。結果はもう決まってるようなもんですから」


 掃除用具を抱えて奥の扉から出てきた若いスタッフが、店長に手を振って合図を送っている。


「どういうことだい?」

「本人が名乗り出たそうで。その大会にもでるとかなんとか」


 え?!本人?

 なんの本人だろう?


「ああ、そういえば、例の少年が名乗り出たらしいとは聞いてたけど。そうか、大会に出るのか」


 店長が頷いている。先輩たちがボクを見てくるが、首を振るしかない。ボクは名乗りでてなんていない。


「その話って、本当なんですか?」

「あれ?知らない?ネットでちょっとした騒ぎになってるんだけどなぁ」


 訝しんだ将さんが若いスタッフさんに話しかけると、スマホを取り出し指を何度も動かした後、画面を見せてくれた。


 画面には男性が映っていた。

 先輩たちよりは年上に見える。20才前後くらいかな?細面のマッシュルームカットの男性が歌いだす。

 なんか聴いたことある声……



 先輩たちが困惑した顔でボクを見てくる。見られても困る。

 若いスタッフさんが動画を止め、ボクたちを見つめる。


「ね?そっくりでしょ。あの少年に。これは、もう、間違いないんじゃないかって話だよ」


 間違いなんだけど……

 でも、確かに、そっくりだ。子供の時のボクの歌声と……。多少大人の声にはなってるけど、似ている。歌い方も。声変わりしたボクより似ている気がする。

 どういうことだろう?



 店長とスタッフさんにお礼を言って、微妙な空気になったスタジオからでる。

 難しい顔をしたまま、無言で歩き出した先輩たちの後ろをついていく。


 ……もしかして、先輩たちはボクが偽者だと疑ってるのかな?あのマッシュルームカットの男性のほうが似てたものなぁ。だとしたら、きちんと説明した方がいいのかな?でも、何を話したら……。偽者だと思われてるのなら……

 あれ?別に偽者だと思われても困らないような…?あっちの偽者が本物ってことになれば、煩わしいことがなくなって歌うことだけに集中できる。


「ここまでくれば、話しても大丈夫だろ」

「ああ、まさか、遠岳の偽者が登場するなんてなぁ」

「え?」


 ボクを偽者だと思ったわけじゃなかったのか……


「えって何だよ」

「え?いえ……」

「……遠岳、お前、…このまま、あのニセマッシュルームを本物ってことにしちゃおうかなっとか考えてなかったろうな?」

「え?!なんで?……声に出てましたか?」


 声に出してはないよな。伊与里先輩、なんで考えていたこと分かったんだ?なに?心を読んだ?


「やっぱりか!お前って、そう言う奴だよな!」

「え?そう言う奴って何ですか?それよりなんで」


 どうなってるんだ?伊与里先輩。変な能力があるなら教えておいてくれないと。


「遠岳って真面目そうな見た目してんのに、意外に適当人間だよな」

「流されるまま、気の向くまま、ケ・セラ・セラ精神で生きてるよな。ちょっと憧れるわ」

「生きてませんよ。そんな風に」


 宮さんと将さんまでおかしなことを言う。

 先輩たちだろう。ケ・セラ・セラで生きてるのは。


「なんか、真面目に心配してやるの、バカらしくなってきた」

「そうだな。もう帰ってゆっくり風呂に入りてー。長雨で身体が湿気って来てる気がする」

「じゃあ、今日はこれで解散ということで。遠岳、少しは真っ当に生きろよ」


 真っ当に生きてないような言い方、やめてほしい。

 先輩たちの背を見送り、タメ息をつく。偽者の事とか、なんかどうでもよくなってしまった。

 帰ろう。



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