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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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33/133

アレンジ

 

 朝から降り続く雨で、遠くが雨靄で消えている。歩きでの通学は時間がかかるし面倒だけど、この空気感は割と好きだな。


「遠岳くん」


 声を掛けられ振り向くと、杉崎部長とヨッシー副部長が傘を振っていた。荷物が多く手を振れないかわりに傘なのかな?


「雨、続くねぇ」

「そうですね。もう梅雨入りですかね」


 部長たちといると、落ち着くな。いつも空気がほんわかしてるんだよな。


「そういえば、あれから、会った?」

「誰にですか?」

「この前、部室に来た一年の男の子」

「いえ、……あの何か部長たちに迷惑を」

「ううん、私たちは別に。あの後、遠岳くんのこと聞きに来たくらいで」

「ボクのことを聞きに? どんなことを?」


 謎の外国人といい、なんでボクのこと聞きまわる奴が、こんなにいるんだよ。


「今、歌ってたのは、どこの誰かって」

「なんで、そんなこと聞きに……」

「一応、音楽を流してただけだって言っておいたけど、全然納得してなかったみたい」

「すみません。迷惑かけて」

「うち達は別にいいけど、もしかして、トラブルに巻き込まれてる? なんだったら、力になるよ?」

「いえ、大丈夫です」


 たぶん……

 ボクを捜している理由はお金だろう。今度会った時にでも、自転車の修理代を渡せばなんとかなる……と、思う……。他に理由は見当たらないし。


「遠岳くん、昼休みに部室でいっしょにお弁当食べようよ。面白い曲見つけたんだ」

「はい、じゃあ昼に」


 面白い曲か。部長たちって、何気に音楽の趣味が幅広くて、聴いたことない曲を教えてくれるから楽しいんだよな。

 伊与里先輩たちとは方向性が全く違うというか。部長たちに教えてもらわなかったら、日本の民俗音楽や古い歌を知ることはなかったかもしれない。


 ✼


 文化会館に集まり、新曲『炎天下の雷雨』の仕上げにかかる。

 最初とは全く違う曲のようになって、戸惑うばかりだ。メロディーは同じなのに、アレンジでこうも変わるものなのか。驚くよなぁ。


「巳希、ありきたりなもん聴かせんな。もっと、クセだせよ」

「お前のベースが色気ねーんだよ。時計じゃねえんだから、もっと、雰囲気つくれよ」


 言葉は殺伐としてるのに、雰囲気は悪くない。不思議だけど。


 前とは曲調も雰囲気も変わったのだから、ボクも歌い方とか変えたほうがいいんだろうけど、どうしたらいいのか分からない。『タヌキトリック』の時も思ったけど、お手本のない曲を歌うというのは、手探りで歌っている感じで落ち着かない。

 正解を探りながら歌っているような感じだ。


「……こんなもんか。一度合わせてみようぜ」


 伊与里先輩が深く息を吐きだし全員に確認を取るように視線を動かした。全員が頷く。

 自分の歌を聴く聴衆にどういった感情を抱かせたいのか考えろとヤコさんは言ってた。雷雨を目の当たりにした時の、畏怖と高揚感を、この曲を聴いた人たちにも味合わせたい。

 それが『炎天下の雷雨』


 ドラムもギターもベースも、この前とは全然違う。イントロと冒頭は雨の前の静けさと言った感じで、途中から雷雨になる。



 歌い終わると息が切れてた。


「できたな」

「……できた。ちょっと、今、感動してる」

「オレも。この曲をオレたちが作ったんだよな。なんか、…すげえな」


 先輩達の感動が伝わってくる。自分も何でか分からないほど感動してる。


「なんか、いけそうな気がしてきた」

「おう!この曲ならどこでもいけそうだよな!」


 先輩たちも興奮してるせいか、言ってることが意味不明になってる。


「遠岳、喉はどうだ?」


 伊与里先輩が珍しく労わるような言葉をかけてくれた。


「大丈夫です。ボク、歌っていて喉が痛くなったことないんで」

「何気に凄いこと言ってんな」


 感心してるのか呆れてるのか見分けつかない表情で伊与里先輩が呟く。


「じゃ、もう一回、やるか?」

「はい!」


 やる気に満ちた赤鐘さんがドラムスティックを掲げる。

 この歌なら何度でも歌えそうだ。高揚感のある曲は好きだ。歌っていて楽しくなってくる。


「いや、ボーカルなしで、演奏を煮詰めていこう。遠岳、歌はいいけど、ギターが全然だったぞ」

「うう、すみません。精進します」


 ギターの宮ノ尾さんに誤魔化しは利かない。ギターの練習、ここのところ疎かになってたものな。せっかく、こんなに楽しい曲ができたんだから、足引っ張らないように頑張らないと。



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