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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章
3/133

情報

 

 高校に入っても、凡庸な日々が続くと思っていた。

 音楽は好きだし、自分の中の大きな部分が音楽に占められているのは間違いなかったけど、まさか、バンドに参加するとは考えてもいなかった。


「トオタケ!今日の放課後、この前の場所に集合だからな」


 廊下を歩いていたらイヨリ先輩に声をかけられた。潮が引くようにその場にいたクラスメイトたちが離れていく。ああ、どうしよう。


「お前が、そんな奴だったなんて」


 中村の視線が痛い。誤解だと言いたいが、イヨリ先輩とバンドを組んだのだから、誤解もなにもないし……バンドのこと話したら、さらに避けられそうな気もする……

 席についてもクラスメイトから遠巻きにされてしまう。参ったなぁ。


「部活何に入るか決めたか?」

「あ~、卓球部か将棋部かなぁ」

「渋いところ責めるね。オレはどうしようかなぁ」


 近くで中村たちが雑談を始めたが、会話に加わりにくい。


「そういや、あの動画の人物の正体、分かったらしいぜ」

「動画って、あの懸賞金が懸けられてた?」


 え?バレたのか?伊与里先輩が話したのか?

 あれ?でも……この反応は……


「本人が名乗りでたらしい。千葉に住んでる奴だってよ」

「情報古いよ。それは偽者で、滋賀の大学生がそうらしい」


 騙る奴まででてきてるのか。正体の分からない外国人相手に、実名を教えてまで騙そうとするなんて無茶するな。


「あの懸賞金の少年のこと?今は、数十人が名乗り出てるよ~」


 女子生徒のグループが中村たちの会話に加わる。


「一人除いて、偽者ってことでしょ。恥ずかしくないのかな。すぐにバレるのにさ。アカウントのパスワードを知ってる人が本物なんだから」

「そうとも限らないんじゃない?動画を上げた人と歌ってる子供が別なら、パスワードを知らなくてもおかしくないよ」

「あの動画、ギターを弾いてる手元しか映してないし、声変わり前の子供の声なら、誤魔化しようもありそうだからな。うまくやれば、成りすませそうだと思ったんだろうな」


 思った以上に、大事になってる……


「そういえば、あれの元の動画は消えたんだよね。運営側が消したのか、本人が消したのか話題になってる」

「本人が消す必要ないから、運営じゃないか。規約にでも引っかかったかなにかで。少年本人が消すはずないよ。本人が名乗り出れば、一千万も貰えるんだからさ。一千万だぜ。消す理由ないだろ」


 一千万?一千万かぁ。でも、胡散臭いよなぁ。

 誰がそんな大金を出すっていうんだ?あんな子供の動画に……


「少年の情報でも10万もらえるんでしょ?もっと早く、知ってればなぁ。私さぁ。あの少年、知ってる気がするんだよね」


 田原さんが長い髪をいじりながら、話し出した内容に緊張が走る。


「ええー、田原さん、マジで?10万もらえるじゃん」

「ねえ、遠岳くん!遠岳くんも覚えあるでしょ?」

「え?!……覚えって……」

「同級生にいた気がするんだよね。あの子。遠岳くんも同じ学校だったんだし、覚えてない?」


 そういえば、田原さん同じ中学だったな。


「小学校は別だったから……」

「あ、そうか!遠岳くんは中学からか。小学校は違うんたよね。じゃあ、知るわけないか」


 この高校に中学の同級生は何人かいるけど、同じ小学校出身者はいない。中学に上がって、すぐに声変わりがしたから、中学の同級生で自分とあの動画の少年を結びつける人はいないと思うけど……


「聞き覚えある声だと思うんだけど。誰だったか、思い出せないんだよねぇ」


 田原さんとは中学一年の時に同じクラスだったから、声変わり前の自分の声を知っている可能性がなくはない……。でも、さすがに自分だと思いだしたりはしないよな。小学生の時の同級生なら、動画を見たら気づくかもしれないけど……


「一応、その情報、送ってみたら?10万もらえるかもよ」

「そーだよね。情報を送るのはタダだし。送っちゃえ」

「え?そんな曖昧な記憶の話なのに?」

「遠岳くん、文句あるの?」

「……ないです」


 まあ、でも、そんな不確かな情報なら、気に留められることもないだろうし、自分に辿り着くことはないだろう。

 悪いことをしたわけでもないのに、コソコソと気づかれないように気を揉まないといけないのは理不尽だ。冗談だとしても、懸賞金までつけて捜そうとしているのは気味が悪いから、目的がなんであれ早くやめてほしいよ。



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