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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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応募

 

 今日も伊与里先輩のうちに集まり練習。最近、放課後はほとんど先輩のうちにいる気がする。


「先ずはこの曲からやってみるか」

「いきなりですか?」

「習うより慣れろってやつよ。叩いてみると、自分のダメな部分が見えてくるから、そこから何を学んでいけばいいのか考えて練習していくんだ」


 伊与里先輩のうちで練習の合間、赤鐘さんがドラムを教えてくれることになった。

 伊与里先輩のうちにあるのは、電子ドラムだけど、自分には充分すぎる代物だ。先輩のうちに大量にある楽器は、どれも貰い物や安く買った中古だと伊与里先輩は言ってたけど、それでも贅沢だよな。ボクのうちだと、ドラムを置く場所さえない。改めて思うけど、羨ましい環境だ。


「習うより慣れろですか。……やってみます!」


 赤鐘さんに見本を見せてもらい、叩く場所を覚える。

 ドラムスティックを持ち、同じように!


 

「とおぉおたけえぇぇぇ!!」

「す、すみません!」


 ドラムスティックがなぜか伊与里先輩と宮ノ尾さんがいる所に飛んで行った。


「うん、まあ、最初はこんなもんだな」


 赤鐘さんはあきれた様子もなく笑顔だけど……


「そんなわけあるか! 確実にオレたちを狙ってスティック飛ばしてきただろ!」

「恐ろしい奴だな」

「狙ってません。すっぽ抜けたんです」


 瞳に剣呑な光を灯らせた伊与里先輩が、飛んで行ったドラムスティックを握りしめている。


「お前らが練習サボってるから、遠岳が怒って投げつけたんだろ。お前らが悪い」

「すっぽ抜けただけです! 狙ってやってません!」


 赤鐘さんは何を見てたんだ? 投げつけたかのように言わないでほしい。

 いくら、セッションしていたはずの伊与里先輩と宮ノ尾さんが、気が付いたらスマホを見ながら、なにやらこそこそとしていたとしても、そんなことしない……


「サボってたわけじゃねえよ。ほら、これ見ろ」


 伊与里先輩がスマホの画面を向けてくる。


「これに申し込もうかって、話してたんだよ」

「オレはそんなこと言ってないからな。まだ持ち歌、1曲しかねえっていうのに」


 宮ノ尾さんが呆れたように壁にもたれかかる。

 なんだろう? 申し込む?

 画面には太文字で、



 ♪♪ 音楽フェス『RED FUJI MUSIC』 オーディション ♪♪



 と表示されていた。


「オーディションですか?」


 メジャーデビューでも目指そうというのだろうか?

 伊与里先輩の顔に、悪巧みするときの笑みが浮かんだ。


「サマフェスの一つ『アカフジ』知ってるだろ?」

「いえ……」

「とおぉたけぇぇ、マジかぁ」


 そんな哀れな生き物を見る目で見られても、知らないものは知らないし。


「ああ、『アカフジ』だろ。富士山をバックに行われる野外フェス。出演するアーティストも質高くて、雰囲気がすげえ良さそうなんだよな。一度行ってみたいと思ってたんだ」


 赤鐘さんは知っているらしい。もしかして、有名なフェスなのかな?


「サマフェスですか。ボク、一度も行ったことないんですよね。楽しそうで、いいですね」

「遠岳、行ったことないのか? そういや、ライブハウスもはじめてだって言ってたな」


 宮ノ尾さんが驚くってことは、先輩たちはフェスに行ったことあるのか。音楽をやっている人達は行くのが普通なのかな?周りで音楽フェスやライブハウスに行ってるような同級生っていなかったから、そんなに珍しい事でもないと思ってた。


「おう、じゃあ、みんなで行くか」

「いいっすね。『アカフジ』なら、テント張って泊まればいいし」

「キャンプですか?楽しみです」


 赤鐘さんの提案に宮ノ尾さんがうれしそうに身を乗り出す。

 フェスにキャンプかぁ。楽しそう。寅二郎を連れていけないかな?遊ばせてあげたい。


「そうじゃねーよ!」


 伊与里先輩が一人不満を漏らす。キャンプ嫌いなのかな。


「観客としてじゃなく、出演するんだよ。このオーディションで優勝して!」


 先輩のスマホの文字を確認すると、オーディションで優勝すると、フェスにアーティストとして出演できるとあった。


「応募したくても無理だろ。ザッシュゴッタの曲は、まだ1曲しかねえんだぞ。せめて、2、3曲はねえと」


 赤鐘さんが現実を突きつける。

 応募要項には一次音源審査のための2曲以上必要とある。カバー曲は不可。オリジナルが1曲しかないザッシュゴッタは条件を満たせない。


「それだけどさ、前に、海里に合わなくてボツになった曲があったろ? アレを遠岳に合わせて作り直せばいけると思うわけよ」


 伊与里先輩がギターでワンフレーズほど弾き、ピックを赤鐘さんに向ける。


「ああ! この曲か。よかったよな! ロック色の強いサウンドだったから海里の繊細な声には、しっくりこなかっただけで」

「遠岳は見た目に反して、声はパワフルだし、低音だせるから、あの歌は合うかもな」


 どんな曲なんだろ?カイリさんに合わなくて、ボクに合う? そんな曲、あるんだろうか?


「ある程度できあがってる曲だから、アレンジや歌詞を変えたとしても、そう時間はかからない。これなら間に合うだろ」

「応募するかは置いといて、あの曲を仕上げるのは賛成だな。ああいう盛り上がる曲は、一つは欲しい」

「俺も眠らせておくには惜しいと思ってたし、いいんじゃねえか」


 宮ノ尾さんと赤鐘さんが頷き合う。


「じゃあ、あとは歌詞だけだな」

「歌詞かぁ…………」


 赤鐘さんが半笑いでボクに視線を寄越してくる。視線の意味に気づいて自分も笑顔になってしまう。伊与里先輩が最初に作った、あの歌詞はひどかったものな。あの悪夢の再現は、どうにかしたいのだろう。


「タヌキトリックは俺と伊与里が作っただろ? その曲の歌詞は、宮ノ尾と遠岳に任せたらどうだろう?」

「ええ?!何言い出すんですか?赤鐘さん」


 伊与里先輩を回避するために、ボクと宮ノ尾さんに押し付ける気だ。


「そうだな。それじゃあ、二人に頼むか。心に打撃を与えるような衝撃的なやつ作って来いよ」


 伊与里先輩が無茶なこと言う。宮ノ尾さんを見ると、遠い目になっていた。あの目は任せろと言う目じゃないよな……。どうしよう……


「よし、じゃあ、話も決まったし、練習再開するぞー」

「おう、『タヌキトリック』合わせるか。オーディションに向けて、しっかり仕上げておかねえとな」


 ほんと、どうしよう。



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