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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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自転車屋の息子

 

「あれ? 秘密ってことは、遠岳くん、学校では人前で歌うのはダメってことだよね?」

「え?はい、多分そういうことだと」

「じゃあ、あの曲は無理かぁ」

「そうだねぇ。せっかく、いい曲を教えてもらったんだけどなぁ」


 がっくりと肩を落とす二人に、何のことかと首を傾げそうになるが、すぐに思いつく。


「もしかして、和楽器で演奏する曲のことですか?」

「そう、でも、その曲は、歌があってこその曲だから。遠岳くんが歌えないとなると他の曲にしたほうが良さそうだね」

「そうしてもらえると」


 声に特徴があるというなら、不用意に歌ってしまったらバレる危険がある。


「あ~あ、遠岳くんの声であの歌を聴きたかったなぁ」

「だね~。すっごく残念。絶対、遠岳くんの声に合ってると思ったのに」


 そこまで言ってもらえると、なんか照れ臭くなってくる。


「なんて曲ですか?」

「ええっとね。少し古い曲なんだけど、沖縄民謡とポップスが合わさったような曲で、聴くと暖かくなるような切なくなるようなそんな曲なの。遠岳くんも気に入ってくれると思うんだ。聴いてみる?」

「はい、聴いてみたいです」


 沖縄民謡とポップが合わさった?沖縄ポップスの有名な曲なら少しは知っているけど、どんな曲だろう?



 流れてきた曲は自分も知っている曲だった。でも、沖縄民謡寄りにアレンジされていて、自分の知ってる曲とはイメージが違っているけど。

 青い空と海、夏のイメージだ。でも、どこか切ない感じがある。不思議と懐かしい気分になる。


「どうかな? いい曲だと思うんだけど……」

「はい、好きな曲です。いいですよね。この曲」

「知ってたんだね! 暖かい感じでいいよね。文化祭に合うと思うんだ。といっても使えないんだった」

「そんなことないですよ。ボクは歌えませんが、部長たちが歌えば問題ありませんよ」

「ええ!? 私たちが?!」


 目をまん丸にして、こちらを見てくる二人の姿が面白い。


「ま、待って、うちらは歌うまくないし」

「そうだよ!私たちが歌ったんじゃ、誰も聞いてくれないし、意味ないっていうか。……恥ずかしいし」

「歌うことが恥ずかしいことなわけないですよ。大丈夫です! ……三線、借りますね」


 この曲なら、そう難しくないし弾ける……と思う。


 リズムを意識して……

 三線を鳴らす。



「では、部長、副部長、歌ってみてください」

「うえええぇぇぇ?!! 何を言いだすの。遠岳くん」

「む、無理、無理、無理、いきなり歌うなんて! 無理ぃ!」

「大丈夫ですよ。他に人はいませんから。ボクたちだけなんで気兼ねせず、どうぞ」


 ワタワタしていた部長たちにかまわず、三線を弾き続ける。特別教室が集まるこの一帯は昼休みにはほとんど誰も来ることがなく静かなので三線の音がよく響く。狭い部室内に、しっとりと三線の音が響いて、ここだけが音に満ちている。顔を見合わせた部長たちが、覚悟を決めたように頷く。


 部長たちが恐る恐ると言った感じで歌いだす。か細く、裏返った歌声。

 緊張してるのか。

 歌詞を見ながら必死に音程を合わそうとしていて、あまり楽しそうじゃない。せっかく温かい気持ちになる歌なのに、これでは勿体ない。

 自分も補佐するように歌いだすと、一瞬、部長たちが驚いた表情になったけど、すぐに全開の笑顔になった。いっしょに歌っていると、部長たちの緊張もほぐれて……

 あれ?途中で、部長たちが歌うのをやめてしまった。どうしたんだろ?



「どうかしたんですか?難しい箇所でもありましたか?」

「あ~、違うの。難しいだとかじゃなくて、遠岳くんの声に聴き入っちゃってた」

「うん、せっかくだし、生で聴きたくて」

「そういう、照れるようなことを言って、誤魔化すの止めてください」


 顔が赤くなる。


「誤魔化してるわけじゃないよ。遠岳くんの歌って」


 ヨッシー副部長が面白がるような笑顔を浮かべ、なにか言いかけた時、ガラリと大きな音を立て、部室の扉が開いた。


 誰が来たのかと扉に目を向けると、うちの部には不似合いなガラの悪そうな男子学生が戸口で肩を上下させていた。

 誰だろ? まさか伝統文化部に入部希望だとか?


「っい、…今の?!」


 はげしい呼吸に言葉を詰まらせながら、男子生徒が顔を上げた。

 この男、見覚えがあるような……。じろりと自分を睨みつける、その目。

 思い出した! 自転車屋の荒くれ息子じゃないか!

 なんで学校にいるんだ? ……あれ? うちの制服を着てる? ということは、まさか……


「…………ああぁぁっ!!やっぱ、そうじゃねえかぁぁ!」


 ボクを指さし、ずかずかと中に入ってくる。尋常じゃないその様子に身が竦む。


「それじゃ、ボクはこれで」


 三線を副部長に渡して部室を出ようとしたが、自転車屋の息子が立ちふさがる。ああぁ、どうしよう。


「お前っ、ガフッ…ゲフッ」


 息が切れている状態で声を張り上げたせいか、自転車屋の息子が喉を詰まらせ前かがみになった。今のうちだ!

 横をすり抜けダッシュで部室をでると、自転車屋の息子が追いかけてきた。足の速さで勝てる気がしないので、扉が開いていた空き教室に潜り込み身をひそめる。

 しばらく、その辺をうろついていた自転車屋の息子の足音が遠ざかっていく。


「なんなんだ?」


 自転車屋の息子に、恨まれるような覚えないんだけどな……。ああ、もしかして、お金を払わなかったのが気に入らないかったんだろうか?でもおじさんがお代はいいって言ったからだし。

 まいったな。どうしよう。



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