パンク
学校の帰り道、自転車がパンクして押して帰ることになってしまった。原付が横を通り過ぎていく。
バイクかぁ。いいかもなぁ。宮ノ尾さんもバイクに乗ってるって言ってたな。先輩の家に行くのも楽になるかな?でも、バイクって故障したら押して帰ることできるのかな?
「なんだ、兄ちゃん自転車パンクしたんか?」
横からいきなり声を掛けられ慌てる。ツナギを着たおじさんが、タバコを燻らせながら店の中からでてきた。自転車とバイクが並んでおいてある。看板を見ると、柏手商店と書いてあった。はくしゅ?変わった名前の店だな。
看板見ても何屋なのか分からない……。バイクと自転車の店でいいんだよな?
「うちなら、学生割引でパンク修理一か所なら500円、パンク箇所が複数ある場合は一か所に付き300円増しだよ」
「えっと、……じゃあ、お願いします」
500円か。それなら払える。押して帰るの憂鬱だったから助かった。
「おう、コウイチ!お客さんだ!パンクの修理してやんなー!」
「………ああ、分かったよ」
おじさんが声をかけると、店の奥から若い男がのっそりとでてきた。
赤鐘さんほどではないが体格のいい、ガラの悪そうな強面のあんちゃんだ。年齢はボクとそう変わらないと思うけど、色々と経験値が高そうで、正直怖い。
「パンクっすかぁ」
客だし大丈夫だよな。
「はい、お願いします」
修理道具を持ってやってきたあんちゃんが、ボクの顔を見て止まる。
「ああ~、………んんん?」
え?何?あんちゃんが眼つけてきた。
なんで、客に眼つけるの?……目を逸らしたほうがいいのか?逸らさないほうがいいのか?威嚇してくる犬とは目を合わせないほうがいいらしいけど、人間の場合はどっちなんだ?
「おい、何やってんだ。コウイチ!お客さんに失礼だろっ!もういい。お前はすっこんでろ!」
おじさんが見かねて、あんちゃんを店の奥に引きずっていってくれた。
「悪いね。息子なんだけど、どうにも愛想がなくて」
愛想の問題じゃない気がするけど……。息子さん、完全に喧嘩を売ろうとしてた気が……
お詫びだと言って、自転車屋のおじさんがタダでパンク修理してくれた。懐が寂しくなってたからある意味助かったけど、父親というのは、大変だな。
✼
今日はどんよりとした雲が空を覆っている。雨が降るのか降らないのか分からない天気というのは厄介だ。
教室に入るなり、中村が近づいて来て、メンチ切ってきた。またか……
「う~ん、どう考えてもな~。気のせいか。オーラが全然違うしな~」
オーラ? 中村のやつ、オカルト趣味にでも嵌ったのか?
「でも、なんか似てる気がするんだよね」
同じ中学だった田原さんまで近づいてきて、じっと見てくる。
「なに?」
「ん~、変なこと聞くけど、遠岳くんって、もしかしてさ」
半眼になった田原さんが声を潜めて顔を近づけてくる。
「バンドやってたりする?」
………………え?
「え? なんで?」
バレた? いや、別に隠してるわけじゃないからいいけど。何で、いきなりバレたんだ?
「あ~、やっぱり違うか~。そういうタイプじゃないよね。遠岳くんって」
「だよな~。遠岳に限って、バンドはないよなぁ」
何も答えないうちに、田原さんと中村が勝手に否定して勝手に納得してしまった。オーラって何?
「気にすんな。他人の空似ってやつだよ。遠岳には無理なことくらい分かってるさ」
何が分かったんだ?
状況が全く分からないまま、席に着くと、少し離れたところにいる女子数人と目が合い、すぐに全員が首を振った。
なんだ? 何かあったのか? 他にもチラチラ見てくるクラスメイトがいるけど、視線が合うと逸らされてしまう。
まあ、伊与里先輩と関わるようになってから、こういうのは慣れたけどさ……
モヤモヤはする。
✼
家に帰ると、いつもは犬の寅二郎が大はしゃぎで駆け寄ってくるのに、どこにもいない。辺りを見渡すと、身を隠すように物陰から、じっと睨みつけてくる寅二郎の姿が。寅二郎、お前まで眼つけるのか……
「散歩、行くか?」
「うああぁん」
駆け寄ってきた寅二郎の足元から、花柄の兎のぬいぐるみが転がってきた。耳が取れて綿が飛び出してる。壊してしまって気まずくて隠れてたのか。犬は分かりやすくていいな。人間はよく分からないことが多すぎる。