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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章
129/133

霧の中

 

「君たち、出演予定の『ザッシュゴッタ』だよね?」

「は、はい、そうです!」


 スタッフの一人がボクたちに気づいて、声をかけてくれた。


「えっと、ごめんね。連絡が行き届かなくて……。その、見ての通りで……」


 疲れた顔したスタッフが、半壊したステージに身体を向ける。


「……中止ってことですか?」

「業者に連絡を取ってるところで、何とも言えないんだけど……。機材は運び出していたから無事なんだけどね。再開するにも、時間がかかりそうで。中止になる可能性が高いかなぁ」


 これからステージを建て直したとして、今日、最初に出演するボクたちの出番には間に合わないだろう。


「ああぁぁ、マジかあぁ。この日のために新曲仕上げてきたのにぃ」

「新曲?!」


 将さんが絶望の声を上げると、どこからか馴染みのない声が聞こえてきた。

 声のしたほうを見ると、厳つい男たちが、こっちを見ていた。


「ノーテンキレッドの……」


 タトゥーに髭。特徴的な見た目なので、すぐに誰か分かった。

 確か昨日が出番だったんだよな。ノーテンキレッドさんたち。

 準優勝がノーテンキレッドで、優勝がゴシックメタルのヴンシュ。観たかったけど、我がまま言える立場でもないのであきらめるしかなかった。


「近江や。元気やったか?タケ」

「え?はい、元気でした」


 ボクのあだ名、覚えてくれてたのか。言い出しっぺの先輩たちでさえ、すっかり忘れてる様子なのに。


「新曲か。どんなんや?ええ曲か?」

「はい!エモな感じのある曲で」

「おおとぉ、説明はなしや。この後の楽しみがなくなるからのぉ」


 ボクの目の前に手のひらを突き出し言葉を遮る近江さんは、まだ知らないのだろう。


「いえ、……その、今日のライブはなくなったので……」

「ああ、ステージな」


 ボロボロのステージに近江さんが近づいていく。近くにいたスタッフを呼び止め話し出した。


「予備のテントはないんか?」

「前回まで使っていたものなら、一応、持ってきてますが……」

「なら、俺らが建てたるから持って来てんか」


 近江さんのとんでもない提案に、スタッフが驚きのまま固まってしまう。

 テントといっても、ステージを覆うほど巨大なもので、素人が簡単に建てられるものではないだろう。しかもステージの一部は焼け焦げているし、いくら体格のいい近江さんたちでも無理すぎる。


「いや、そんなことさせるわけには……」

「俺らは副業で、大工仕事もしとるからな。このくらいなら、すぐ、建て直せる。それに、俺らにとっても、このステージは特別やからのぉ」


 有無を言わせず、ノーテンキレッドの面々が動き出す。スタッフを集めて、現場を仕切りだす。よく声の通る近江さんの声かけで、意気消沈していたスタッフの足取りも違ってきた。


「……俺たちも手伝います」


 将さんが近江さんに声をかけるが、追い払うように軽く手を振られてしまった。


「いらん、いらん。これから舞台に上がるミュージシャンはな、最高の歌を聴かせることだけ考えとったらええんや。それが一番の手伝いや」


 そう言って、近江さんがボクたちのほうに顔を向ける。


「期待しとるで。新曲」


 そう言って、親指を立てると、背を向けて歩き去っていく。

 かっこいいなぁ。大人って感じだ。熱狂的ファンがつくのも頷ける。




 スタッフの控え場所に案内され、軽く打ち合わせをすることに。状況次第で、中止にするかどうか決めるらしく、それまで待機していてほしいということだった。

 ヒソヒソと噂話をしているスタッフさんたちの会話が耳に届いてくる。


「聞いた?今日、出演予定のキャレットが……」

「ああ、突然の解散報告だろ。……なにがあったんだろうな」

「来年で結成20周年だっていうのに。変だよね」

「まあ、今日の出演さえ無事にやり遂げてくれれば、それで……」


 キャレット、解散するのか。ずっと第一線で活躍してきたバンドなのに。急だよなぁ。

 今日のキャレットのライブ、観客が殺到しそうだな。解散前に一度は観ときたいもんなぁ。




 小高い丘の上でステージの様子を見守っていたら、静かだった公園が少しずつざわめきだしてきた。

 会場時間になったのか。他のステージは予定通りはじめるらしいから、当然なんだけど……。ちょっと焦るな。

 驚くことにブルーウォーターステージは、ほとんど元の姿に戻っている。設備の確認と機材の設置がすめば、再開できるとのことだ。時間的に、ボクたちが演奏できる時間を取れるかは微妙らしいけど。

 何もできずに待つだけというのは、落ち着かないな。意味もなくうろついてしまう。



 霧の中で、こちらに手を振っている人物がいる。

 シルエットだけでも、分かった。レイくんだ。約束通り来てくれたんだ。


「洋太!大丈夫だった?!」

「レイくん!……大丈夫って?」


 霧の中から現れたレイくんは、なぜか焦っている。何かあったのかな?


「ステージが雷で燃えたって、噂になって……」

「ああ、それなら、大丈夫」


 ステージを指さすが、そこには、もう半壊したステージはない。


「デマだった?」

「雷で半壊したのは本当なんだけど、すでに修繕を終えたとこなんだ」


 再建されたステージは、霧の中、ライトに照らされているせいかな。昨日見た時より落ち着いた感じで、すごくいい雰囲気だ。


「よう、レイ、久しぶりって程でもねえか」

「巳希!凪!将吾!応援に来た」

「おう、頼むぞー」

「応援ってことは、差し入れ持ってきたか?」


 少し離れた場所にいた先輩たちがレイくんに気が付いて、やってくる。


「持ってきた」

「お?なんだ?金目のものか?」

「ライブ終わったら渡す」


 先輩たちにではなく、ボクの向けて笑みを浮かべるレイくんに、その差し入れが何か思い至る。


「それって」

「遠岳―!」


 ボクの名を呼びながら遠くから走ってくる人物がいる。駆け寄ってくるその人影に驚く。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  カッコいいですね、これは人気もでますわ。  今だにノーテンキ呼ばわりの遠竹さんw   気合いも入っただろうしライブでは魅せてくれるといいな。
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