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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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夕日

 

 行きと同じく2等和室に向かう。


「レイくんは、特等室だよね?あとで遊びに行っていい?」

「もちろん」


 最初はレイくんもボクたちと同じ2等和室を望んでいたんだけど、さすがに床に雑魚寝はダメだとオルヴォさんに拒否されて、レイくんとオルヴォさんは特等室に乗ることにしたようだ。

 世界的金持ちが泊まる場所じゃあないよなぁ。



 特等室に遊びに行ったり、船内をウロウロしているうちに、あっという間に夕方近くなった。寅二郎も連れ出してみんなで、デッキに向かう。もう島の姿は見えない。海だけだ。

 マスター手作りのサンドイッチと先輩たちがバイト先から餞別としてもらった串焼きやなどをベンチに広げて食べだす。なんとなく、島の味がする気がした。


「島にいる間に、カラクリ箱、開けられなかった」


 レイくんがリュックから取り出したカラクリ箱を見つめながらタメ息をつく。千春ちゃんから手渡されたウミガメの模様が入ったカラクリ箱は、複雑な作りのものらしく、レイくんはいまだに開けることができていない。


「何が入ってんだろうな?」

「ここまで色々やらされたんだ。それなりのお宝じぇねえと、納得できねえな」


 先輩たちもカラクリ箱を眺めながら、アイスコーヒーを飲む。


「まあ、ここまで来たら気長に」

「君たち、ここにいたのか」

「オルヴォさん」


 宮さんの言葉を遮って、かけられた声に振り向くと、レイくんの家庭教師のオルヴォさんがいた。笑顔で近づいてくる。どうしたんだろう?

 手に持っていた紙袋をボクに渡してきた。中を見ると、焼き菓子が入っていた。


「泊っていたホテルのだから、美味しいよ」

「ありがとうございます」


 オルヴォさんも最初の頃は人を寄せ付けない感じだったのに、ずいぶんと気さくになったよなぁ。


「オルヴォさんも変わったよなぁ」


 将さんも同じことを思ったようだ。


「何の話だい?」

「島に来たときは愛想なかったのに、オレたちに菓子くれるようになったから」

「ほんとだよなぁ。菓子くれるなんて、何が目的なんだ?女子高生の紹介なんてしねえぞ」


 宮さんと伊与里先輩が疑わしそうにオルヴォさんを見ている。


「失礼だな。そんな回りくどいこと、するわけないだろ」


 呆れたようにオルヴォさんが顔をしかめる。


「回りくどいことしないってことは、……オレたち狙い……」

「君たち、ほんと失礼だよ。紹介なんて必要ない。自分から声をかけるという意味だよ。それに女性なら誰でもいいわけではないよ。ボクは知的好奇心にあふれている女性がいいんだ」


 オルヴォさんの顔が、しかめっ面からニヤついたものに変わる。特定の女性を思い浮かべているようだ。あの女性だろうな。レイくんに話しかけていた女子大生のうちの一人……


「ベルナルディノとボクが小笠原島に行って変わったって話してたんだよ。オルヴォもだよね」

「ああ、そういう話か。別にボクは変わってないけどね。レイモンは変わったというより、元に戻ったと言うべきかな。ベルナルディノは確かに変わったね」


 オルヴォさんはベンチに座らずに手摺に寄りかかって、瓶ビールを開けて飲みだした。


「オルヴォさんはベルナルディノさんのこと知ってるんですか?」


 意外だ。あまり共通点なさそうなのに。


「少しはね。遠縁とはいえ親戚だから。といっても、変わる前のベルナルディノとの関わりといったら、アラリコの葬儀で見かけた程度だけどね」


 親戚だったのか。そう言えば、そんな話をレイくんから聞いたような……


「誰も寄せ付けず、ただ死を悼んでいた。あの時は僕もまだ子供だったからね。気持ちを推し量ることはできなかったけど、今なら少しは分かるかな」


 オルヴォさんの低い声が静かに響く。


「戻ってきた時には別人かと思ったよ。顔つきが全然違っていたからさ。レイモンのこと過保護なくらい気にかけて。レイモンの家庭教師も元々はベルナルディノがはじめて。……そうか、ベルナルディノはあの島にいたのか。あの島でいい出会いがあったんだろうね」


 オルヴォさんがすでに見えなくなった島の面影を探すかのように、海に視線を向けた。


 出会いか。

 シロさんとボクが出会ったのは、ボクがまだ小学校に上がったかどうかくらいだったけど……

 ……困った顔してボクをいつも助けてくれていた記憶しかない。人を寄せ付けない感じは全くなかったような……

 ……そういえば、大人とはあまり話してなかったかな?

 ああ、でも、ボクが怪我したり海に落ちてずぶ濡れになってると、ボクを抱えてばあちゃんやご近所さんのとこに連れて行ってくれて色々話してたような……

 シロさん、もしかしてボクのせいで、のんびり一人でいられなかったのかな……



「見ろよ!夕日がきれいだぞ」


 オレンジに染まった将さんが、西の空に手を向ける。オレンジに黄色に紫に青。いろんな色が重なって、きれいすぎて怖いくらいだ。

 夕日がよく見える場所まで移動して眺めていると、他にも乗客が出てきて同じように見物をはじめた。


「グリーンフラッシュ、見えねえかなぁ」

「一度くらい見たいよなぁ」


 先輩たちが夕日を凝視している。東京に戻ったらグリーンフラッシュを見ることはできないだろうから、この夕日がラストチャンスになる。先輩たちに、一度くらいは見てもらいたいよなぁ。

 もうすぐ日が沈む。


「ベルナルディノが言ってたんだ。とっておきの贈り物をボクに贈るって」


 レイくんが夕日から目をそらさずに、静かに語りだす。


「あの島に行って、言葉の意味がわかった。ベルナルディノの贈り物を、ボクはもう受け取ったよ」


 あのカラクリ箱とは別の贈り物。


「それなら、ボクも受け取ったよ」


 シロさんからの贈り物。たぶん、シロさんが一番贈りたかったもの……

 それって、きっと、ここにいる……


「おおー」


 夕日を見ていた先輩や他の乗客から声が上がる。

 気のせいじゃないよね。太陽が沈む瞬間、緑に光った気がしたのは。



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