解明?
ジャクリーンさんたちが帰り、マスターと幼馴染たちがカフェに戻って来た。詳しい事情は話さず簡単に問題が解決したことだけ、マスターと幼馴染たちに伝えると、何も聞かずに喜んでくれた。
みんなでマスターが淹れてくれたアイスコーヒーを飲みながら一息つく。いつも以上に美味しいな。
おもむろに伊与里先輩が立ち上がった。
「さて、はじめるとしようか」
「なにをですか?」
伊与里先輩がやる気を出しているけど、何をする気だろうか。新曲の仕上げかな?
「何って、決まってんだろ。謎解きだよ。犯人も判明したことだしな」
歌の謎解きか。まだ、その問題が解けてなかったか。
「そうは言ってもなぁ」
「さっぱり分かんね」
「日本語、まだ難しいから力になるのは難しい」
宮さんと将さんとレイくんが、あきらめたように深いタメ息をつく。
「情けねえなぁ。オレはもう解けたってーのに」
「え?本当ですか?」
ニヤリと余裕の笑みを浮かべた伊与里先輩に、全員の視線が集まる。
「……そういや、遠岳のアコギ見て妙な反応してたな……。そうか!アコギか!」
「アコギですか?」
「アコギにアプリと同じウミガメが付いてただろ!それだよ!」
「ああ!そういえば!」
宮さんに言われて、シロさんのアコギを持ってくる。シロさんのスマホに入っていたアプリのアイコンがウミガメだった。ボクのアコギと関係があるはずだ。
「なんで巳希が言うんだよ!オレが気づいたんだから、オレに言わせろよ!」
「何の話だ?オレが気づいたんだろ?」
先輩と宮さんが小突き合いをはじめたけど、放っておこう。
二人以外でギターを取り囲む。
「このギターにヒントがあるってこと?かわいいウミガメのマークはあるけど……」
ヒヨちゃんが首を傾げると、幼馴染二人とレイくんも同じように考え込む表情になっている。
「う~ん、別に何も変わったところはなさそう……」
普通のアコースティックギターだ。数字や文字が書かれているわけでもない。
「ウミガメの印、そのものがヒントなんだよ。ギターやってたら、すぐ分かる」
伊与里先輩が宮さんを押しのけ得意げにギターの指板部分を指さした。
「そうか!ポジションマーク!」
シロさんのアコギは、指板のポジションマークがウミガメになっている。ポジションマークというのがヒントなのか。
「ポジションマークは基本、3・5・7・9・12・15・17・19・21の位置についてるわけだけど……。遠岳のアコギも同じってことは……」
「その数字がヒント?」
宮さんの呟きにレイくんの目が輝く。
「歌詞を出てくる順番に並べて……」
『朧月夜』 ナノハナバタケニイリヒウスレミワタスヤマノハカスミフカシ
『茶摘』 ナツモチカヅクハチジウハチヤノニモヤマニモワカバガシゲル
『春が来た』 ハルガキタハルガキタドコニキタヤマニキタサトニキタ
『赤い鳥小鳥』アカイトリコトリナゼナゼアカイアカイミヲタベタ
『この道』 コノミチハイツカキタミチアアソウダヨ
『兎のダンス』ソソラソラソラウサギノダンスタラッタラッタラッタラッタ
「歌詞の、3・5・7・9・12・15の文字を抜き出して……」
ナノ【ハ】ナバタケニイリヒウスレミワタスヤマノハカスミフカシ
ナツモチ【カ】ヅクハチジウハチヤノニモヤマニモワカバガシゲル
ハルガキタハ【ル】ガキタドコニキタヤマニキタサトニキタ
アカイトリコトリ【ナ】ゼナゼアカイアカイミヲタベタ
コノミチハイツカキタミ【チ】アアソウダヨ
ソソラソラソラウサギノダンス【タ】ラッタラッタラッタラッタ
「ハカルナチタ?」
「……意味不明だな」
まだ、何か足りないのかな?
「もう一つヒントがあったろ。壁紙の時計の数字526143の順に読んでいけば……」
壁紙の数字526143の順か……
⑤ ナノ【ハ】ナバタケニイリヒウスレミワタスヤマノハカスミフカシ
② ナツモチ【カ】ヅクハチジウハチヤノニモヤマニモワカバガシゲル
⑥ ハルガキタハ【ル】ガキタドコニキタヤマニキタサトニキタ
① アカイトリコトリ【ナ】ゼナゼアカイアカイミヲタベタ
④ コノミチハイツカキタミ【チ】アアソウダヨ
③ ソソラソラソラウサギノダンス【タ】ラッタラッタラッタラッタ
「1が4番目のナで、2が2番目のカ、3が6番目でタ……、ナ カ タ チ ハ ル」
ナカタチハル?……仲田千春
「千春ちゃん?!」
え?どういうこと?
「ナカタチハルって、看護師の千春さんのことだよな?」
「はい、そうだと思いますが……」
千春ちゃんとシロさんは仲良かったけど、どういうことだろ?
「何も知ってる様子なかったけどなぁ」
「そんじゃあ、まあ、今から、千春さんのとこに聞きに行くか」
宮さんと将さんたちが戸惑っているのも構わず、伊与里先輩が腰を上げる。レイくんも嬉しそうに後に続いた。
「あ、わたしたちは遠慮しとくね」
「マスターの手伝いしてるよ」
「千春ちゃんによろしく言っておいてね」
千春ちゃんの名前が出た途端、幼馴染たちがよそよそしくなる。千春ちゃんは幼馴染たちにとって、厄介な姉みたいな存在なので面倒なことになりそうな時は近寄ろうとしない。
これ以上、幼馴染たちをつき合わせるのも悪いし仕方ないか。
※歌詞を載せている曲は著作権切れのものを使っています。




