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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章
118/133

似てる

 

「どうかしたんですか?」

「……いや、なんでもねえ。それより、ほら準備しろ」


 準備を邪魔したのは先輩なのに。伊与里先輩って理解できないこと多いよな。

 みんなの前に立つ。なんか、スゴイ緊張する。


 隣に座っている宮さんが目で合図を送ってきた。

 ギターが鳴る。力強いのに癒される音色。


 覚悟を決めて歌おう。

 歌詞は適当だけど、なるべく歌詞の内容に合わせて……



 アラリコさんの歌は、やっぱりいいな。……でも、ボクが歌うと印象が変わってしまう。

 アラリコさんの声があってこその曲なんだよな。……力強さと、おおらかさと、ちょっとだけ切なさもあるアラリコさんの声でないと……




 歌が終わり顔を上げると、店内が静まり返っていた。

 ……バスマさんの次に歌ったら、微妙な空気になるよね。分かってはいたけど……

 レイくんと目が合うと、困ったような表情に変わった。……怒ってはなさそうだけど。……どうしよう、この空気。





 “………Por qué…”


 静寂を破って、誰かが呟いた。外国語だったみたいだけど……

 声の主は、どうやら秘書のアリシャさんみたいだ。みんなの視線が集まっている。でも、なんだか様子が変だ。その眼からぽろぽろと涙が……


「大丈夫ですか?」


 声をかけると、呆然とした感じでボクを見てきた。何かあったのだろうか?


 “ I wonder why. ”


 戸惑う空気など気にせずバスマさんが話し出す。英語なのでかろうじて分かる気もしたけど、レイくんに視線を向けると通訳してくれた。


「不思議。洋太の歌を聴くと、アラリコを思い出す」


 レイくんが伝えてくれるバスマさんの言葉に、どういう顔をしていいのか分からなくなる。


「アラリコとは全然違う。声も響きも、それなのに重なる。って、ボクもそう感じる」


 バスマさんの言葉にレイくんも同意を示す。その場の全員がボクの顔をじっと見てくる。何と言ったらいいんだろう。


「当然ね 歌を教えた人が同じなのだもの」


 楽しそうに笑い出したジャクリーンさんが、ボクにウィンクして寄越した。


「同じ?」


 そう言えば、伊与里先輩が言ってたな。シロさんに教えてもらった声遊びはボイトレになっていると……。ボクが遊びだと思ってただけで、シロさんから声の出し方を教わってたらしいから、ボクの歌の師匠はシロさんということになる。

 つまり、同じってことは……


「アラリコは 弟のベルナルディノから 歌い方を教わったの おかしいでしょ」


 懐かしそうに話すジャクリーンさんの眼差しは優しい。


「アラリコと洋太 違うのに 同じと感じるのは ベルナルディノの影響ね」


 アラリコさんとの共通点なんて思っても見なかった。自分とは違う世界に生きていた伝説の人物という感じで……



「……どうして?あなたはそんな風に歌えるのに……」

「え?アリシャさん?」


 アリシャさんの口から流暢な日本語がこぼれ出てきた。

 ……アリシャさん、日本語が話せたのか。


「日本語、話せたんですね」


 疑問を口にしてみたものの、答えることなくアリシャさんがボクから目を逸らし震えだした。

 どうしたらいいか分からず、レイくんを見ると感情の見えない表情をしていた。

 なんだろう。どうしちゃったんだろう?



「重要な話をする時ね」


 ジャクリーンさんがそう言って、テレザさんとアンナさん二人に何か話しかけた。二人は神妙な顔つきで頷くと、手を振って店から出ていってしまった。


 “ I’m satisfied with your Song. ”


 バスマさんもボクにハグして帰っていく。


「ボクとお嬢さん方も席を外した方がよさそうだね。車で送ろうか」

「その方がいいみたいだね。じゃあ、帰るね。レイくん、今日は、ありがとう」

「またね、洋ちゃん。伊与里さん、赤鐘さん、宮ノ尾さん、お先に。レイくん、ごちそうさまでした」

「レイくん、ごちそうさまでした。洋ちゃん、伊与里さん、また誘ってね」

「あ、うん、またね」


 マスターと幼馴染3人も店を出ていく。なんだか状況がわからない。

 重要な話というのは、なんだろうか。先輩たちはいつもと変わらないので、状況が分かっているみたいだ。ボクは何が何だか……




 人が少なくなって、静寂に包まれてしまった店内は居心地が悪い。

 ジャクリーンさんと目が合う。聞きたいことが山ほどあるんだけど、何から聞いたらいいんだろうな。


「アラリコさんって、どういう方だったんですか?」


 伝説のミュージシャンで、レイくんのお父さんでシロさんの兄……。そして、ボクと歌の師匠が同じ。話を聞いているうちにイメージが定まらなくなってきた。遠いのに近い。不思議な感じだ。

 ジャクリーンさんが窓の外に視線を向ける。


「……アラリコは 寂しがりだった。 世間では 太陽のように言われていたけど 繊細で傷つきやすい」

「そうなんですか?意外です」


 アラリコさんの歌には切なさや繊細さを感じることはあっても、本人にはそういうイメージがなかった。写真や映像を見たけど、太陽というイメージがぴったりだった。ミュージシャンなのに悪い噂のない輝く太陽。


「ベルナルディノさんは、どんな感じですか?」


 レイくんから聞いたベルナルディノさんのイメージはぼんやりしている。ボクの知っているシロさんとは全くイメージが合わない……

 ジャクリーンさんから見たベルナルディノさんはどんな人なんだろうか。


「ベルナルディノ……。 私にも わからない。アラリコがいた時は 話も ほとんどしたことなかった。 人と関わることを避けていた感じね。 ……日本から戻ってきてからの ベルナルディノは、 ……そうね 」


 少し考えるように天井を見た後、ジャクリーンさんの視線がボクに戻る。


「洋太に似てた」

「ボクに、ですか?」


 シロさんと似ている……。う~ん、それはどうだろうか。シロさん、おっちょこちょいなところあったし、お気楽というか、わりと適当なところがあって島の人って感じだった。ボクとは似てないと思う……


「若い時の アラリコは 今のレイに似てる」


 ジャクリーンさんの言葉にレイくんが驚いた顔をする。レイくんはアラリコさん似なのか。見た目はジャクリーンさんに似てるけど。そういえば、声はアラリコさんに近いよなぁ。


「レイくんってお父さん似だったんだね。じゃあ、ちょっと、歌ってみて」

「なんで?!」


 レイくんが驚愕の表情でボクを見てくる。そんな思いっきり拒否しなくても……。ちょっと聴いてみたかっただけなのに。


「似てるのは性格 歌声は似てない」

「そうなんですか……」


 ジャクリーンさんが息子のレイくんを庇うように言葉を継ぎ足した。

 そんなにレイくんに歌わせたくないのかな?



「アラリコに似ている人はいない。アラリコは唯一の存在」


 低く唸るような呟きが、突如割り込んできて驚く。

 話し出したのは、アリシャさんか。……なんか、怒ってるような……




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