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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章
114/133

ディナー

 

 南島から戻った後、オルヴォさんがお詫びにレイくんたちが泊っているホテルで夕食を奢ってくれるというので、ばあちゃんと隣の磯村さんも呼んだ。オルヴォさんは意外にも嫌な顔せず歓迎してくれた。

 その理由はすぐに分かった。ばあちゃんたちとオルヴォさんの会話で。オルヴォさん、ばあちゃんたちに、日本の女性と付き合うにはどうしたらいいか相談しはじめたからだ。

 ばあちゃんたちを連れて来るべきじゃなかったかも。


 先輩たちとレイくんと、テラス席に移ってデザートを注文する。もちろん、オルヴォさんのおごりだ。


「犯人は捜しあてたのになぁ。結局、まだ本命は分からずじまいか」

「そういや、南島での曲は何だったんだ?」


 将さんと伊与里先輩が、思い出したように宮さんとレイくんに視線を向ける。


「南島の扇池の曲は、『赤い鳥小鳥』だった」


 宮さんが録音した曲を流す。子供の時に聴いた童謡。小学校の音楽の授業じゃなく、シロさんから教わった記憶がある。シロさんは童謡や古い日本の曲が好きだった。



「これで全部だな」

「歌詞の順に並べると……」


 三日月 『朧月夜』

 沈没船 『茶摘』

 石の橋 『赤い鳥小鳥』

 天文台 『この道』

 太陽  『兎のダンス』



「気づいたことあるか?」


 将さんが全員を見渡して尋ねるが、一様に困った顔になるだけだった。


「ファ、レ、ファ、……関係なさそうだよな」

「縦読みで、……お、ちゃ、あ、こ、う?関係ないか」


 伊与里先輩と宮さんが思いつくかぎりの案を出すが、これといって意味がある言葉は浮かんでこない。


「スペイン語に訳す必要があるんじゃねえか?」

「おう、それだ!レイ、この題名をスペイン語にしてくれ。先ずは、『おぼろづきよ』から」

「OK、…………おぼろづきよ?なに?」


 レイくんの質問に、全員の動きが止まる。そう言えば、おぼろづきよって、どんなんだ?


「え?あー、春の霞んだ月だよ。こう、……訳すのは、なんか違いそうだな」

「訳し方が何通りもできそうだしな」


 日本語でも説明しづらい言葉を、ぴったりと合うスペイン語に訳すのは難しそうだものなぁ。


「他にヒントになるようなものないか?もっと調べてみろよ」

「そう言ってもな。スマホの中には余計なものは何も……」


 白いスマホを手にした伊与里先輩が、表示されているアイコンを片っ端から開いていくが何も見つからないようだ。


「ふああ~あ、眠くなってきた。美味いもんたらふく食ったからかな」

「ショウグン、子供じゃねえんだから。いくら何でも……。って、あれ?今、何時だ?」


 伊与里先輩が奇妙な事を言い出した。


「何時って、手にしてるそのスマホに時計ついてるだろ。……1時43分って表示……」


 伊与里先輩の問いかけに答えかけた宮さんの言葉が止まる。シロさんのスマホに表示されているアナログ時計の針は1時43分を指しているけど……


「今、8時ですよね……」


 ホテルの壁に掛かっている時計の短い針は8時を指している。食事をはじめたのは夕方からだったし、さすがに深夜になるほど長居しているはずはない。

 故障?スマホの時計が狂うことなんてあるのか……


「これ、壁紙じゃねえか!」


 シロさんのスマホを握りしめた伊与里先輩が、画面を睨みつけながら声を張り上げた。

 どういうことかと、全員がシロさんのスマホを覗き込む。シロさんのスマホのホーム画面には検索バーと時刻とアイコンが表示されている。至って普通だ。

 ……と思ったけど、アナログ時計が全く動かない。時計はただの絵のようだ。


「日付も違うな。5月26日になってる」


 時計に小さく描かれている日付も全く違う。


「これが、ヒントか!」


 先輩たちがどよめく。ずっと、目の前にヒントがあったのに気付かなかったなんて……


「526143?これと、集めた曲と照らし合わせ……。歌、5つしかねえぞ」

「ということは、まだ全部そろってないってことか」


 伊与里先輩の指摘に、観光マップを取り出し、もう一度確認し直す。


「他に詩と重なりそうな名所となると……、コペペ海岸、初寝浦展望台、ハートロック」

「ハート!」


 レイくんが胸をとんとんと叩く仕草をする。


「ハート、心臓か!歌詞にあったよな。うっかりしてた」

「これは決まりだろ」

「じゃあ、早速、行って」


 先輩たちとレイくんが盛り上がる。


「ハートロックですか……」

「なんだよ。遠岳、遠い目して」

「ハートロックに行くには、森の中を歩いて行くしかないんですが。往復6時間ほどかかるんです。ガイドも必要です」


 盛り上がっていた先輩たちの顔が戸惑いに変わっていく。


「……往復6時間?!」

「また、歩くのか……。しかも6時間……」

「何が目的でこんなに歩かせようとするんだ?もっと、身近な観光地あるだろ」


 音楽中心の生活をしている先輩たちが、森の中を6時間も歩いたりすることは、あまりないだろう。戸惑うのも仕方ない。ハートロックまでの道のりは険しい。


「Randonnée!すごい、楽しみ!お弁当を持っていきたい。どこで買える?」


 レイくんは楽しそうだな。森の中を6時間歩くと言ったのに、レイくんの目は輝いている。見た目は優男なのに、レイくんは意外にアウトドア派なんだな。



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