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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章
110/133

スキャンダル

 

 庭から潮風が吹き込んでくる。

 何か言った方がいいのだろうけど言葉が出てこない。


「……アラリコの曲は、実際は、父ではなく、……叔父ベルナルディノが作った。そう思うようになった」


 アラリコさんの曲をベルナルディノさんが作った?

 ……どういうことだ?それじゃあ、


「それは事実なのか?」

「叔父さんに確認したのか?」


 先輩たちは半信半疑という感じだ。先輩たちにとっても憧れのミュージシャンであるアラリコさんのスキャンダルは、簡単に信じられるものではない。


「ベルナルディノに聞いたけど……。覚えないとしか言ってくれなかった。でも、その様子は変だった。ボクがさらに追及すると、代わりに話してくれたのが、……ベルナルディノの病気のことだった」


 淡々と話すレイくんの表情が曇っていく。あまり聞きたくない内容で……


「……病気で、……長くは生きることできないと」


 うつむいているレイくんがどんな表情をしているかは分からない。……でも、ボクと気持ちは同じだと思う。


「ベルナルディノの病気は進行していった。ボクはどうしても確かめたくて、もう一度聞いた。ベルナルディノは質問には答えてくれなかったけど、秘密を残すから解き明かすようにと言って、ボクにこのモバイルを……」


 白いスマホを取り出し、じっと見つめるレイくんの表情は悲しみだけではない、強さのこもった眼差しで……

 父と叔父の秘密……。複雑だろうな。


 外はもう暗い。小笠原の夏は、東京より少しばかり早く日が沈む。東京と違って明かりの少ない島だから、日が沈むとあっという間に真っ暗だ。


「作曲者の話、今のところ、確証はないんだよな?」


 いつもと変わらない口調で伊与里先輩が尋ねる。


「証拠ない。でも、ジャクリーンが洋太に接触したのは……」


 レイくんがすまなそうにボクを見る。


「アラリコの秘密を知られないようにするため、と考えられるわけか」


 宮さんが眉を寄せる。


「……それが事実なら一大事になるな」

「だよなぁ。アラリコ・マルチェナは作曲家として権威ある賞を色々ともらってるしな」


 世界的な英雄のスキャンダル。


「犯人が狙ってるのが、歌の権利じゃなく、その情報だとしたら」

「脅迫ネタにもなるし、マスコミに売れば一攫千金」

「アラリコ・マルチェナの遺産だけでなく、妻のジャクリーンも大富豪だしな。いくらでも金を引き出せる」


 先輩たちの言葉にレイくんが落ち込んでいく。


「まあ、でも、まだ決まったわけじゃないだろ。レイのただの思い過ごしということもある。考えるなら、秘密を解き明かしてからだな」

「それもそうだな。秘密が分からないことには、脅迫者を捕まえても解決にならない」

「気合い入れて、謎解きと行こうぜ!」

「はい!気合い入れます」

「気合い入れる」


 全てはあの歌の秘密を解いてからだ。

 秘密が分かれば、……分かれば、……どうなるんだろう?




 少し早めにカフェのバイトを終え、レイくんと同じくバイトを上がった先輩たちとバスに乗る。

 これから三日月山展望台まで行く予定なんだけど……


「洋ちゃん、ギターを燃やされたんだって?」

「そんな悪ふざけする奴ぁ、とっちめてやらねえとな。犯人は分かってないのかい?」


 島の人たちが燃やされたギターのことで声をかけてくる。力になってくれようとしてくれるのはありがたいんだけど……。なんでみんな知っているのか。幼馴染たちが言いふらしたのかな?


「その眼は何?」

「え?いや、なんでみんなギターのこと知ってるのかなって思っただけで……」


 なぜか一緒のバスに乗り込んできた幼馴染3人と目が合って慌てて逸らす。


「私たちのこと疑ってるでしょ?」

「え?……その……」

「あれだけの事件なんだから、私たちが言いふらさなくたって、すぐに島中に噂は広がるよ」


 呆れたようにヒヨちゃんがボクの額を突っつく。

 そうか。ここは小笠原だものな。警察まで動いたら島中に知れ渡るのは時間の問題か。


「……マズいかもな」


 伊与里先輩がぽつりとつぶやいた言葉に首が傾ぐ。


「なにがですか?」

「島中に事件のことが知れ渡ってるのがさ……。犯人が追い詰められて、もっと過激なことしてくるかもしれねえだろ」


 真面目な顔を作ってるけど口元は笑ってる。自分のギターを燃やされたのに、なんで先輩はこんな余裕があるんだろ?


「過激なことですか……」


 ギターを燃やすような脅迫者だものな。警戒した方がいいか……



 バスから降りて歩き出す。三日月山展望台までは少し歩く必要がある。


「容疑者のアリバイ、調べてきたぞ。感謝しろー」

「ありがとう。感謝してる」


 ヒヨちゃんがレポート用紙を取り出し目の前にひらひらさせた。幼馴染たちがついてきたのは報告のためか。ここなら誰にも聞かれないから都合いいものなぁ。


「ギターが燃やされた、あの日は午後から曇ってきたんで、ジャクリーンさんたちは、展望台には行かなかったみたい」

「みんなホテルに戻ってたって話なんだけど、みんなバラバラに動き回っていて本当にホテルにとどまってたか判然としないって。変装して抜け出しても気づかないだろうし、アリバイはない感じかなぁ」

「アリバイを証明する人や物はなしってことか」


 観光客の多いこの島では、見知らぬ人が海岸を歩いていても誰も気に留めない。目立つ人たちだからこそ変装していたら気づかれないだろうしアリバイ証明は難しい。


「オルヴォも同じ。 ホテルにずっといたと言ってる。でも、部屋に籠っていたから事実わからない」


 レイくんの報告も同じような感じだけど、オルヴォさんは目立つ体型してるから目撃者は捜せばいそうではあるな。


「バスマさんはアリバイありだったよ。あの時間、店で飲んでたって証言あり」

「アリバイがあるのはバスマさんだけか」


 まあ、バスマさんじゃないよなぁ。バスマさんのような有名人は一挙手一投足を見られてるだろうし、犯行を行うには無理がある。


「あとね。みんなの島での様子も聞いてきたよ」

「そんなことまでしてくれたの?」

「捜査の基本だからね。当然よ」


 ナナちゃん、探偵みたい……


「ジャクリーンさんは島を満喫してる感じだね。観光客と同じように、ダイビングにシーカヤックにセーリングに。仕事もしっかりしてるって」


 怪しい行動はないってことか。


「カラフルな髪のテレザさんは、ちょっと怪しいかな。写真を撮りまくってるみたいなんだよね」

「観光地に来たら普通だと思うけど?」

「それが、景色や人を撮ってるわけじゃなく、海の水面や石、葉っぱ、木の幹とか、妙なものばかり撮ってるらしいの」


 それは確かに奇妙だ。そんなものを撮ってどうしようというんだろう。


「ハーフのアンナさんは、島の人たちに話しかけまくって仲良くなってるみたい。千春ちゃんとも仲良くなって、いっしょにお酒を飲んでたって」

「アリシャさんは、海で泳ぐこともなく、ジャクリーンさんといるか、ホテルで仕事してるかみたい」


 う~ん、怪しいような怪しくないような……


「バスマさんはジャクリーンさんと同じ。観光してるなぁって感じだね」


 動機がありそうな二人が、怪しい行動なしか……


「あとは、唯一の男性オルヴォさんね」

「オルヴォさんはちょっと謎で、ホテルに籠りきりのことが多くて、何をしているかは不明。たまにホテルの宿泊客のおじさんたちと政治や社会情勢的な難しい話をしたりしてるみたい」


 観光客だったら小笠原に来て海で遊びもしないのは変だけど、レイくんの家庭教師として来ているなら、こういう人もいるだろうしなぁ。怪しいとまで言えないか……

 でも、情報収集してると考えたら……




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