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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章
102/133

張り紙

 

「レイ 洋太 ハロー」

「Jacqueline!?」

「ジャクリーンさん」


 車の中から手を振っているジャクリーンさんが顔を出す。なんていいタイミング!


「乗せて下さい!」

「どうしたの?」


 不思議そうにボクたちを窺うジャクリーンさんに、うまく説明できずに背後を指さし助けを求める。


「ヨオオオウウウタアアアァァァァ」


 陸に上がったバスマさんが、猛スピードでこちらに駆けてくる。速い。砂浜に足を取られることなく、陸上選手のごとく突進してくる。


「猛獣ね  危険 乗りなさい」

「Non!」

「うあん!」


 拒否するレイくんを押しのけ寅二郎が飛び乗る。寅二郎はちゃっかりしてるよな。レイくんの背中を押して強引に乗り込むと、車が動き出す。

 間一髪、バスマさんを振り切ることに成功した。


「どこか行きたいところがあったら、送って行ってあげるよ」


 運転をしているのは茶髪ショートのアンナさんだった。どこでも行ってくれると言うなら天文台がいいか。


「それじゃあ、天も」

「洋太の家!」

「え?」


 レイくんに言葉を遮られる。

 なぜ、ボクの家?レイくん、歌詞に出てくる場所に行きたかったんじゃ……


「OK、洋太の家ね」


 アンナさんがルームミラー越しにウインクすると、ハンドルを右に切った。




 ばあちゃんち近くの海岸通りで車を止めてもらい降りる。レイくんも降りてくる。


「ありがとうございました。ジャクリーンさん、アンナさん」

「洋太 レイをよろしくね」


 ジャクリーンさんは母親らしい言葉を残して去っていった。



「レイくん、歌詞の場所に行くのはやめたの?」


 気が変わったんだろうか?

 レイくんは険しい顔で、車が去っていった方角を睨みつけている。


「ジャクリーン 歌の秘密 教える よくない」


 レイくんが悲しそうに目を伏せる。

 レイくんとジャクリーンさん、親子仲、悪いのかな?でも、確かに、ジャクリーンさんに報せるのはマズいか。




「じゃあ、うちに遊びに来る?なにもないけど」

「行く 楽しみ」


 楽しみにされても、本当に何もないんだよなぁ。ゲーム機もないし。

 先導する寅二郎の後に続くように、ばあちゃんちに向かって歩きだす。


「そういえば、レイくんはどこに泊まってるの?」

「アルベルゴ・ペペ 美空 紹介してくれた」

「じゃあ、ボクの家から近いね」


 アルベルゴ・ペペは、ばあちゃんちから歩いて10分弱の場所にある森の中のホテルだ。イタリア料理のシェフが経営してるホテルなので御飯がすっごく美味しいらしい。


 見えてきたばあちゃんちを指さす。


「あれがボクのばあちゃんちで」


 あれ?家の前に誰かいる。大柄な男性……。確か、あの人は……

 向こうもこっちに気が付いたようだ。


 “Raymond!”


 レイくんの名前を呼んで近づいてくる。思い出した。レイくんの家庭教師の、確か名前はオルヴォ……

 フランス語でまくし立てるように何か言っている。レイくんが、短く返事しているけど、何を言ってるのかは全く分からない。あまりいい感じではなさそうだけど。どうしたんだろ。

 レイくんがボクのほうに顔を向けた。


「ごめんなさい 今日の勉強 終わってない ホテルに戻る」

「あ、うん、じゃあ、また明日。ボクは明日からは、ここの海岸にあるグリーンの家でバイトしてるから、時間ができたらいつでも来て」

「また 明日」


 申し訳なさそうな顔をされてしまうと何も言えない。

 チラリとボクに視線を向けただけで挨拶もなくオルヴォさんは背を向け歩き去ってしまう。その後ろを追うように、レイくんも歩き出す。

 オルヴォさんって、ちょっと怖い感じだな。




 夕飯の後、先に海辺のカフェに向かったはずの先輩たちが浜辺で立ち往生していた。

 ……どうしたんだろう?

 先輩たちの足元で寅二郎がくるくる回っている……。先輩たちが通り抜けようとすると、素早く行く手に立ちふさがる。寅二郎の機嫌を損ねたため通せんぼされているようだ。先輩たち、何をやらかしたんだ?寅二郎の気がすむまでこの状態だろうな。

 ボクは大丈夫なので、一足先にカフェに行き、鍵を開けようとして手が止まる。


「これ、なんだろ?」


 カフェの扉に張り紙が貼られている。崩れた手書き文字で読みにくいけど、なんとか判読はできそう。



 〔遠岳洋太へ 気づいてますか?彼女があなたの友人と仲良くしていましたよ〕



 彼女?仲良く?友人というのは先輩たちのことだよな。だとしたら、彼女というのは……


「そんなとこに突っ立って、何してんだ?」


 中に入らず、張り紙を見つめていたら、伊与里先輩と宮さんが訝しみながらウッドデッキに上がってきた。二人の後ろには寅二郎を抱きかかえた将さんの姿が。抱えられている寅二郎の尻尾はブンブンなので、機嫌は治ったみたいだ。


「いつも寅二郎と仲良くしてもらっているみたいで、ありがとうございます」

「なんだ?急に改まって……」


 いきなりお礼を言ったため、先輩たちが不審がる。


「張り紙がしてあったので」

「張り紙?」


 簡単に説明して、ドアの張り紙を見せると、先輩たちの様子が変わった。


「……これって、そうだよな?」

「ああ、だろうな」

「島に来てるって、ことか……」


 なんだか深刻そうな顔で先輩たちが話し合いをはじめた。


「なんですか?なにかあったんですか?」

「なんですかって……、どう見ても、この張り紙、嫌がらせだろ」


 将さんがボクの顔をまじまじと見ながら、よく分からないことを言ってくる。


「……どの辺がでしょうか?」


 悪口を書かれているようには見えない。ただのお知らせだとしか……


「いや、普通さ。こう書かれてたら、遠岳の彼女がオレたちの誰かと浮気してると思うだろ?」

「寅二郎とですか?」

「寅二郎から離れろよ。そうじゃなくてだな。人間でラブ的な彼女……」


 人間でラブ的な彼女?


「彼女いないです……」

「……まあ、そうだろうけど」


 将さんが肺から空気を絞り出しているかのようなタメ息をつく。


「これを書いた人物は、遠岳に彼女がいると勘違いしたんだろうってこと」

「……意味がよく分からないのですが……」


 ボクに彼女がいたとして、何の意味が?


「つまりだな。遠岳に彼女がいた場合、この張り紙を見たらオレたちの誰かと浮気してると思い込んじまうだろ」

「彼女を奪うような男を信用できるか?無理だろ」

「オレたちを不仲にさせて、歌の謎を解くのを止めさせようとしたんだろうなって」


 疲れた顔で伊与里先輩と宮さんが交互に説明してくれる。


「なるほど!巧妙ですね。危ういところでした」


 先輩たちと仲違いさせようなんて、相当な策士だよなぁ。


「全く、危うくなる気配なかったけどな」


 伊与里先輩がなぜか哀れむような眼でボクを見てくる。


「彼女と聞いて思い浮かぶのが寅二郎だなんて、誰も予測つかないよな……」

「俺たちも思いもしなかったし……」


 宮さんと将さんがタメ息つくけど、先輩たちと仲がいいと言える女の子って、寅二郎くらいしか思い浮かばないよなぁ……

 どちらかというと、先輩たちに問題があるような……



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― 新着の感想 ―
[良い点] 軽快な先輩と洋太のやり取りがいいなあ。好きです。 寅次郎がとても可愛い。 [気になる点] 謎の解明が今か今かと待ち遠しいです。 [一言] 続き待ってます。
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