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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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良い名前

 

 島フェスも終わり、今日は、マスターと出店の片付け。昨日、さぼってしまったので役に立ちたいのだけど……。力仕事は苦手だ。

 木陰で休んでいた寅二郎がくるくる回り始めた。

 知り合いでも来たかな?寅二郎の視線の先に顔を向けると、レイくんがとぼとぼと歩いてくる姿があった。


「レイくん、おはよう」


 寅二郎がしょんぼりしているレイくんに飛び掛かっていく。


「    おはよう   」


 驚いたような表情になったレイくんが、ちょっとだけ笑顔になる。寅二郎を落ち着かせるように軽く横腹を叩きながら、こちらにやってくる。


「片付けが終わってなくて」

「   手伝う」

「本当!助かるよ!」


 先輩たちがいないので片付けが大変だったんだ。将さんが軽々と持ち上げていたものを、一人で持ち上げようとしてよろけてしまったり。




 昼過ぎには片付けも終わり、今日のバイトは終わった。マスターと別れ、レイくんと少し遅くなった昼食を取ることになった。

 生協で総菜パンと飲み物を買って、海が見える木陰のベンチに座る。寅二郎に水とおやつをあげると、静寂が訪れる。


 どうしよう。何を話したらいいんだろう。

 レイくん、頭よさそうだし、難しい事を考えてそうだよな。話合わせられるかな……

 バカっぽい話はダメだよな。賢そうな話題を振って、一目置かれることを目指そう。


「……レイくん、因数分解のことだけど」

「インス?」

「いや、違う……かな」


 いきなり数学の話はないよな。

 フランスのこと話せばいいのかな?フランスといえば、……なんだ?

 フランスパン?プードル?フレンチブルドッグ?ヴェルサイユ?ヴェルサイユ!


「ヴェルサイユ条約について、どう思う?」

「Versai?」

「っなんでもない!」


 どうしよう。会話の取っ掛かりが掴めない。


「かわいい 名前 なに?」


 レイくんに背中を撫でるよう要求している寅二郎を、どうやらレイくんは、かわいいと思ってくれてるようだ。


「寅二郎って言うんだ。女の子だよ」

「とらじろう いい名前」


 ……フランス人だから、よく分かってないんだろうな。まあ、いいか。


「   洋太  昨日 話 ごめんなさい」

「え?昨日?」


 昨日……?謝られるようなこと、なにか……

 ああ!あれか!


「いや、いや、謝らなくても。ボクが驚いただけで、レイくんはなにも悪くないのに」


 シロさんの話を聞いてショックで何も言わずに立ち去ったのを、機嫌が悪くなったと思ったんだな。そうじゃないんだけど、どう説明すればいいのかな。


「……ええっと、機嫌悪かったとかではなくて、……その、驚いたというか。……どう考えていいか分からなくなって……」

「    Oui 」


 レイくんは静かに相槌を打つだけだ。

 おかげで話しやすい。


「……シロさんの話をするのは……まだ……」


 うまく話せる気がしないし、落ち着いて話すのは難しい。

 海から突風が吹いて頭上の木々が揺れる。



「  ごめんなさい でも わたし 歌のこと 調べる いいだろうか?」


 レイくんが真剣な顔でボクに許可を求める。レイくんって真面目なんだな。


「……うん、ボクも歌のことは知りたい」


 あの歌にシロさんが関係しているというなら、どんなことでも知りたい。


「ぼくも 秘密 知りたい」


 海を見つめたままレイくんが静かに頷く。


「それじゃあ、ボクや先輩たちといっしょに歌のことを調べようよ。力を合わせれば、秘密がわかると思うんだ」


 スペイン語が分かるレイくんと島のことに詳しいボクと音楽に関する知識だけはマニアレベルの先輩たち。これだけ揃ってれば、大人にだって負けないだろう。


「いっしょに 調べる 洋太とナギとミキとショウゴと」


 レイくんがボクを見て笑顔で頷いてくれた。

 これで一歩前進……できるかな?


「レイくんはどこまで歌の秘密を解読できたの?この島と関係があることは気づいたんだよね?」

「この島 と 歌 関係?」


 意味が分からないといった表情になったレイくんに戸惑う。


「え?気づいてなかったの?わざわざこの島まで来たのは、気づいたからだと……」

「島に来たのは 洋太に会って 話したかった 大切な話だから」

「……そうなんだ」


 ……レイくんって、すごい誠実なんだな。大金持ちなのに。人を使わず、こんな遠い場所まで自ら来るなんて。

 ボクがシロさんの知り合いだと分かった、それだけのことだけど、それだけではないってことなのかな。


「それで 島と歌 関係 なに?」

「あ、うん、……あの歌詞に……」


 レイくんに簡単に歌詞とこの島の共通点を話す。歌詞に出てくる場所がこの島に存在していること。レイくんも興味を持ったようだ。


「行く どこ ある?」

「今から?」


 沈没船には一応は行ってみたけど、何も見つからなかったし、行くなら天文台のほうかな。でも、バスが出てないから、沈没船のほうが行きやすいか。


「じゃあ、バスに乗って」


 立ち上がると、寅二郎が遊んでもらえると思ったのか海のほうに走って行ってしまう。慌てて捕まえたけど……、見てしまった。いや、見つけたというべきか。海で溺れている?ミュージシャンのバスマさんを。


「レイくん、あれは溺れてるのかな?」

「Euh 溺れてる? ない? わからない」


 レイくんも分からないか。バシャバシャ水しぶきを上げて泳いでいるようにも見えるし、溺れているようにも見える……

 どっちだろう?外国人は動作が大きくて分かりづらい。

 ……溺れているなら助けたほうがいいよなぁ。一応、声をかけてみようかな。


「バスマさーん、溺れてますかー?」

「うおおおぁぁああん」


 寅二郎といっしょに声をかけると、バスマさんの動きがピタリと止まり、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 あ、溺れているわけじゃなかったか。


「ヨータアァァァァ」


 バスマさんがボクを認識した途端、凄い形相でバチャバチャと音を立てこっちに向かってきた。


「無事ならいいです!こっちに来なくて!」

「ヨオオウゥタアアァァァ」

「来なくていいです!」

「ヨオオウウウゥウタアアアァァァアア」

「来ないでください!」


 なんか外国語で叫んでいるけど何を言っているか分からない。


「見る しなかった どうして 言ってる」


 レイくんがバスマさんの言葉を通訳してくれる。

 見なかった?……そういえば、バスマさんのステージ、昨日だったか……


「レイくん、寅二郎、逃げよう!」


 海の中でもがきながらやってくるバスマさんに恐怖を覚えたのか怯えたように鳴きだした寅二郎を抱え、全力で駆け出す。レイくんも後に続いて駆けだす。


「ヨオオオウウウタアアアァァァァ」


 背後から聞こえてくるバスマさんの声は、やたら音量が大きくて恐怖を煽り立ててくる。どうしよう。なんで、あんなに怒ってるんだ?

 バス停を目指して走っていたら、目の前で車が止まった。



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