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妖精の住処  作者: 速水零
93/312

元カノと打ち上げ

珍しく長めです。


あらすじ

元カノとデート!

 いくつかのコーナーを回っていると柚の体にピッタリで不審がられないちょうど良い値段のアイテムを見つけた。


 葵にこれはどうかと確認すると「それムッチャいいじゃん。私も欲しい!」と太鼓判を押してくれた。


 ということで柚へのプレゼントは確定した。


 ウィンドショッピングしていくと新しい閃きが生まれるものなんだな。


「じゃあプレゼント選びは終了! 今度梱包して送るから一旦そっちの話は忘れようか」


「オッケー。これから何する?」


「葵が誘ってきたんだろ。何したい?」


「久しぶりに楽しく遊びたかっただけだから何にも考えてなかった。んー、打ち上げでやることかー」


 葵は過去にクラスの友達と打ち上げで遊んだ記憶を呼び起こして何を涼としたいか考える。


 女子友達と遊ぶときは結構プリクラを撮ったりするけど、涼はやりたがらないだろう。中学校一年の時一緒に撮ったことがあるが、こんな小さな写真を撮るだけでなんでこんな高いんだって言っていた。


「あ、そうだ。カラオケ行こうぜ。そういや一度どこかのタイミングで行こうかなと思っていたんだよ」


 柚に見せつけるために行きたいというのもあるが、いつか外に連れ出すことができて一緒に行く時の予行演習をやっておきたかった。


 涼は光や他の友達とたまにカラオケに行くがあるけど、経験回数は片手で足りてしまう。


「え……涼が………カラオケ? ほ、本当に行きたいの?」


「そんな驚くことか? ……まあ、中学の頃のことを考えたらそんな反応もするか」


「当然でしょ。そりゃバイト一緒にやってて少しは変わったなーって思うようになったけど、カラオケとか元から興味なかったじゃん。一度一緒に行ったけどさ。これも柚さんの影響なのかねー。いやー、涼の成長が見られてお姉さん嬉しいよ」


「誰がお姉さんだ。確かにカラオケはほとんど興味なかったけど、最近は少し行ってもいいかなって思うようになったんだよ。歌うのは元から嫌いじゃないし」


 カラオケは料金が高く、ただ歌うだけの場所というのが昔の涼のイメージだ。少ない小遣いを使ってまで行くところではないと思っていた。


 高校に入ったら入ったでお金に余裕はできてきたが、わざわざ足を運ぶ気にもなれないので、誘われない限りノータッチで存在すら忘れていた。


「ふーん。涼とカラオケか〜……絶対楽しい!」


「そう言ってくれると嬉しいけど、葵の期待するようなノリはないからな」


「そこまで進化しているとは思わないしオッケー。はっちゃけるって言ったらもうカラオケしかないし、決定!」


 大きな駅なだけあってカラオケはそこら中にあった。


 葵は軽音部なだけあってカラオケの店にも詳しく、会員カードも何種類か持っていた。一番オススメの店が近くにあるというので案内されつつ談笑して向かう。


「このカフェ一度涼と一緒に入ったことある。覚えてる?」


「ああ、確かなんたらフレペチーノとかってやつをみて興味が湧いて頼んだんだよな。馬鹿みたいに甘くてもう二度と飲むかって思ったんだ。何話してたんだっけ?」


「あの時もテストがどうだったかなって話してたね。ほら、あんなくらいの時! 可愛らしいかも」


 葵は中学校入りたてくらいのカップルを指差して自分達と重ねた。恥じらいながらもギュッと手を繋いでいる姿が妙に初々しくて見ていて心温まる。


「あー、確かにあの時の葵そこの女の子みたいだったな」


「りょ、涼だって……あんなに初々しくはなかった。無邪気な幼稚園児が女の子友達の手を握る感じ?」


「そこまで能天気じゃなかったって。なんでわざわざ手を繋がなきゃならないんだって思ったりしたけど、いざつなぐとなった時はそこそこ緊張してたよ」


 男友達みたいに接していたとはいえ、妙におめかししてやってくる彼女相手に心動かされないほど、あの時の涼はドライじゃない。そもそもそんなの鈍感以前の問題だろう。


 手を繋ぐのを嫌がっていたのはそういう恥ずかしさもある。


「そうだったんだ。……初めて知った。あの時はほんと自分のことだけで精一杯だったから」


 てっきり無感情に葵の願い通りに手を繋いだだけかと思い混んでいた。


(……もしかしたら、あの時の私は焦りすぎていたのかもね。涼からの反応が薄くて、自分には恋愛的な興味が一切起きないものだと勘違いしていただけなのかな? ちょっと後悔……涼は私と別れたことを後悔していないって言ったもんね。もう少し、我慢していればもっといい未来があったのかも)


「葵は僕をどんな奴だと思ってたんだよ。……って言ってもあの頃はスレてたからなー」


「スレてるっていうかズレてたから」


 葵の凄いところはすぐに気持ちを切り替えられることだ。様々な感情が葵の中で渦巻いているが、それをしっかり棚に上げられる。


「そうかな? あ、あそこのファミレスも一回寄ったことあるよな」


「あー、そだね。さすがに何食べたかまでは覚えてないけど」


「たしかドリンクバーで遊んだんだよな。葵は炭酸水やコーヒーにも挑戦したりして面白かったの覚えてる」


「そんなこともあったあった。懐かし〜。……ほら、あそこのカラオケ。あそこ行くよ」


「了解」


 ビルの三階にあるカラオケに入ると喧騒が飛び込んできた。カラオケはやっぱこんなもんだよなと思いつつ涼は葵の隣を歩いて受付に向かう。


「高校生二人フリータイムでお願いします」


 ここのカラオケは専用アプリを入れておけば会員扱いで安くなる店で、涼は事前に葵に言われた通り入れておいた。


 そのおかげでスムーズに受付が済み、二人は狭い個室に入る。


「はぁ、やっと一息って感じ。なんだかんだ今まで座ることがなかったからね」


「あれだけバイトで立ち仕事してるんだからこのくらいで疲れるわけないだろ」


「そりゃ涼が体力オバケだから言えるんだよ。バイトとプライベートでは気持ちが違うからこのくらいでも結構疲れるんだから」


「ま、言いたいことはわかるさ。さて、何歌う?」


「涼から歌いなよ。私涼が歌ってるのほとんど音楽の授業でしか聞かないし。付き合っている時一回しかカラオケ来なかったでしょ。……そもそもまともに歌える曲あるの?」


 昔から流行りの曲に疎い涼を葵がからかう。


「もちろんあるさ。証明してやろう」


 電子機器に強い涼は勝手知ったように機器を操作、採点モードにして曲を送る。


「おっ、ヒカリの欠片じゃん。この曲は涼でも知ってるか。無難〜」


「無難って。結構気に入ってるからいいだろ」


 この曲は柚と出逢う前から知っている曲で、前に柚の高校に行く途中で一緒に聞いた。


 この曲がお互いに最近に出たという認識を持っていることを知って、柚は涼と同じ時を過ごしていたのだとわかった重要な曲だ。


 葵の揶揄を受け流して涼は歌い出す。


 ピアノをやっているだけあってほとんど音程のミスはなく、リズムも表現も良い。


 澄んだ川のように流麗な声が希望を探す歌詞を紡いでいく。軽音部でボーカルもやっている葵が息を飲んで涼の美声を傾聴する。


 まるで自分が経験したことがあるような気持ちの詰まった歌声がダイレクトに伝わってくる。


 あっという間に終わった五分間だった。

 

「……涼って歌めっちゃ上手くない? こんな上手かったっけ? 正直感動した!」


「サンキュー。じゃあ次は軽音楽部ボーカルの出番だな」


「そんなハードル上げないで。最近バイトばっか行ってるしテスト期間は練習できなかったんだから」


「はいはい」


 葵が歌う曲は家でよく柚が聞いている曲だった。部屋に涼もいるのに大音量で流すものだからサビくらいは覚えてしまった。


 自信がないという葵だが歌は本当に上手だった。


 発声練習をしっかりしているため明らかに柚が真似て歌う時よりも明瞭に声が出ている。


 思い切りがよくて表現技法がプロっぽい。勉強はあれだが体を使うことに関しては葵はかなりの才能を持っている。


 それでいてバイトしながらも練習を怠っていないのはこの声を聞けばよくわかる。


「すごいな。僕も感動したよ。友達と来るカラオケはいいものだな。特に女子だと自分では出せないような歌声が聴けて鳥肌が立ちそう」


「絶賛アザース! 私も男子が歌うの好きだよ。やっぱ男性ボーカル羨ましいってなる」


 お互い良いところを褒めあってカラオケを楽しんだ。


 カラオケのフリータイムにはドリンクバーが付き物。食事持ち込みオーケーなカラオケ屋なので、お昼ご飯はファストフード店でテイクアウトをして済ませるが、飲み物はここで好きなものを飲むことにした。


「葵、次何飲む?」


「じゃあコーラで。あ、何か混ぜたり、似た何かを持ってくるのはなし!」


「わかったわかった」


 少し前に葵に取ってきてもらったので今回は涼が取りに行く番だ。


 あれだけ釘を刺されたのだから真面目にコーラを持って行こう。


「……あ、あれ? 涼さん?」


 ドリンクバーで二人分の飲み物を注いでいると聞き慣れた声が涼を呼んだ。

何を買ったかは今度のお楽しみで!

そろそろ章という概念が崩れてきそうなほど日常ものになってきましたね。いつかそうしようと思っていましたが、こんなに早いとは。


次回

バッティング

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