露天風呂
本日二話目です。注意してください。
あらすじ
キャンプファイヤー(焚き火)を楽しんだ
マシュマロは特筆することなく程々に美味しかった。
柚にとってマシュマロは枕ほどに大きいもので、焚き火で炙られたからこそ出来上がる外がパリッと中はふんわりもっちり、という食感が味わえないでいた。
小さなカケラにして炙ったりもしたが焦げやすく成功しなかった。
「ううっ、これだから食感が命の食べ物は嫌なのよ。マシュマロ自体は甘くて美味しいけどさ」
「それはもうしょうがないだろ。他の食材でも同じことが起きるんだからいちいち嘆くなよ。いっそのこと柚の体でしか味わえないようなモノを探求して行こうぜ」
「ええ、そうね。私だからこそ味わえるもの……か。なんだろうなぁ。……ていうか、最近涼の言葉遣い前に比べて粗暴になってない?」
口調はそこまで大きく変わっていないと思うが、荒々しくなったというか遠慮がなくなった気がする。
前の方が上品で涼がお坊っちゃんのように感じたが、これはこれで良い。一歩距離が詰められ、涼を身近に感じる。
絶対こっちのほうがモテるわね、と思い柚は警戒レベルを上げた。
「んー、口調が変わったと言うよりは、より気を遣わなくなったのかな。だいぶ前から柚には遠慮しなくなったけど、今はほかの親友と同じような感じで話している。なんか、手のかかる妹を持った気分だ」
「い、妹って.........やっぱり涼は私の事そんなふうに思っているのね。私は涼のことお兄ちゃんみたいだなって思ったことないからね! でも、もし涼がお兄ちゃんって呼ばれたければそう呼んであげてもいいわよ」
柚の口からお兄ちゃんと言われるのは少しこそばゆい。結構嬉しいが、恥ずかしさの方が勝る。
「いや、やめとく。誰にも聞こえないとはいえそれは恥ずかしいし違和感しかない。柚はそのまま生意気な後輩みたいな感じでいてくれ」
「オッケー!」
ちょっとウザいが可愛いので許そう。
「キャンプファイヤーと言ったらフォークダンスだけど踊るのは無理そうね」
「僕の掌で踊ってみるか?」
「ヒールを履いていいならいいわよ。なければ画鋲で似せるから」
「残念ながらここに画鋲も他の代用品もない。踊らないなら何か歌ったらどうだ?」
「キャンプだほい!キャンプだほい!って? それはイヤよ。何かいい感じの曲知らない?」
「別になんでもいいんじゃないか? 弾き語りっぽい曲ならなんでも合うさ。さっきテント建てる時に流してたように流してればいい」
「それもそうね」
そして柚のリクエストの歌を小型タブレットで流しつつ、二人はゆったりと歌った。
「じゃあお湯も沸いたしコーヒーでも飲むか」
「砂糖とミルクマシマシでお願い」
「いつものだな、了解。今日はドリップコーヒーで飲もう」
「あのコーヒーメーカーないもんね。ドリップコーヒーってどんなのだっけ?」
「簡単に言うと挽いたコーヒー豆に熱湯をドリップして淹れたコーヒーのことだな。厳密にはコーヒーメーカーで淹れたコーヒーもドリップコーヒーっていうんだが、今回は袋を開いてお湯を注ぐだけで良いドリップコーヒーを味わおう」
「ほんといろんなこと知ってるわね」
「キャンプのブログで色々勉強したからな」
涼はトライポッドから飯盒を取り出す。丸型の飯盒にはコッヘルのような取手がないため端っこを革手袋で掴んで器用にお湯を注ぐ。
お湯の残りは後で柚がお風呂と食器を浸けておくのに使う。今日はグラタン皿はなく、涼のコッヘルにお湯を入れて風呂にすることになっている。
「うん、美味しい」
「いつもの高いコーヒーメーカーで入れてないからどうなんだろって思ってたけど、案外いけるわね」
「柚の好きなコーヒーチェーン店のドリップコーヒーだからな。高いがその分味はしっかりしている」
「へぇ、あそここんなのも出してたんだ。通りで美味しいわけだわ」
「コーヒーショップのお陰でもあるけど、シチュエーションもいいよな。焚き火を見ながらコーヒーを飲むのって最高だろ。この時が一番僕は好きだな」
「おじさんくさいわね、相変わらず。でもわからなくないわ。すごい落ち着く」
ズズズっとすすりながらコーヒーを堪能しているとパチッと薪が爆ぜた。「きゃっ!」と柚小さな悲鳴をあげると、涼はよくあることだと宥める。
ゆったりとしたBGMを流しつつ、二人は焚き火を囲って談笑し続けた。
普段話すような他愛もないことから昔の思い出までじっくりと二人は語り合う。
焚き火の明かりがお互いの顔をわずかに照らしだし、辺りの獣は静寂を保った。
やがて火の勢いは弱まり、眠りの時がやってくる。
「さて、そろそろシャワーを浴びに行くかな。柚はこのお湯で風呂に入るんだっけ?」
「ええ、こういう大自然の中露天風呂に入るのって最高じゃない? いつかやってみたかったのよね」
「そうか、じゃあ三十分後に僕は戻ってくればいいか? 桶とシャンプー、リンス、ボディソープは置いておくから」
流石に柚が涼と一緒にシャワーを浴びるのは無理だ。身体が人形サイズになったとはいえ、心は乙女。涼が気にしなくても柚が耐えきれない。
「そうしてくれる? テントの中にいてもいいんだけどすごい気になっちゃうから」
涼が覗くとは思わないが近くに涼がいると思うだけで心が休まらない。少し一人の時間が欲しかった。
「わかった。じゃあ柚用の風呂を作ろう」
コッヘルはすぐに洗い終えた。カレーは器に直接入れてしまうと洗うのがとても大変なので、あらかじめサランラップを敷いておきその上に白米とカレーを乗せていたのだ。
サランラップをゴミ袋に入れてコッヘルの表面を水で流すだけできれいになるので、嵩張るサランラップをわざわざ持ってきていた。
結局涼のテントサイト付近二十メートル圏内に人はやって来なかったため、堂々と風呂をテーブルの上に置くことができる。
「この辺でいいか?」
「ええ、そこなら周りからも見えにくいし、森が綺麗に眺められるわ」
「おっけー。まだ結構熱いから気をつけて入れよ」
「わかってる。じゃあ三十分後に来てちょうだい。だいだい九時半ってところね」
「はいはい」
涼は着替えとシャンプーセットを持って柚を残して闇に消えた。
カレー食べる時ほんとサランラップしないと面倒な目に合うんですよね。
今年は雪が降らなすぎてほんとお尻痛い。今座って書くのが苦痛です。
次話からこの章のクライマックスに入ります。
次回
野生とは




