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妖精の住処  作者: 速水零
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妖精の新たな移動手段

あらすじ

キャンプ準備をした

 ロードバイク自身の積載能力は皆無である。速く走ることを意識して作られた自転車には余計な装飾、装備は一切ない。旅に使うには後付けで自分好みにカスタムするしかない。もっともグラベルバイク(涼が次に欲しいと思っている自転車)やシクロクロスのような自転車もあるが。


 涼のロードバイクはキャリアがついており、そこにバッグをくくりつけている。キャリアを覆うように両サイド、キャリアの上と三つのバックが連結された形をしていて、バック一つ25リットル入るので合計75リットル分の積載を可能にしている。


 柚が乗る一番の候補地はキャリアに乗ったバックの上に体をくくりつける案だったが、却下された。一番最初に出逢ったあと連れて帰った時前が見えなかったのが今でも怖いらしく少なくとも前はひらけていないとだめなんだそうだ。


 そこで今回、涼はロードバイクのハンドルにつけるフロントバックを購入した。フロントバックはポーチのような形をしており、柚はそこに入って顔を出すことにした。一緒に財布やモバイルバッテリー、柚用になりつつある小型タブレットと柚のスマホを入れ、他にも柚が衝撃に耐えられるようにクッションを詰めてある。


 柚は小物ポケットにクッションと一緒に詰め込まれるので財布やモバイルバッテリーが取り出しにくいということはない。そしてクッションに混じって完全分離型Bluetoothイヤホンも入れておいた。


 柚が声を張って涼と会話することはできないし、人がいなかったとしても聞こえにくいだろう。


 ということで二人はringで電話をしながらキャンプ場まで進むことになった。


「気持ちいいわね、快晴で一面空が蒼いわ。もう六月だけど雨が降らなくてよかった」


「梅雨がもう少ししたら来るもんな。梅雨は僕が一番嫌いな気象だ。早く無くなってくれないかな」


 涼のロードバイクにはスマホホルダーがついており、そこに地図を表示させている。一緒にringの通話も行なっているためバッテリーの消費が激しく、モバイルバッテリーは必須だ。


 イヤホンを耳に入れて自転車を漕ぐのは違法だが、耳の中に入れなければ取り締まられることはない。


 涼は骨伝導イヤホンを使って柚と会話していた。


 骨を伝うという文字の通り、骨伝導イヤホンは骨に振動を与えて音を伝えるイヤホンである。


 耳を塞いで声を出しても自分の声が聞こえるのと同じ原理で、頭蓋骨を通して耳の中にある蝸牛に振動を伝え、脳に音の情報を届けていくというものだ。ちなみに普段は耳に入った音が鼓膜を震わせ蝸牛に伝っている。


 骨伝導イヤホンはこめかみ付近の骨にパッドを当てて音を伝える。


 こんな面白いイヤホンに涼が興味を示さないわけがない。


 涼は当然のように高級な骨伝導イヤホンを持っていた。高価な骨伝導イヤホンを買ったのは涼がお金持ちだからではない。


 骨伝導イヤホンは音質が悪いという欠点がある。まだ技術が未成熟というのももちろんあるのだろうが、単純に構造上の問題で鼓膜を震わすイヤホンやヘッドホンに劣るのだ。


 涼はそこまで音質にこだわるタイプではないが、試聴したコスパの良い骨伝導イヤホンは涼にとって聞くに耐えない品質だった。百円のイヤホンや飛行機に備え付けられたイヤホンと同レベルである。


 二、三万の音質が良いと噂の軽量型骨伝導イヤホンでようやく涼は満足した。


「そういうものじゃないでしょ。前線のぶつかりで出来るんだから。嫌なら北海道にでも住めば?確か梅雨がないんでしょ。北過ぎて梅雨前線の影響がないんだとか」


「よく勉強しているな。温暖化の影響で最近は梅雨も例年と色々ズレたり天候が変わったりしているみたいだが、雨が降ることには変わりないのがウザい。北海道に住むのはアリだと思う。雪で自転車もバイクも乗れないのは辛いがウィンタースポーツもまた面白いからな。車を持つようになればまた趣味も変わってくるだろ」


「涼が車ねえ、確かに好きで乗りそう。なんか涼って乗り物が好きでしょ」


「まあそうだな。アウトドア全般、乗り物系全般、電子機器類全般は皆好きだな。でも車はあまり乗らないからそこまで憧れがあるわけじゃないんだよな。雨の日とか路面凍結の時とかに便利だとは思うけど」


「へえ、この辺の人は車乗らないの? 私の住んでたところなんて車ないイコール死みたいなところだったわよ。看板にデパートまで何十キロとか普通に書いてあるし。もちろん最寄駅近くとかはなんとかなるけど、一歩外に出るとヤバイわね」


 涼は柚の実家に行った時のことを思い出す。


 確かに駅近くはある程度栄えていたしコンビニも所々あったが、自然に溢れていた。柚が住んでいたのはあの地域でもかなり栄えているところだと言っていたので、車移動が多いのは容易に想像つく。


「僕の住んでいるところでも車に乗る人は多いぞ。買い物に使ったり習い事の送り迎えや、通勤なんかにも使う。ただ、僕の家は最寄駅に近いから使う機会が少なかったんだよ」


「確かに駅からむっちゃ近いもんね。ほんとあの家いくらするのかしら」


「さあな。で、どうだ乗り心地は?」


「思った以上に快適よ。路面からの振動が結構多そうだと思ったけどかなり緩和されているし、涼も自転車をそこまで傾けないから。涼は喋りながら走ってて疲れないの? 振動が少ないから私は割と車に乗っているような気分で気楽に乗っているけどかなりスピード出ているわよね」


 自転車のバックに入って出かけると聞いた時、ひどく振動で体を痛めつつスピードに恐怖するのだと思ったが、全然そんなことはない。むしろ風を切っているような感覚がありとても楽しい。小さな体だからこそサイクリングロードの綺麗な景色を十全に堪能していた。


 河原にはあまりいい思い出がないがここは凄くいい。


 そよ風に河原の草たちがゆらゆらと揺れ、春を感じさせるほのかに甘いにおいがやってくる。その中に夏の暑さが影に潜んでおり、これから梅雨が到来してくるのだと悟らせる。


 昇りきっていない太陽の陽射しが柚を眩しく照らす。サングラスをかけるのもアリだと思った。快適さとかっこよさアップである。


 サーッとロードバイクが地面を滑るように走る音。イヤホンを通して聞こえる好きな人の声。高揚感に跳ねる心臓の鼓動。全てが愛おしく心地よい。自由を初めて味わったような気分だ。


 この開放感が旅の良さであり、涼がハマる理由なのだろう。


 柚もすっかり旅の虜にされた。


「今家を出て二時間くらいか。まだまだ余裕で走れるぞ。毎朝のサイクリングはこれより十キロは早く走るしな」


「相変わらず身体能力が化け物ね。私なら荷物がなくてもこの速度で走るのが厳しそうなのに」


「そりゃ柚は今までママチャリしかならなかったからだろ。それに大会に出るような奴はもっともっと速いからな。一度サイクリングで総額百万近いロードバイクに乗っている人を見かけたことがあるが段違いで速かった。僕の全力が向こうの八割、流しみたいな感じでヤバかったな」


「上には上がいるのね。プロってすごい」


「一芸を極めるってホントすごいよな」


「でも、前も言ったけど、私は涼みたいになんでも高レベルでこなせるって人も十分凄いと思う。尊敬しているわ」


「そうか、ありがと」


 少しして涼たちはサイクリングロードの休憩所に着き、一休みした。

装備の説明を詳しく書こうとするとそれだけで話が終わってしまうんですよね。

どういうスタイルで行くのかしっかり書きたかったので後悔はない!

ただ、移動は一話でさらっとやるつもりでプロット立ててたのにスタートでこれじゃあこれからむちゃくちゃ長くなりそう……


次回

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