お姫様の父上
あらすじ
第三章終幕
「涼、結局キャンプ行くの?」
空と海と出かけた次の日。昨日は土曜日だったので今日も休日の昼下がり。いつも通りお互い自分のベッドでのんびりと寛いでいた。
軽く自転車で遠出しようとも考えたが、昨日表参道・原宿で買い物した疲れ(精神的なもの)がまだ残っており、休息している。インドア趣味のピアノは午前中楽しんだのでこれからは微睡みを味わう時間だ。
柚には宿題を課しているはずだが一向にやり始める気配がない。気持ちは遊びに行きたい一色。空と海と遊びに行ったのを根に持っているようだ。それを知っている以上涼は柚に文句が言えない。
「もちろん」
「いつ?」
「今週末はバイトが入っているから来週の土日だな」
涼のアルバイトは基本平日2、3回のみだが、月に何度か休日ヘルプ入ってくれと頼まれ、バイトすることがある。毎週毎週遊びに出かけたり趣味に没頭しているわけではないので涼も快く引き受けている。
「休日にバイトなんて珍しいわね。休日固定にしたら遊びに行けないって言ってたけどヘルプは行くんだ」
「まあな。休日手当がつくし長時間働けて稼げるからたまに応じる」
「涼らしいわね。それで貯めたお金で何するの? 服買ったり遊園地行ったりするわけじゃないでしょ?」
「僕は光とは違う。基本的に貯金かな。旅行に行くためだったり、自転車のパーツ変えたり、バイクの購入資金にしたり。もちろん他の趣味のお金にもなる」
「確かに涼はいろんなタブレットやパソコンやら高そうな紅茶の茶葉やコーヒー豆とか色々なことにお金使うもんね。むしろバイトだけじゃ足りないんじゃない?」
一見涼はお金を使わずに過ごしているように見えるが、ガジェットオタクで多趣味な以上相当にお金を使っている。
「仕送りがかなりの額きているからな。もちろんただ遊ぶのには仕送りは使わないが、それこそ茶葉とかコーヒー豆のような嗜好品、タブレットやスマホみたいな生活必需品は仕送りをうまくやりくりしてお金を捻出している」
一人暮らしの高校生への仕送りの平均がわからないが、生活するだけなら3ヶ月は余裕なほどもらっている。
あの人がそんなことに気を配るわけがない。
貰いすぎた仕送りで豪遊する気は起きないが、申し訳ないと質素に過ごすつもりもない。仕送りに頼ろうと思えば遠慮なく使うことにしている。
もらった額全て使う月が今までなかったため仕送り用講座にはかなりの額が溜まっているが、あの人が残金を確認することはないだろう。どうせ三年間毎月一定金額送り込まれるようにしているに違いない。
「タブレットは生活必需品じゃないでしょ」
「ないと困るだろ?」
何を言っているんだ? と不思議そうな顔をする涼をみて、柚はため息をこぼす。
「ま、便利だからいいんじゃない? ようするに友達と旅行行ったり、自転車の部品買ったり、本買ったりするのは自分のお金ってことね」
「そんな感じ。父さんはお金の使い方に関しては何も言ってこないし、気にしないだろうから割と自由にしているけどな」
「ドバイに行っているんだっけ?」
「いや、シンガポールだ」
「へぇ、すごいわね。涼のお父さんって感じ」
「優秀な人ではあるからな。あの人みたいにはなりたくないが」
柚はもっと涼について知りたいと思ったが、涼の険しい顔を見てそれ以上踏み込むことはなかった。
「そんな話は置いておいて、キャンプに行く計画でも立てるか。行き当たりばったりで野宿してもいいんだが、柚は行きたいところがあるんだろ?」
「ええ、今までなかなか海に行くことがなかったし、伊豆行きたかったのよね!」
「じゃあ調べるか。こっちきて一緒に調べようぜ俺のタブレット使おう」
手をクイクイッと振って自分のベットに誘う。わざわざ起き上がって机で調べる気力が起きない。
「え、え……いいの? わ、わかったわ」
(え、りょ、りょうの隣で寝るの!? そ、添い寝!? 今までこんなことなかったのに、なんで急にそんなことするの? こんなの普通の友達じゃやらないわよね……。わ、私、変な匂いとかしてないかしら? 大丈夫よね? このカラダほとんど汗かかないし大丈夫だと思うけど……うー、いきなりすぎて心の準備が!?)
柚はいつもとは打って変わりモジモジしながら涼のベッドにやってくる。今まで涼のベッドになんども乗ったり寝転がったことはあったが、涼と並んで寝転がるのは初めてだった。
涼は姫と一緒に寝転がって絵本を読み聞かせるのと同じような気持ちで誘っていたので、柚の脳内で駆け巡る葛藤に気がつかない。
ピョンっとジャンプして涼のベッドに乗り込んできた柚はそのまま涼の顔の隣で寝転がった。すごくドキドキする。自分でも顔が真っ赤になっているのがわかる。隣にいる涼の顔を見ると普段と同じ澄ましげな様子で観光スポットのベストショットを見ていた。
こうも間近で涼の顔を眺めるのは久しぶりかもしれない。ほんとカッコいいなぁ。このまま写真撮ったら売れるに違いない。柚はそんな写真集が出たら三千円でも買う自信がある。
しばらく二人は横になりながら行きたい名所を決めていった。
ピンポーン。
ある程度キャンプ計画ができた頃、インターホンが鳴り響く。
何かを注文したわけではないので多分姫だろう。
柚も来客者を姫だと予想したのか渋々涼のベッドを降り、貴族おうちセットに帰っていく。
「どうせ姫でしょ。今日は私で遊ぼうなんて言わないでよね。ただでさえ疲れているんんだから」
「わかったわかった」
待たせるのは可哀想なので少し急ぎめで階段を下り玄関の鍵を開ける。
低めに視線を定めると案の定姫と目が合ったが、その後ろに見慣れぬ中年男性と愛が立っていた。
姫と少しだけ似ている。姫の母親である愛と並んでたっているということはこの人が姫の父親なのだろう。会うのは初めてだ。
今までなんども姫や愛は涼の家にやってきたが、毎度姫の父親は仕事をしていて来なかった。
「初めまして、君が涼くんかな」
「はい、姫さんのお父様ですよね。初めまして。木下涼です。姫さんとはいつも一緒に遊ばせていただいております」
「いや、うちの姫の遊びに付き合ってくれて家内も感謝している。最近は夕ご飯もご馳走になることがあるようで、一度しっかり礼が言いたかったんだ」
「そうでしたか。立ち話もなんなので、どうぞお上りください」
「おじゃましまーす!」
「あ、姫!」
勢いよく姫はリビングへと駆け出した。飛び出していても靴をしっかり揃えているあたり教育が行き届いているとわかる。愛は申し訳なさそうにしているが、いつものことなので全く気にしていない。
「娘がいつもすみません」
「いえ、いつものことなので大丈夫ですよ。それに姫さんは暴れることはありませんので何も心配していません」
「そうか。では失礼します」
そうして大人たちもリビングに入り、涼の勧めでダイニングチェアに腰掛けた。涼は紅茶とフレッシュ、シュガーを用意してから二人の対面に座るが、姫は涼の膝の上に乗っかった。
このままでは話がしにくいので姫を持ち上げて隣の椅子に座らせる。
「前々から涼くんとは話がしたいと思っていてね」
もっと早く姫の父親が登場するはずだったのになー……
涼はタブレットやハイスペックなノートパソコンを生活必需品だと思っています。
どの分野でもオタクって周りから見たらこれいらんだろってなるものをないと不便すぎるって思うもんですよね。
次回
姫は可愛い




