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妖精の住処  作者: 速水零
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元旦

「こんなに眠いならわざわざ年が明けるのを待たなければよかった……」


「そうね。ほとんど寝た気がしないわ。眠いんだったら他の場所行かない?」


 涼と柚は年明けのカウントダウンをしてから素早く就寝し、朝の四時前に起床していた。


 せっかくならバイクに乗って初日の出を拝みに行きたいと思って早く起床したのだが、睡眠時間四時間未満は流石の涼もこたえる。


 特に最近は冬休みで気楽な生活を送っている分早起きには慣れていても、根を詰める体力は衰えているようだ。


「んー……犬吠埼に初日の出を見に行くのはバイク乗りとして大名行列のようなものだと思ってたが……眠くて事故るわけにもいかないしな」


 犬吠埼とは千葉県銚子市にある岬で本州一早く日の出が拝めるスポットとして有名で、関東中のバイク乗りが良く集まる場所でもある。


 犬吠埼が本州最東端と勘違いしている者も多いが、それは岩手県宮古市の魹ヶ崎(とどがさき)だ。地球の地軸の傾きにより犬吠埼の方が早く日の出を迎える。


「じゃあ比較的近いところで日の出が有名なところは……うーん、と…………あっ、城ヶ島がいいんじゃないか?」


「城ヶ島? あー、確か神奈川の先っちょにあるところだったっけ? 江ノ島みたいに橋がかかってて三崎マグロが食べられるところ?」


「そうそうそう、まあ先端だからこそ遮るものがなくて日が昇るのがはっきり見えるんだよ」


「なるほどねぇ、いいじゃん! じゃあそこに初日の出を見に行こう!」


「おーっ!」


 城ヶ島にこのまま向かっても1時間以上持て余すことになるが、良いスポットを先に取っておき、ゆっくり休もうと考えた二人は、すぐに防寒装備と現場で過ごす道具たちを揃える。


 リュックとして背負うこともできる便利なシートバックを愛車に取り付け、エンジンをかける。


「おっ、新年早々調子良さそうじゃないか。今年も頼むぜ相棒!」


 涼は蒼々と光り輝くタンクを撫で回しそっと呟く。元日の早朝から近所迷惑はかけたくないのでアクセルは吹かさずアイドリングの音を堪能する。


 大掃除はしなかった涼だが、バイクと家にある車の洗車は念入りに行い、そこそこ値が張るガラスコーティング剤も塗った。


 ピカピカの愛車を見るだけで心洗われ良い新年を迎えたと感慨にふけってしまう。


「何バイクに話しかけているのよ」


 バイクとの対話に夢中になっていると胸ポケットにいる彼女から手厳しい一言が送られた。


「人形に生が宿る世界なんだからバイクにだって魂が芽生えていても不思議じゃないだろ?」


「誰が人形よ誰が!」


「別に柚のことを言っているとは限らないじゃないか。まさか自分のことをお人形さんみたいだとでも思っているのか?」


「思ってるけど?」


 柚はごく自然に「私は可愛いわよ」と言い切ってみせた。涼も同感なので否定できない。


 しかし、そのまま誇らしげにされたままなのは気分が悪いので苦し紛れに「ピノキオのことかもしれないじゃないか……」と口ずさんだ。


 涼はYZF-R25にまたがり、ギアを一速に落とす。


 新年一発目ということもあり眠気も吹っ飛びハイテンションになった涼は、元旦の横浜をけたたましいマフラー音響かせて駆け抜けるのだった。


 一時間と少し走ると城ヶ島に上陸できた。


 神奈川県民だけでなく他の都県からも初日の出を見に来ているのか駐車場にはいく種類ものナンバーの車やバイクが停まっている。


 城ヶ島で一番の日の出絶景スポットといえば城ヶ島中央南端にある馬の背洞門や城ヶ島公園だろう。馬の背洞門とは長い年月をかけて海からの浸食でできた、海蝕洞穴で、あたりの地層が露出した地面に大きな風穴の空いたようなかたちをしている。


 初日の出がこの馬の背洞門の隙間から見られるとその筋では有名だ。


 城ヶ島公園も城ヶ島南部に位置する大きな公園で、立派な灯台や豊かな自然が広がっており、城ヶ島観光者が必ずくる場所と言っても過言ではない。南部に位置する為、当然日の出スポットとしても優秀だ。


 涼たちは広い城ヶ島公園の海沿いにキャンプで使うチェアを立てて陣地を取っていた。


「ほんとすごい人だかりね」


「みんな考えることは同じってことだろうな。でも早く来たからこうしてなんとか場所も取れたし、このままゆっくり待っていようか」


「そうね」


 日の出を待つのに夢中で涼に目を向けるものは誰もいないが、キャンプの時みたいに柚用のイスを出して座らせることはできなく、結局今も涼の胸ポケットの中にいる。


 涼はガスバーナーを取り出してコッヘルで水を沸かす。時間に余裕があるので涼はガラガラガラガラとコーヒーミルを引いて豆を挽く。


 そして挽いた豆をドリップペーパーに落とし込んでお湯をひらがなの「の」の字にゆっくり蒸らしながらかけ流しコーヒーを淹れる。


「はい、柚の分」


「ありがと。……はぁぁあ、落ち着くぅ」


「もうコーヒーなしにはいられないだろ」


「そうね。落ち着くためにはカフェインがないとダメな体になっちゃった……」


「それは上々だ」


 涼は同志ができたと笑みを溢す。


「ま、それはいいとしてさ。柚は今年一年をどう過ごしたい?」





最近ようやく半年のズレから解放されましたが、気温の感覚はまだズレてます……

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