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妖精の住処  作者: 速水零
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年越し

第十二章開幕

 クリスマス・イブを終えて一週間が経ち、世間同様涼たちの間にも穏やかな年越しムードが流れていた。


 いつものように涼は自分のベッドで、柚も自身の犬用のベッドで横になって過ごしている。


「りょーぉ、大掃除やらなくていいのぉ?」


「えぇ、面倒だろ。結構毎日綺麗にしているし、今更腰を入れてやる気にはなれないなぁ」


「あー、まぁそうだよね。うちでは毎年家族みんなで大掃除してたからこうして暇な年末っていうのは新鮮だわぁ。……涼は去年どんな年越しを迎えたの? 一人暮らしだったんでしょ?」


「んー、今日みたいにのんびり過ごして……あとは友達と一緒に過ごしたかな? 俺が一人暮らしなのをいいことにみんな集まってパーティーやってさ。年明け近くにはお詣りに行って……」


 涼は去年の記憶を懐かしそうに振り返る。楽しそうにみんなで遊んだ記憶もあるが、次の日に後片付けに追われて大掃除を1日遅れでやらされた気分になった。


「じゃあ今年も集まるんじゃないの?」


 柚はスマホをいじる手を止めて涼に視線を送った。

 

 涼もタブレットから視線を外して柚と目を合わせる。


「いいや。今年は光と翼が彼女と過ごしたいだろうから気を利かせてやらないことにした。まあ、そう言っておいて僕が柚と二人で過ごしたかったからなんだけどな」


「ッ!? ったくもぉ、いつも涼はそう言って……まあそこが良くて好き、なんだけど……」


 柚は足をバタバタ動かしながら転がる。


「そういうわけで、今日はずーっとのんびりしていようか」


「そうね」


 二人はそれからお互い自分の好きなことに没頭して年末を過ごした。


「今年最後の夕飯は柚の希望通り寿司……ではなく、手巻き寿司にしてみたよ」


「おおっ、いいわね! やっぱり美味しいものを食べて一年を終わらせたいもの。この小さいネタを食べればいいのよね?」


「そうそう。なるべく柚の食べやすいように小さくカットしてみた。大トロなんて食べ放題なんじゃないか?」


 こういう時柚の小さい身体はコスパよくて羨ましいと思う。


「ほんとだ! この光輝いているのが大トロね! それに、これが赤身、サーモン、いくらにウニとタイ、エンガワ、卵、納豆……食べ切れるのこれ?」


「刺身を食べ切れればあとは別日に食べるから大丈夫。それに、柚が頑張ったって僕の刺身一切れ食べきれないだろ」


「それもそっか……じゃあどんどん巻いていくわよ!」


「おーっ!」


 それぞれ好きな具材をミックスさせて味わい、他愛もない話をして今年最後の夕飯を楽しんだ。


 涼は普段全くテレビを観ないが、柚はそこそこ観る。元の体の時は年末の番組が冬休み明けの話題にもなった為欠かさずさまざまな番組を観ていた。


 柚のリクエストでテレビをつけ、涼のいれた抹茶をすすりながら特番を眺める。冴の高校の文化祭「十五夜祭」を一人で巡った時に茶道の体験をして以降、様々なお茶を試すようになった。


 今はお金に余裕があるので評判の高い宇治抹茶を好んで飲む。


「はぁ、お寿司にはやっぱりお茶だよねぇ。日本人の心に滲みるわぁ」


「特にこのブランドのは味が深くて、それでいて澄んでいるから幾らでも飲めるな」


 年寄りくさいとお互い思いながら宇治抹茶をもう一口。体と心が温まるのを感じた。


 しばらくすると年明けまで後1時間と迫っていた。


 涼はこれも定番だよな、と口に出して蕎麦の入ったザルをテーブルに置く。


「年越し蕎麦だ! これがなきゃ年は終わらないわよ!」


「ははは、それ今日何回目だよ。細く長く生きるってことで年越し蕎麦を食べるみたいだけどさ、柚にとっては全然細くないよな?」


「そりゃ太すぎるけど、細いんじゃないって思っちゃうわ。もう感覚が馬鹿になってて自分よりも大きいものが一般的なのよ……」


 体の大きさが約八分の一ほどになった柚から見れば麺類の太さは全て六十倍以上。パスタ一人前の束には100本前後入っているので、束の半分ほどが柚にとっての太さになる。


「手打ちで僕がやればすごく太さを調節できるんだけど、柚がすすれるほどにできないんだよね」


「そりゃ私向けのサイズにするんだったら涼の髪の毛くらい細くないとね」


「なんかそんな麺類気持ち悪くて食べたくないな……」


「それ髪の毛口に飲み込んだ想像してるからじゃない」


 柚はステーキでも食べるように小さく蕎麦を切り刻み口にたくさん運んでいった。


 そして蕎麦を食べ終えると、テレビの時計がまもなく零時を示そうとしている。


「年が明けるなぁ」


「明けるねぇ」


「なんか蕎麦茶飲んでるとハッピーニューイヤー!って感覚が削がれるな。抹茶でもそうだけどさ」


 蕎麦の後の楽しみと言ったら蕎麦茶。この完璧超人の涼、ぬかりなし。きっちりと用意してこれもまた堪能していた。


「これでこたつなんて入った日には一生ぬるぅい空間が続くわよ」


「柚用のこたつないからその心配はいらないな」


「えぇ、私用のこたつないの?」


「要らないって話じゃなかったか?」


「なんか想像すると入りたくなっちゃって……」


「ま、お年玉の代わりに買ってあげるよ」


「えぇ、なんかそれ微妙」


 談笑を続けているといつの間にかテレビがカウントダウンを始めた。


「おっ、もうカウントダウン始まってる」


「あ、ほんとだ!」


「「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1」」


「「明けましておめでとう!」」

髪の毛って0.1ミリ前後なので柚からすればそれでもラーメンの中太麺ほど太いです笑。

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