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妖精の住処  作者: 速水零
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【サブストーリー】もう一つのクリスマス・イブ中

「あぁ……これなら藤沢駅で江ノ電乗った方がよかったね」


「だね……やっぱり調べる時間が短かったのは大きい……」


 目的地を直前まで秘密にしてお互いが秘密のスポットを紹介する。確かに面白くデートまでの時間が短くとも有効な一手だと思った翼と白だったが、先ほど藤沢駅を通り過ぎたあとどうコースを巡るか考えた時、問題が発生した。


「まさか江ノ電って藤沢駅から走ってたなんて知らなかったなぁ」


「ね。でもまあ致命的なロスをしているわけじゃないしいいんじゃないです――いいんじゃない?」


 まだ敬語の癖が抜けないのか、白は慌てて言い直す。


 今回翼と白が行きたい場所は江の島シーキャンドル、七里ヶ浜、稲村ヶ崎、それと翼がひた隠しにしている場所と四つ。


 江ノ電にも乗りたい以上、デートコースはまず先に稲村ヶ崎に向かい、七里ヶ浜を歩いて江ノ島に乗り込む。藤沢駅からすぐに向かえるなら、わざわざ片瀬江ノ島駅に行って歩いて江の島駅を目指す必要はなかったと二人は話していた。


「そうだね。ちょっと時間がかかるけど……まあいいか」


 せっかくのデートなんだし上手くやろう、と気合を入れていた翼は出鼻を挫かれてむしろ気が楽になった。


(今回はお互いのことを知り合う機会ってことだし、肩肘張っても仕方ないよね。うん、いきなりだけど取り繕うのはやめて涼たちと遊ぶように自然体でいこうかな)


「はははッ、翼さんって結構ルーズなとこあるんだね。私もすごくドジっちゃうことあるから親近感湧くなぁ」


「それは見てたらわかるよ。冴ちゃんと違っておっちょこちょいでしょ。持ち出す気はないけど今日も時間ギリギリだし……」


「あははは……見抜かれてたかぁ。で、でも別に普段は余裕を持って行動してるんだけどね!」


 白はわざと苦笑いを浮かべ、いたずらがバレた少年のように取り繕う。


 翼はそんな白を見て声を上げて笑った。


 どう動くか行き当たりばったりになりそうだと思った翼は、割高になりそうだが「のりおりくん」という江ノ電の一日乗り放題券を購入し江の島駅から稲村ヶ崎まで向かう。


「うわぁっ、やっぱりすごい! エモッ! 江ノ電最高!!」


 腰越駅を通り過ぎ進行方向右手に湘南の海が広がった。


 太陽光を水面が乱反射し、二人の瞳に眩く映る。


 冬だというのに沖にはサーファーがたくさんいた。彼らは彼らで楽しいクリスマス・イブを送っているのだろう。翼は心の内で(涼ならあの輪に入っていても不思議じゃないかもなぁ)なんて思った。


「だね。ゆったりと海が眺められるだなんて最高。この先に高校があるんだよね」


「次の駅ですよね。いいなぁ。私も江ノ電に乗って通学したい! 憧れる!」


 白は前に乗り出し海を眺めながら先の駅を見つめる。


 以前白が見たドラマでもその学園がモチーフとなっており、よりテンションが上がった。


 どうせ乗り放題のチケットを買ったのだからと二人は江ノ島学園前という駅で降り、駅の写真、有名な学園前の坂の写真、江ノ電と海の写真をパシャパシャ撮りまくる。


 途中老夫婦の観光客に「二人の写真を撮りましょうか?」と言われた時は翼も白も顔を真っ赤に染めてツーショットを撮られた。


 そして再び江ノ電に乗り込み二駅先の稲村ヶ崎駅で降り、目的地の一つ稲村ヶ崎へと向かう。


「江ノ電ってずっと海の横を走るイメージだったけど、海の前にある駅って2、3個しかないんだね」


「そうだねぇ。だからこそ江ノ島学園いいなぁ」


「ははは、まだ言ってるよ」


「いいじゃん。すっごい青春な駅だもん。ほんっと憧れるなぁ」


 少し歩くと一際人の集まる岬が見えてきた。


「おおっ、これが稲村ヶ崎!」


「綺麗なとこだね」


 稲村ヶ崎公園は名前こそあまり知られていないが、知る人ぞ知る名所だ。休日には人がよく訪れ、今日もたくさんの人がゆったりと絶景を眺めている。


 稲村ヶ崎公園の端にある縁石に腰かけると七里ヶ浜と江ノ島が一望できた。


「冬は空気が澄んでてすごく先まで綺麗に見れるね。あれが伊豆大島かな?」


「じゃあこの先が伊豆半島ですよね。遠くまで見通せていいとこだなぁ」


 柄にもなく白は腰を下ろしてぼんやりとしている。


 翼も翼で初めてのデートというのを忘れて稲村ヶ崎から見える絶景に心を奪われていた。


 しばらく写真を撮ることも忘れて景色を楽しんでいると、木枯しが吹き込んだ。


「ちょっと寒くなってきたねぇ」


「そうだね。じゃあ浜辺を歩こうか。七里ヶ浜歩きたいって言ってたもんね」


 翼は先に立ち上がり白に手を差し伸べる。


 白の手が一瞬震える。恥ずかしさと躊躇いが如実に現れた。


 翼がもう一度「ほら、行こう」と声をかけると白は勇気を出して翼の手を取り立ち上がった。


「翼さんって案外プレイボーイだったり?」


「さあ、どうだろうね」


 翼と白は稲村ヶ崎公園を降り、押し寄せる潮騒と砂浜を踏み抜く足音に耳を傾けながら七里ヶ浜を手を繋いだまま歩いていった。

稲村ヶ崎は江ノ島周辺で僕の一番好きなところです。

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