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妖精の住処  作者: 速水零
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クリスマス・イブ夜の部中

 横浜のデートスポットとして絶大な人気を誇る山下公園にやって来た。


 山下公園は海に面している芝生と樹木の点在する公園で、近くには横浜マリンタワーに大さん橋がある。


 いくつものベンチが置いてあり、カップルが肩を寄せ合いのんびり休憩しながら景色を楽しむ姿が年間通して見られる。


 涼たちも空いているベンチに腰を下ろし、大さん橋を眺めていた。


「今年一年色々なことがあったわね」


「そうだな。柚が来てからというもの退屈って言葉は一度たりとも出なかったよ」


「色んなことが起きたもんねぇ。涼はさ……楽しかった?」


「当然。……こんなに充実してて楽しい時間はないと思う」


「私もそう思うわ」


「柚は今年起きた中で一番何が印象的だった?」


「それはもちろん、私の身体がこうなったことよ」


 柚は涼の胸ポケットの中で自身の体をぺたぺたの触る。


 感触は確かに人肌だが、全てが全て前の身体と同じだとは思えない。


 後にも先にもこの現象が一番柚の人生を変えたと断言できる。


「当たり前だろ。それは僕も同じだし、第二位は?」


「うーん……この次かぁ……やっぱり涼と付き合えるようになったこと……かしら」


「ははは、確かにそれもそうだな。その言葉が出てくるまで時間がかかったのは気がかりだけど……」


「そ、それは! あんな大きな鹿と出会ったり、木下塾なんてものを涼が設立したり、今年は高校受験で第一志望に受かったりと色々あったんだもの。それに……涼に出逢えた。それも捨てきれなかったし……」


「そっか……」


 涼も柚と付き合っている事と同じくらい木下塾の開講は大きなことだ。非難はできない。


 思うところはあるが素直に嬉しく思う。


 山下公園に来る途中で買ったホットの缶コーヒーを握りしめる。


 温かい。


「ほら、柚も飲みなよ」


 涼は柚のもとに缶コーヒーを持っていき、僅かに傾ける。


「あつッ!」


「大丈夫か?」


「う、うん。ちょっと火傷しちゃった……でも、美味しい」


 柚は感覚が鋭敏で缶コーヒーの口に触れて軽い火傷をしてしまった。


 ヒリヒリする唇に柚は冷たくなってきた手をあてる。


 しばらく涼と柚は他愛もない談笑を続け、再び歩き出した。


 山下公園から涼達は最後のデートスポットに向けて歩き出す。


「最後はあそこなんだな」


「うん、やっぱり最後の場所はあそこじゃないと!」


「いや、僕はそんなに定番だとは思えないんだけどな確かに、いつも夜は目立っているけど……」


「そんなことないって、どの本にだって横浜でデートするならここは外せないって言ってるんだよ! 私もこの前一目見た瞬間に涼と一緒に来たいって思ってたんだぁ。だから、このクリスマスデートの果てはここなの!」


 柚は胸ポケットから大きく乗り出し、両手を広げてこの先に待つあの施設を際立たせる。


 水中に飛び込んでいくようなド派手な演出がされる「ダイビングコースター」、怖さが三段階選べるという珍しい和風お化け屋敷「新・幽霊堂」、そして世界最大の時計機能付き大観覧車「コスモクロック21」のあるよこはまコスモワールドがそこには広がっていた。


 よこはまコスモワールドは先程遊んでいた八景島シーパラダイスとは違う都市型立体遊園地で、「ワンダーアミューズ・ゾーン」、「ブラーノストリート・ゾーン」、「キッズカーニバル・ゾーン」の3つのゾーンがある。世界で初めての画期的な都市計画から生まれた遊園地で、大型観覧車が目印の横浜の新たな名所として、多くの人々に心の潤いと安らぎを与えると共に、観光振興と賑わいのある街づくりにも大きく貢献している。


 横浜の中心部に位置しているとはいえ、山下公園から少し歩く。しかし、普段からゆったり散歩をしている二人にはちょうど良いところにあり、横浜を煌びやかに照らしているコスモクロック21は丁度7時を表示していた。


 2016年3月にリニューアルされたコスモクロック21は約百万球ものLED電球でライトアップされており、園内に入るとより一層その輝きが夜を美しく彩っている。


 涼たちはただこの観覧車に一度乗るためだけにここまでやってきた。


 柚に普通のアトラクションは基本向かないし、危険が付き纏うが、観覧車は一番安全でかつ周りからもバレる心配が一切ない。


「ここに来るのは2回目だな」


「へぇ、誰と来たの?」


「ん……元カノと……ね」


 つい余計なことを言ってしまったと涼は後悔する。


 そして慌てて柚に弁解を試みた。


「いや、でも……そのあと1ヶ月くらいで別れたし、すごくたくさん思い出があるわけじゃないから! 柚と来れる時をずっと待ちわびていたよ! だからその……」


 柄にもなく涼は慌てふためき、出てきた言葉を直接口に出していたのであまり良いフォローとは言えない。


「ふふっ、別にそんなこと気にしなくていいわよ。一番の思い出をこれから私たちで作ればいいだけじゃない。涼が今まで何人かと付き合ってたのは知っているから、これくらい予想していたわ。……ほら、先に進んだ進んだ」


 嘘だ。本当は少し胸にモヤモヤが溜まった。


 しかし、涼がここまで弁解しようとするのを見ると怒るに怒れない。


 むしろ柚のやる気に火が灯った。

コスモワールドの説明は大体ホームページからいただきました。当然ですが、僕が考えてた説明よりもずっと伝わるので……。


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