クリスマス・イブ夕方の部前半
「んじゃあ日も落ちてきたし、行くか!」
「おーうッ!!」
時計の短針が四を過ぎてしばらく、涼と柚はようやく外のデートへと向かうことにした。
目指す場所は八景島シーパラダイス。ナイトアクアリゾーツパスという八景島シーパラダイスにある四つの水族館を自由に回れるパスを利用する予定だ。
栃木県にも水族館はいくつかあるが、柚の地元でなかなかデートに使われない。誰もが一度はオシャレでいいなぁと思うが、正直お金がかかる上にイメージそこまですごいところじゃない。
柚の今回のクリスマスデートのコンセプトは田舎では出来ないオシャレでロマンチックなデート。有名な八景島シーパラダイスは柚にとって絶好の名所である。
いつもは涼のライディングジャケットのポケットのに入っているが、今日はデートなのでチェスターコートの胸ポケットに柚を入れている。
「良いコートね、これ。乗り心地がすっごくいい!」
「デザイン性よりも素材に注目するのな。確かに柚はいつもこの辺りに入るし仕方ないけど……」
「いや、デザインも好きよ。お母さんがくれたんだっけ?」
「そうそう、着心地良くて暖かいんだよ。それに、柚にカッコいい彼氏を演出できるだろ?」
「ふふっ、そうね! 今日の涼いつも以上にイケてるわよ! もう自慢の彼氏だって言い回りたいくらい!」
「ははっ、ありがと。今日の柚もすっごく綺麗だよ。さっき言った妖精の貴族みたいだ。みんなに隠さなきゃならないのが辛い」
ヘルメットに取り付けてあるインカムを通してイチャイチャと会話している。
お互いどんな所がステキか語り合い、愛情を深める。
あまり褒められ馴れない二人は恥を感じつつも、素直に本心を伝え続けた。
八景島シーパラダイスは横浜中心部から割と近く、自宅を出て一時間もしないうちに到着した。
「へぇ、ここがあの有名な八景島シーパラダイスなのね! やっぱり水族館だけじゃなくて色んな施設があるわ!」
恋する遊び島というキャッチコピーで売っている八景島シーパラダイスは水族館をはじめとし遊園地、ショッピングモール、レストラン、ホテルなどがある複合型海洋レジャー施設だ。
島に入るのは無料で、一日中遊んで過ごせるが、柚と遊園地は相性が悪いので今回は水族館だけ見て周り、夕食を取ってから移動する。
島内に一般車両は入れないので、涼達は近くの駐輪場に停めてのんびりマリンゲートを通って歩いて島に入った。
「うっわー! 外から見ても色々凄かったけど、中に入ると壮大ね」
「そうだな。特に小さい柚にはそう見えるだろうな。海を渡る道も良かったし、もう既にまた来たいと思ってるよ」
「私ももうまた来たいと思うわ。……ほら、早くチケット買って行きましょ!」
「おう!」
相変わらず柚のチケット代はタダで一人分の料金しか発生しない。もうこういった人数分チケットを払うイベントで柚をタダ乗りさせるケースは何度も起きたので、罪悪感を感じなかった。
「クリスマス・イブなだけあってカップルだらけだな」
「あら、私たちもその一組じゃない」
「僕らからすればそうだけど、周りからは一人客だろうな」
「涼さっびしぃぃ! 大丈夫? 慰めてあげようか?」
「じゃあ頭に乗って撫でてくれよ」
前に見たアニメの特別版にそんなシーンがあったのを思い出す。
(リアルであの状況が起これば周りの客は度肝抜かれて大騒ぎだなぁ)
涼は苦笑いを浮かべながらアクアミュージアムという日本最大級の水族館に入った。
「ねえ、あの人カッコよくない?!」
「えっ、ヤバッ!!」
「モデルやってるのかな? やっぱりクリスマスデート?」
「でも隣に誰もいないよ。一人で遊びに来た……とか?」
「そんなことあるわけないじゃない! ……でも、ならどうして一人で来たんだろう?」
「彼女に振られて、それでもデートプランを進行している……とか?」
入った途端残念女子会をやっているグループから後ろ指差されるような視線を涼は感じた。案の定こういう展開になってしまう。
「涼が一人で今日ここに来るってやっぱ周りからそう思われるのね」
柚が人の悪い笑みを浮かべて涼をからかった。
「うるさい、いいんだよそんなことは。周りの視線なんて気にせず、海の世界を楽しもう! ここは暗くて普通の他人なんて気にもしないところだから、柚もしっかり楽しめるだろ?」
「……そうね。せっかくのデートだもの。さぁさぁ、まずは始まりの海とやらに行こう!」
「おうっ!」
デートの醸し出す甘い雰囲気とは違うが、涼たちはこのノリに満足していた。
すごく忙しい時期が来たので2日空けることはしませんが休む日が増えます。