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妖精の住処  作者: 速水零
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デートのプランニングをしたい

(あんなこと言ったけど、どんなところに行こうかなぁ)


 涼が合コンに出かけた次の日。柚は目が覚めると同時に後悔に襲われていた。


 昨晩、柚は涼に「涼を誑し込んでやるんだから覚悟してよね!」と言ってしまった。


 まだクリスマスデートの構想すら建てられていない。


 後一週間もないと焦りが込み上げてくる。


 柚の寝ている貴族おうちセットは防寒性に乏しく、やけに精緻に作り上げられている木製のベッドの中に包まっていないと冬は寒くて乗り切れない。


 緊張の汗は寒さから引っ込んでしまっているが、内心では桶に溜まるんではないかと思わせるほど汗が吹き出ていた。


(涼ったら私が部屋の中にいるのを忘れて暖房かけなかったわね! 風邪ひいたらどうするのよ! まったく! あー、リモコンまで遠すぎ……)


 涼は既に日課のサイクリングに出ている。普段なら涼が帰って来ても寝ている柚だが、早朝の凍てつく空気に目が覚めてしまった。


 いつもなら涼は起きると同時に部屋にエアコンを付ける。


 今日は涼がそのままサイクリングに出てしまったので部屋が冷えきっていた。部屋の中に()()()()()()()スマホに手を伸ばしてタッチ。まだ6時半。涼が帰ってくるまで大体三十分はかかる。


 暖房を付けるには貴族おうちセットを出て涼のベッドをよじ登る必要がある。その距離は普通の人間換算で二十メートル前後。すごく面倒くさい。


(うぅっ……ベッドの中でじっとするしかないかぁ。スマホいじりたくてもベッドに籠りながらいじれないのがこの体で一番辛いことかもしれないわね)


 涼から貰ったお古のスマホは少し前の機種だけあってかなり小型だが、それでも柚の身長の半分くらい大きい上に、柚の体重の半分ほど重い。


 スマホでも大迫力な映像を楽しめるのは良い事だが、携帯なのに携帯性が皆無だ。


(ま、冗談はさておき、のんびり考えようか。……まずキャンプはなし! うん、あれはあれで楽しいけど、やっぱり王道は外せない! んー遊園地はなしだからほかの定番は何があったかなぁ?)


 柚にとって涼は初めての彼氏だ。経験からは何も出てこない。


 中学時代友達の何人かは彼氏がいて、どんなデートがよかったという自慢話や惚気話を聞かされていたことを思い出してみる。


(えーっと、どんなこと話してっけ? もう鬱陶しいものばっかであんまし覚えてないや。どうせうちは田舎だしちょっと電車に乗って大きい駅に行ったくらいでしょ。私らにとって宇都宮とかはすごく大きい街だったけど、横浜に住むようになってからはもうあそこも田舎ね!)


 柚は元々栃木県を大きく貫く国道沿いにある中途半端に発展中の街に住んでいた。県庁所在地の宇都宮は昔の彼女にとって都会も都会だったが、涼の家がある横浜市に住むことになってからはもう田舎扱い。


 この言葉を聞いた栃木県民は口を揃えて上京したての奴がいきがるなと言うだろう。


 どうせならこっちでしか出来ないようなデートをしてやりたい、と中学の同級生の顔を思い浮かべながら構想を練っていく。


 しかし、方向性は思いついても具体案が全く浮かばず、いきなり座礁に乗り上げてしまった。


(横浜に住んだって言っても私基本的に引きこもりだからなぁ、妙案なんて思い浮かばないよ。涼、早く帰ってきてスマホ弄らせて!)


 柚にとって横浜といえば赤レンガ、中華街、ランドマークタワーだ。歩くとそこそこ時間がかかるものの、王道中の王道である。


 普通にそこに行けばいいじゃん、と思ったが、昨晩の柚のセリフでは涼の想像もできない凄いデートを彷彿させてしまった。大見得切って安全策で固めるのは恥ずかしい。


 再びベッドから手を伸ばしてスマホに触ってみる。


 冬の寒さを纏ったスマホは一瞬にして柚の小さな掌の熱を奪っていった。


(冷たい! 冷たすぎるよ! あー、涼がいない所で調べたかったのに、やっぱりこれじゃあ涼が帰ってくるまで待つしかないかなぁ……いや、やっぱ気になるし、大事な彼氏のためだもん! ここは一肌脱いで頑張るところよ、柚!)


 自分を叱咤激励し、勇気を奮い立たせ、柚は極寒の世界へ飛び出した。


「ひぃぃっ、やっぱ寒い寒い寒い!!」


 思わず声に出てしまうほど寒い。体がスマホのようにバイブレーションしている。いっそ動きまくった方が暖かいと無駄にバタバタ足踏みしながら貴族おうちセットを出た。


 涼の部屋全体はもっと冷えきっていた。体感二度は落ちている。


 寒い寒いと言っている時間が勿体ないと思った柚は走り出す。長い助走の後一気に跳躍。涼のベッドにうまく飛び乗った。

 

 すかさずベッド備わっているの棚にあったリモコンを操作した。暖房の設定温度は次いでにプラス三度上げておく。


 効くまでに少し時間がかかるだろうが、一仕事を終えたと思った柚は寒さから逃げるように自身のベッドに駆け込んだ。


 ふぅっと一息ついてゆっくり時間が過ぎるのを待つが、ふとある考えを思いつく。


(あれ? これ私が布団を外に持っていけば頑張らなくてよかったじゃん。えー、寒い思いして損したァ)


 この場で温まりながらスマホをいじることが出来ないのはベッドが小さ過ぎてスマホを使う余裕がないからだ。涼に買ってもらった犬用ベッドなら問題なくできる。ネットサーフィンするのには向かないが。


 ベッドの掛け布団に包まって外に出るのはなんか負けた気がするので、柚はしばらくじっとクリスマスデートを妄想して時間を潰し、ようやく部屋が暖まってきたと思ったタイミングで外に出た。


(あー、暖かい暖かい。もうこれからはエアコンガンガンにして加湿器バンバン付けて快適に寝たいなぁ)


 これからスマホでデートプランを調べるはずの柚だったが、つい電気ストーブを調べたり加湿器を調べたりと他に気が向いてしまい、結局涼が帰ってくるまでほとんどプランを建てられないでいた。

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