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妖精の住処  作者: 速水零
281/312

彼女の尋問

短めです。

「合コンどうだった?」


 涼が帰ってきて開口一番に柚はそう問いかけた。


 愛する彼氏が合コンに行ったことに不安を覚えない彼女はいまい。ほとんど頭数のために使われているとはいえ、何か起きたとしても不思議ではない。


「うまくいったよ。中々に楽しい会合だった」


「へ、へえ、うまくいった……ねぇ。何がうまくいったのかしら?」


「含みのある言い方するなって。別に僕が誰かと急接近とかいう展開は全くなかったから」


 ダイニングテーブルにペタリと座る柚に手を伸ばし、そっと頭を撫でてやる。


 柚は涼が合コンに出かけてから今までずっと気が気でなかった。遅くなるのはわかっていたが、一度耐えきれずに電話してしまったほどである。


 直接涼の温もりを感じた柚は、ようやく彼氏が自分のもとに帰ってきたと実感し、安堵のため息を放つ。


「……ふぅん、そうなんだ。で、最後の女子メンバーはどんな子だったの?」


 涼の心は柚にあることが確認できた。しかし、最後の女子メンバーが涼に惚れてないとは聞いてない。


 涼と同じく顔が良くて頭の良い真も一緒とはいえ、涼に叶うはずない、と彼女の柚は確信している。


 合コンで涼と話をして惹かれない女の子はいないのだ。


「そういえばあのとき話してなかったな。それがさ、なんと最後のメンバーが――」


 涼は合コンで起きたことを詳らかに報告していった。


 恋人の合コン話には焦りを覚えていた柚だが、初めて聴く合コンの生の話には胸が高鳴る。


 特に白と翼の話が柚の乙女心を強く刺激した。まあ、正直成果はそれだけだからそれ以外に反応しようもない。


「翼さんってこの前サバイバルゲームやった時にいた一番背の低い人でしょ。へぇ、あの人が白とねぇ……。うわぁっ、その現場見たすぎる!! こっそりついていけばよかったかも」


「僕も葵と協力して盗聴したかったなぁ」


「それはやり過ぎだって。でも、私ならバレることなく隠れられるからねぇ」


「柚がいればどんな相手にも忍び込ませられそうだな」


「それでそれで二人は結局どうなったわけ?!」


 柚は涼の袖をつかんでクイクイッ引っ張り続きを急がせる。


「どういう過程でそこまで辿り着いたかはわからないぞ。でも、歌の間隔からしてそこそこ話をしてたんだろうな。途中大きな声も漏れていたし」


「へぇ、それでそれで!」


 勿体ぶる涼の腕に飛び乗る。涼の細身で筋肉質な腕の上はとても不安定だが、バランスよく柚は地団駄を踏んでみせた。


「それで、結果的に白と翼は一度デートに行くようになったそうだ」


「ふぁぁぁ! ほんとほんと!? クリスマス・イブのデートに行くってことだよね!!」


 柚は涼の腕を登り、肩に腰を下ろす。興奮して落ちないか心配だ。


「そうなるな」


「はえぇぇ。これが、合コンの力! まさか本当に白が相手を掴み取ることができるなんて!」


 柚の興奮は一向に覚めることなく、足をパタパタさせていた。軽くデコピンされているようでちょっとこそばゆい。


「まあ翼たちはいいとして、僕らのクリスマスデートのプランは大丈夫なのか?」


「もっちろん! と言いたいところだけど、中々うまく決まらないの! 遊園地とかに行きたいなぁって思ってるけど、多分私ジェットコースターに乗ったら振り落とされる……」


「あはは……たしかに。バレずにアトラクションを楽しむっていうのは難題だよな。人形と説明したら手荷物扱いされて置いてきぼりになるし」


 涼は乾いた笑みを浮かべる。柚の身体的問題は簡単なことでは解決しないようだ。


「そういえば、遊園地に行くなんて金の無駄だとか出逢った日に言ってなかった? もし、遊園地に決まっても涼は楽しめる?」


「もちろん。お金がもったいないって考えは別に消えたわけじゃないけど、可愛い彼女とデートに行くのなら話は別だろ?」


「っ!? またそんなこと言う!!」


「はははっ。柚にプランニングを任せた以上、僕が文句を言うことはないし、どこに行くにしても全力で楽しみにいくから。最高のデートにしてくれるんだろ? まだ時間はあるからゆっくり考えてくれ」


「うん、わかった」


 柚はピョンッとダイニングテーブルに飛び降る。


 そしてくるりと翻って言った。


「涼を誑し込んでやるんだから覚悟してよね!」

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