彼女の尋問
短めです。
「合コンどうだった?」
涼が帰ってきて開口一番に柚はそう問いかけた。
愛する彼氏が合コンに行ったことに不安を覚えない彼女はいまい。ほとんど頭数のために使われているとはいえ、何か起きたとしても不思議ではない。
「うまくいったよ。中々に楽しい会合だった」
「へ、へえ、うまくいった……ねぇ。何がうまくいったのかしら?」
「含みのある言い方するなって。別に僕が誰かと急接近とかいう展開は全くなかったから」
ダイニングテーブルにペタリと座る柚に手を伸ばし、そっと頭を撫でてやる。
柚は涼が合コンに出かけてから今までずっと気が気でなかった。遅くなるのはわかっていたが、一度耐えきれずに電話してしまったほどである。
直接涼の温もりを感じた柚は、ようやく彼氏が自分のもとに帰ってきたと実感し、安堵のため息を放つ。
「……ふぅん、そうなんだ。で、最後の女子メンバーはどんな子だったの?」
涼の心は柚にあることが確認できた。しかし、最後の女子メンバーが涼に惚れてないとは聞いてない。
涼と同じく顔が良くて頭の良い真も一緒とはいえ、涼に叶うはずない、と彼女の柚は確信している。
合コンで涼と話をして惹かれない女の子はいないのだ。
「そういえばあのとき話してなかったな。それがさ、なんと最後のメンバーが――」
涼は合コンで起きたことを詳らかに報告していった。
恋人の合コン話には焦りを覚えていた柚だが、初めて聴く合コンの生の話には胸が高鳴る。
特に白と翼の話が柚の乙女心を強く刺激した。まあ、正直成果はそれだけだからそれ以外に反応しようもない。
「翼さんってこの前サバイバルゲームやった時にいた一番背の低い人でしょ。へぇ、あの人が白とねぇ……。うわぁっ、その現場見たすぎる!! こっそりついていけばよかったかも」
「僕も葵と協力して盗聴したかったなぁ」
「それはやり過ぎだって。でも、私ならバレることなく隠れられるからねぇ」
「柚がいればどんな相手にも忍び込ませられそうだな」
「それでそれで二人は結局どうなったわけ?!」
柚は涼の袖をつかんでクイクイッ引っ張り続きを急がせる。
「どういう過程でそこまで辿り着いたかはわからないぞ。でも、歌の間隔からしてそこそこ話をしてたんだろうな。途中大きな声も漏れていたし」
「へぇ、それでそれで!」
勿体ぶる涼の腕に飛び乗る。涼の細身で筋肉質な腕の上はとても不安定だが、バランスよく柚は地団駄を踏んでみせた。
「それで、結果的に白と翼は一度デートに行くようになったそうだ」
「ふぁぁぁ! ほんとほんと!? クリスマス・イブのデートに行くってことだよね!!」
柚は涼の腕を登り、肩に腰を下ろす。興奮して落ちないか心配だ。
「そうなるな」
「はえぇぇ。これが、合コンの力! まさか本当に白が相手を掴み取ることができるなんて!」
柚の興奮は一向に覚めることなく、足をパタパタさせていた。軽くデコピンされているようでちょっとこそばゆい。
「まあ翼たちはいいとして、僕らのクリスマスデートのプランは大丈夫なのか?」
「もっちろん! と言いたいところだけど、中々うまく決まらないの! 遊園地とかに行きたいなぁって思ってるけど、多分私ジェットコースターに乗ったら振り落とされる……」
「あはは……たしかに。バレずにアトラクションを楽しむっていうのは難題だよな。人形と説明したら手荷物扱いされて置いてきぼりになるし」
涼は乾いた笑みを浮かべる。柚の身体的問題は簡単なことでは解決しないようだ。
「そういえば、遊園地に行くなんて金の無駄だとか出逢った日に言ってなかった? もし、遊園地に決まっても涼は楽しめる?」
「もちろん。お金がもったいないって考えは別に消えたわけじゃないけど、可愛い彼女とデートに行くのなら話は別だろ?」
「っ!? またそんなこと言う!!」
「はははっ。柚にプランニングを任せた以上、僕が文句を言うことはないし、どこに行くにしても全力で楽しみにいくから。最高のデートにしてくれるんだろ? まだ時間はあるからゆっくり考えてくれ」
「うん、わかった」
柚はピョンッとダイニングテーブルに飛び降る。
そしてくるりと翻って言った。
「涼を誑し込んでやるんだから覚悟してよね!」