にやけ面
「ごめんごめぇん! ちょっと話ししていたら長引いちゃってさぁ。……あれ? 翼も白も顔が赤いけどぉ、なにかあったの?」
上がりきった口角を隠そうともせず、葵は白々しくも翼たちに何があったのか聞き出す。
酷いことするなぁなんて涼は能天気に見ていたが、当の本人たちの顔は更に赤く染まっていく。
「べ、別に、なにも……あ、ありませんでしたよ。そ、それより、葵さんたちは二人っきりで何を話していたんですか? 随分と長い時間戻ってきませんでしたが……」
やりすぎたという自覚が芽生えた白は恥ずかしくて翼の顔も葵の顔も見れず、カラオケのモニターに視線が固定されていた。
白と翼は葵の思惑を知っているが、葵もその思惑がバレていることを知っている。
このまま葵にペースを持っていかれると更に羞恥に追い込まれると確信している白は何とか話を逸らそうと話題を変えてみた。
翼は今自棄になって歌っている最中なので援護射撃は来ない。
「んー、私たちはねぇ……ちょっと進路の話をしてたんだ。ほら、もうすぐ受験生なわけだし、私はAOとか推薦狙ってるけど、一応準備はしておきたいじゃん? 涼は一般入試受けるみたいだから相談に乗ってもらってたの。ね?」
葵が左目だけパチパチつぶってウィンクしてくる。
話を合わせろとのことなので涼もそれに乗っかり、葵ならどんな大学が良さそうか想像して嘘を並び立てた。
(ほら葵、あー、そこいいかもなんて納得してないで追撃しろよ)
涼と葵は翼が歌い直しはじめて流れが変わったと思い部屋に入ったのであって、二人がどんな話をしていたのか全くわからない。
是非とも二人の恋路を問いただしたいところだが、翼の歌が終わってしまった。
「涼も葵も何考えているか知らないけどさ、別に僕らはただ談笑してただけだよ」
「へぇ、ほんとーかなぁ?」
「な、すっごく怪しいんだけど……」
「怪しくない! 普通に過ごしてただけだって!」
「焦って否定してるのみるとほんと怪しく見えるなぁ」
「普通に談笑しているだけだったら、どんな話をしていたか僕たちにも話せるよな?」
涼と葵はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて翼に詰め寄る。
「ど、どうしてこっちににじり寄って来るの?」
「ううん、別に意味なんてないよぉ」
「そうそう、僕ら詳しく話を聞きたいだけで、問い詰めようとか、洗いざらい白状してもらおうとか、そんな考えはないから安心しな」
明らかに嘘である。
こうなった二人を止めることは翼を始めほかの親友達でも不可能。
「ま、待ってください!」
「ん? どうしたの、白ちゃん」
諦めて口を破るしかないのか、と翼が思い始めたところに白が割り込んできた。
「わ、私たちは本当に……そのっ…………いいえ、じ、実は……」
白は視線を翼に向けて勇気をもらう。
「ま、また……またっ…………また、別の日に、あ、遊ばないか……という話を、して、いました」
白もこの二人を相手に誤魔化し切ることはできないと判断していた。
だが、当確の話までは恥ずかしくてできないので、一部分だけ伝えて満足してもらうことにした。
身を切る思いで打ち明けてみたが、効果的面。葵はひゅぅ〜ぅ!と囃すように口ずさみ、涼は保護者のような温かい視線を白に向けた。
「そ、そうなんだよ……ったく、こんなこと言わせないでほしいな」
「白に言わせた翼には言われたくないなぁ。男らしいところ見せないと、白ちゃん幻滅しちゃうよ?」
「う、うるさい。悪かったと思ってるって……ごめんね、白。無理して打ち上げさせちゃって」
「い、いいえ……だ、大丈夫です」
「悪いな、白。こっちもついからかい過ぎた。……でも、合コンをやってみてよかったな。目標達成じゃないか! 翼は本当にいいやつだから、白をガッカリさせるようなことにはならないはずだよ……な、翼。もう大丈夫だよな?」
涼も翼を言外に叱咤する。涼にこう言われてしまうと、いろいろ言い訳をしたい翼も素直に反省した。意地の悪い二人に絡まれたからといって、歳下の彼女(予定……のはず)に勇気を出させるのはNOだ。
「……うん、大丈夫。でも、涼と葵も反省してよ。そういう意地の悪いところ直さないと二人とも恋人ができないぞ」
「うん、わかってるわかってるって」
「僕もこんなことするのお前らくらいだから、安心しろよな」
「それは安心できないんだけど……まあいいや。残り時間少ないんだし、また歌おう」
「そうだね! じゃあ次は私の番! もういっちょ盛り上がる曲いきますか!!」
こうして、一時間と少しカラオケを堪能し、完全に解散となった。
白たちのデートは毎度のイフストーリー代わりに書こうと思います。