クリスマスデートの誘い
投稿できていると思っていました……
「な、なんかこの状況で話すの恥ずかしいんですけど、私……実は今まで彼氏ができたことないんです!」
翼の初めて見せる表情に心が揺れた白は罪悪感を覚えながら交際経験ゼロを打ち明けた。
「あぁ…ははは…………そうだったんだ。白はてっきりすごくモテてて何人もいたのかと思ったよ。でも、女子校だもんね」
「……そうなんですよ」
翼は苦笑いを浮かべて白に同情の視線を送る。
翼の視線に耐えられなかった白は俯くことしかできなかった。
「で、でも、白はほら……可愛いからさ、きっとすぐに相手から寄ってくるよ」
「そ、そうですか? で、でも、私今までモテたことほとんどないですよ?」
しおらしく白は顔をあげて上目遣いで翼に嘘はないか尋ねた。自分がより可愛く見える角度を意識してのことだ。
他者が慌てている姿を見ると冷静な思考を取り戻せることがある。
白だって立派な美少女。褒められることは多々あり、気になる相手から褒められると気恥ずかしい部分はあるが冷静に受け止めることができた。
「ほんと、全く色恋とは絶縁されてるじゃないかって疑うほどですよ。……そんな私を、ですか?」
少し調子に乗った。やり過ぎかもと反省する。
ここまでの白は本当にクリスマスデートに誘うか、誘わずにこのまま離れるか葛藤していた。
涼に合コンの開催をお願いし、冴のいないところでカラオケに来ている今、こんなに気になる相手がいてひよったなどという結果はあり得ない。
翼が慌ててフォローをすることで落ち着きを取り戻した白は、ここにきて勝利への道筋が見えてくる。
「うんうん、こんな子がいたら男子は放っておけないって」
「……翼さんも、私のことを放っておけませんか?」
冴を弄って遊ぶときのように相手がどう答えるか、どう反応するかをさまざまな仕草から予測を立て、伏線を蜘蛛の糸のように張り巡らせて待ち構える。
もちろん、相手を釣りたい白はただ引っかかるのを待つのではなく、理性を失わせる方向で演技という餌を撒いた。
もう片脚くらいは捉えた。
「えっ……も、もちろん。白がよければ彼氏に立候補するね! うん」
「へぇ……そうですか。じゃあ翼さんは当確ですね!」
「と、当確? 当選確実……つまり――」
恋人がいたことがないと告白させた罪悪感を背負っていた翼は、当然勢い任せに動いていた。
途中から現れた白の演技も見抜けず思うがままに翻弄されていた。
つい、口には出さないだろうと思ったことまで誘導されて声に出てしまう。一度発した言葉は口には戻らない。
当確という言葉を聞いて少し我に返った翼が状況を整理しようとすると、白が畳み掛けるように言葉を遮る。
「ですが! 流石に今日出会ったばかりの勢いで進むのはよくありませんよね。私たちはもっとお互いを知って歩み寄るべきなんです」
完全に主導権を白に持っていかれた。数分前は全く同じ気持ちを抱いていたはずなのに、この差は一体なんなのだろう。
「お互いを知って……歩み寄る?」
翼は確かめるようにおうむ返しをし、キョトンと惚けた。無防備な姿に白の気持ちは再燃される。これが数多の女子が可愛いと言わしめた「翼ちゃん」の力だ。
「そうです! 翼さんは私の彼氏に立候補されましたし、私はそれを認めました。しかし、選挙期間というものが存在するように、私たちにも時間が必要です。だから一度デートに行きましょう!」
怒涛の勢いで白は今回の合コン最大の目標を叶えに行った。
冴相手ならいつも言葉尻をこれでもかと拾い上げて揶揄うが、初めて自分から異性をデートに誘う白はらしくないほどに強引だった。
これも葵によって作り出された密室の力なのだろうか。
「そ、それはそうだけど……」
ここまでのやる気と勢いを見せている相手に「さっきの言葉は社交辞令なんだけど」とは言い出しにくい。特に断るのが苦手な翼には荷が重い。
(えっ急に話が進み過ぎてない!? さっきまであんなにしおらしくしてたのにいきなりなんでこんなに元気よくなってるの!? そりゃ僕も白のこと気になり出してたけどさ。ことが進むのやっぱ早いよ!)
翼の心の内は南極の吹雪のように荒れていた。
「それなら今度のクリスマス・イブにデートをしましょう!!」
曖昧な返しではあったが了承は得た。
すかさず白は日程を決めにかかる。
ちょうどクリスマス・イブの予定がない翼は「うん、わかった」と答えることしかできなかった。
もちろん、翼にとってこれは歓迎する話だ。話の展開が違えば小躍りしそうなほど嬉しく舞い上がってしまう。
しかし冷静さをまだ取り戻し切れていない翼は「なるようになれ!」と自棄になってカラオケ機器を弄って曲を選択する。
涼と葵は翼の熱唱が終わると同時に部屋に入った。