恋愛遍歴
「それがいいよ。……それにしても、涼と葵は何をしているだろうね?」
「さあ、どこかで話でもしているんじゃないですか?」
「話……話かぁ」
ここで、お互い何故未だに涼達が帰ってきてないかの仮説が頭に降って湧いてきた。
(もしかして、涼さんと葵さん私に気を使って席を離れたんじゃ……。ううん、涼さんのスマホにはちゃんと着信があったから、葵さんが帰ってこようとしていた涼さんを引き止めてくれたのかなぁ? なんにせよ、今の状況はさっきと打って変わって気まずい!)
よくよく考えてみれば今白と翼は二人っきり。それも葵が気を利かせてこの空間をセッティングした。合コンで出会い、カラオケでこうして二人っきり。
我に返った白は緊張で顔が少し震えていた。
(多分この状況って葵が余計なこと考えたからだよね。もう十分くらい経つけど涼はまだ帰って来てないし……冷静に今に至る状況を考えるとすごく気まずい。……はぁ、白の顔を見る限り僕と同じことを考えているんだろうなぁ)
翼は翼でなんとも形容し難い圧力を感じていた。原因は幼馴染からの行動だとわかっている。
今このタイミングで翼も外に出ることはその幼馴染が許さないだろう。つまり、ここは今密室と言っても差し支えない。
「ま、まあ、あの二人は元恋人同士だし、今回の合コンのこともあって話したいことがいろいろとあるんじゃないかな」
「で、ですね。涼さんと葵さんとっても仲良さそうで、もしかしたら寄りを戻すなんてこともあるんじゃないですか?! 翼さんはどう思います?」
白は涼と冴をくっつけようとしている。葵は涼と寄りを戻すことはないだろうと思って合コンに誘ったわけだし、本当にそうとは思っていない。
ただ、冴や白は涼と葵に出会って日が浅く、どんな付き合いをしていたか、今お互いのことをどう思っているのかよくわかっていなかった。
元々聞きたかったことでもあるので、気を紛らすのに使わせてもらう。
「んー、そうだね…………僕個人の見解だと、まず涼に葵と付き合いなおすつもりはないかな。白の言う通り涼と葵は仲が良いけど、本当に気を許している相手にはあんな感じだよ。逆に他の友達と全くの同列ってことで特別には思っていないはず。昔っから葵のことを友達としか見てないし……。葵の方だけど、こっちもこっちで涼と寄りを戻すつもりはないんじゃない? そりゃ涼のことをまだ好きかと尋ねれば好きって答えるかもしれないけど、涼が葵に一歩踏み込んでこないうちはこのまま静観って感じかな。あくまで予想だけどね」
「ほぉ、なるほどなるほど。すごく想像できますねぇ。流石幼馴染です。ちなみに、今まで涼さんって葵さん以外の方と付き合ったりとかしてたんですか?」
「うん、何回かあったよ。でも涼から誰かに告白したことはないはず。まああれだけのスペック持ってたら惚れるなって方が無茶だよね。昔は今よりもずっと性格に難ありだったから告白される回数は多分白の考えるより少ないと思うけど、それでも年に何回かあったかな。涼はいずれわかると思うけど、興味の向く方へ後先考えずに首を突っ込むことが多いから、「恋人がいるってどんなだろう、試しに付き合ってみようかな。面白そうだし」なんて考えで今まで交際してたよ」
「……それはまたぶっ飛んでますね。涼さんらしいのかもしれませんけど……」
白も面白そうだと思ったら首を突っ込んで見るタイプだが、流石に誰かと付き合うとなった時にもその考えは持ち出さない。
真剣に考えてこの人が隣いる生活を想像してみてから決める。
「じゃあ翼さんはどうなんですかぁ? 今までの交際経験を教えてくださいよぉ」
「えっ!? 僕の交際経験!? べ、別に教えてもいいけどさ……交換条件として白も話してくれること。それならいいよ」
「わ、私のも……ですか。……いいですよ。特に隠すものはないので」
白は翼の条件にもビビることなく、むしろそれくらいの代償なら安いとばかりに堂々と受け入れた。
「成立だね。……僕は今まで一人だけ。2個上の美術部の先輩と一年弱かな。高一の夏休み前に先輩に告白されて、僕もその時その先輩が好きだったから付き合ったんだけど、先輩の受験で距離が空いちゃって、学校が別れてから自然消滅ってかんじ。……それだけだよ」
「へ、へぇ。そんなことがあったんですか……ちなみに、今でもその先輩が好きなんですか?」
「好き嫌いで言うなら好きだけど、一年前ほど強くはないかな。お互い一緒にいた時間が短過ぎたんだよ。それに、もう先輩は大学で彼氏ができたってSNSにあげてたし、僕も未練はない。……次、白の番だよ」
未練はない、鋭い顔つきで強く翼は言い切った。
「な、なんかこの状況で話すの恥ずかしいんですけど、私……実は今まで彼氏ができたことないんです!」
翼の初めて見せる表情に心が揺れた白は罪悪感を覚えながら交際経験ゼロを打ち明けた。