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妖精の住処  作者: 速水零
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元カノと盗み聞き

 しかし、ずっと電話するわけにもいかない。自分の出番まで後10分くらいはあるかな、と思いながら部屋に戻ろうとすると、部屋の外で葵がスマホをいじりながら立っていた。


「どうしたんだ?」


「ん? ああ、もう用事はいいの?」


「まあな。それで?」


「いやー、ちょっと面白いことが起きるかなぁって思ってお邪魔虫は席を離れてみたんだよ」


「面白いこと……あぁ、そういうことか」


 涼の目から見て、白と翼というペアは不思議なほどにあっている。両者小柄で今日の服装からファッションの傾向も近いということもあるが、普段騒がしいほどに明るく社交的な白には大人しめの相方が性に合う。


 涼は白に自分と根幹が似通っていると思っているが、表面に現れる性格は真反対。しかし、涼は騒がしいタイプの柚と付き合っている。自分と反対の性格の持ち主に惹かれやすいのは同じようだ。


(白がクリスマスに彼氏が欲しくて合コンをしたいって言い出したんだから、ここはしっかり押せよ。翼は見た目通り強くいかれたら折れるタイプだ。それに、白に対してはかなり好印象みたいだし、可能性は十分ある)


 涼は心の底から白のことを応援していた。


 信頼している後輩が、親友と付き合うのは歓迎することだ。それに、あの小悪魔のように人を(主に冴を)弄る姿から翼にデレデレになる姿に変わる様子は是非とも拝んでみたい。


「ねえ涼。あの二人のことどう思う?」


「かなりお似合いだと思うぞ。同じ背が低いコンビで見た目のバランスも良いし、こうして部屋の中を覗き見している限り雰囲気も悪くない。……普通なら初めて会ったばかりの奴とこうして二人きりになった状況だと、気まずくてスマホを弄ったりして僕らが帰ってくるのを待つものじゃないか? それが一切なく、僕らのことなど初めからいなかったかのように楽しんでいる。きっかけをどちらかが放てば合コンマジックが起こるんじゃないか?」


「私も概ね同意見。涼と違って白ちゃんとはそんなに仲が深まってないからあれだけど、冴ちゃんからの話も合わせるとすごくいいと思う。まぁいきなり付き合うなんてのはないと思うけど、お互いクリスマスを意識してるんじゃない?」


「そのために開いた合コンだし、上手くいくと主催者に変えられた身としても嬉しいな」


 白と翼からバレないよう盛り上がるサビで中を伺ったが、三時間ほど前に出会ったとは思えないほど意気投合している。


 翼が歌い終わり、白がマイクを受け取る。


 点数を見ながら感想を言い合い、どんな音楽の趣味をしているか話し合っていた。


 涼と葵が帰って来ないことを訝しむ素振りなど全くなく、白の番がやってくる。


「なんか私たちのこと忘れられてない?」


「まだ一曲が終わっただけだし、気にする程でもないだろ」


「んー、まぁそうだけどさ。こういう時って無理して明るく振舞っていると、会話を繋げるために自然と第三者のことが出てくるものなんだよ。それがないってことは……」


「話はわかるが、ちょっと決めつけに行き過ぎじゃないか? もう少しじっと見ていよう。生憎と声はあまり漏れ出てこないが、雰囲気くらいは伝わるし」


 涼と葵のカラオケの趣旨が「せっかくだしみんなと楽しもう!」から「白と翼の仲をサポートしよう!」にシフトチェンジしていた。


 二人隣合って部屋の壁に頭をくっつけ、防音壁を超えてくる音に集中する。


 周りの客から見ればこの二人こそ怪しいが、涼と葵にその気は無い。


 白の美声を堪能しつつ、要所要所で中を覗き見ては感想を話し合う。


 やがて白の出番も終わり、葵の出番がやってくるが、ここでも白と翼に葵を探す素振りが見えない。


 流石に二人ともどうしたのだろうか、という話題は出てくるものの、すぐに別の話題に切り替わり、翼は白と談笑しながら次の曲を入れる。


「もしかして私たちがわざと席を外しているって気がついてる?」


「どうだろうな。可能性は低くないが、それはそれで良い反応が期待できるんじゃないか?」


「確かに。後押しされていると思えば取るべき行動も変わってくるし。「やばい! これはクリスマス・イブにデートに誘わないと涼たちに何言われるか分からないぞ!!」なんて思わせられたら勝ちじゃん! そしたらそしたであたふたと面白い反応してくれるんだろうなぁ」


「あわよくば監視カメラとかで見てみたいものだが、できないことが悔やまれるな」


「はははっ、流石にそれは意地悪すぎるって。私も見てみたいけど」


 しばらく涼と葵は外に立ちながら聞き耳を立て、白がもう一度終わってから自然と部屋に戻った。


 どんな会話をしていたかは分からない。だが、良い感触を得た涼と葵だった。


 

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