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妖精の住処  作者: 速水零
268/312

合コン

「ごめん冴、一本目の前で通り過ぎちゃってさ。待った……はぁ?」


「えっ……葵? なんでこんなところに……いや、もしかして最後のメンバーって……」


「えっ……涼? なんでこんなところに……あっ、もしかして私冴に嵌められた?」


 涼同様遅れてやってきた葵も驚きを隠さないでいる。 


「あー……そのぉ……ごめんなさい! 今日のご、合コンの相手は涼さんとそのお友達です! 別に騙すつもりはなかったんですけど、びっくりしてくれるかなって思って……」


「……んー、まぁいいよ、別に。頭数合わせってことでノリで軽く来たように見えるかもしれないけどすっごく緊張しててさ。涼達が相手なら全然楽だし。……あれ? 翼も呼ばれたんだ」


「涼に誘われてね。まさか葵が来るとは思ってもいなかったよ。まあ僕も気が楽になったけどさ」


「久しぶりに会うけど変わらないわねぇ。可愛い翼ちゃんのままで安心した!」


「その呼び方はやめてくれって何度も言ってるだろ!」


 160センチそこそこの葵は翼を見下ろして顔をニマニマさせる。中学時代が懐かしいが感傷に浸っている場合ではないので、涼は咳払いをして注目を集める。


「とにかく、これで全員だね。まさかここまで身内だけで集まるとは予想外だけど、今日は楽しもう。店を予約してあるからまず向かおうか」


 涼と真、葵と翼、冴と白といった具合に列を作って涼達は予約したチーズ専門店を目指す。


 冬の冷たい季節にチーズは悪魔的に身体に染み込んでくる。涼はこの前のキャンプで嫌というほどその官能的な組み合わせを味わい尽くした。


 それにそのお店はパーティーメニューが豊富で個室もあり、値段もそこそこなので学生の人気も高い。よくこの土壇場で予約が取れたものだと自分でも不思議に思った。


「ねえ、文化祭で会った……榊君だよね?」


「ああ、そっちは涼の元カノの春咲葵さんだな? 久しぶり。まさかこんなタイミングで再び出会えるとは思わなかった」


「私もびっくりしたよ。冴ちゃんから「合コンをやるんですけど一人足りないので参加だけしてくれませんか?」なんて頼まれて来たら相手が涼だもん。もう一人も友達で君も知らない仲じゃないし」


「春咲さんが涼の元カノだからと気を使ったんだろうか? いや、バイトが同じみたいだし、彼女の言う通りサプライズのつもりなんだろうな。後輩のやることだし、大目に見てあげよう」


「もちろん!」


 まだ一度挨拶をしただけだが、真と葵は気兼ねなく会話を楽しんでいた。


 真が居心地悪く過ごさずにすみそうだと涼はホッと一息つく。


「冴、良かったな。大目に見てくれるってさ」


「はい……ほんとは白のアイデアなのに……」


「え、なんだって? 私、全く覚えてないんだけどぉ……?」


「ええっ、ここでそれは酷いよ。そりゃ私だっていいよって言った手前文句言える立場じゃないけどさ。逃げるのはズルい!」


「あー、わかったわかったわかったから、そんなにポカポカ叩かないでって。痛くないけど周りの視線が痛い」


「えっ……」


 ケープを蝶の羽のようにパタパタ揺らしながら白をこづく姿は実に可愛らしく、冴が普段から醸し出しているお淑やかさとギャップがあり、葵と涼は温かい目で見ていた。


 冴と出会ったばかりの翼と真も微笑ましく見守っている。


 恥ずかしい姿を見られたと思った冴は周囲の温度が2、3度上がったのではと勘違いしそうなほど赤くなった。


「いいものだね、後輩って」


「そうだな。心配なこともあるけど、見ていて和む」


「涼を見ていた先輩は心配したことも和んだこともないって言ってたよ。完璧過ぎて逆に怖いって」


「聞きたくはなかったな。葵は結構可愛がられてたよ。今もパートの人たちからは良くされているし」


「まあ誰かさんと違って手がかかるし、愛想が良いからね」


「僕も接客態度や周りとの付き合い良好だと思うんだけどな……」


 これも周囲と壁を作って接していたからだろうか。そんなつもりはないし、割と本音を出すことも多かったが、初恋に落とされて周りを見る目が変わると今までの自分が酷く透明に写る。


 駅の近くにあるだけあって改札から歩いて数分で店までやって来れた。多少挨拶する時間も考えて集まったので葵が、数分遅刻していてもまだ予約の時間には余裕がある。


 涼は店員に名前を告げ、予約していた個室まで案内してもらう。


 堅苦しいのは嫌なのでソファ席にしてみた。オシャレな間接照明に観葉植物、柔らかすぎない大きなソファ。明るすぎず暗すぎない絶妙な光量が涼たちの気分を盛り上げる。


「いいところだな」


「そうだな、思った以上に雰囲気がある」


「流石涼さん! オシャレでステキ」


「うっわぁ、涼がここ選んだんだ……意外すぎて笑えるんだけど」


「わぁ、すごくいい絵だね。デッサン力もそうだけどタッチが上手い!」


「やっぱり美術部の部長やってるとわかるものなんですねぇ。私には全く良さがわかんないですよ」


 各々感想をこぼしたところで男女別れてソファに座る。


 ここはコースで頼まず一つ一つまとめてオーダーを取るよう頼んだ。


 そして、料理が出揃ったところで涼が挨拶を始めた。

お酒ないんだよなぁ……

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