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妖精の住処  作者: 速水零
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順調な下準備

 あと一人あと一人と悩んでいる涼だが、翼に断られたら状況はさらに悪くなってしまうので、考えるのは後回しにして翼にお願いしてみた。


 日取りは冴たちと予め土曜の夜と定めている。合コンと言って誘うのは恥ずかしいので、「翼、今週の土曜バイトの後輩とその友達と食事することになったんだけど、来てくれない? 男僕一人はキツい」とringを送った。合コンというワードを使っていないだけで隠せてはいないが。


「なんでそんなことになったの?」


「まあ話の流れで……それで、来れる?」


「んー……いいよ。土曜は部活終わったあと暇だし、こういうのもたまにはいいかもね」


「さっすが僕の親友だ。よろしく頼むよ」


 このような流れで簡単に翼の参加が決まった。涼たちとずっとつるんでいた影響か、翼もなかなか未知に飛び込む楽しさにやられている。


 とりあえずほっと一息付くことができ、のんびりと楽観的に他の候補も色々考えてみたが、一時間以上頭を働かせても結局誰も見つからなかった。


「はぁ、やっぱり真にお願いするしかないのか……」


 思わず口に出てしまうほど疲れている。


 来週の木曜日がクリスマスイブなので、今回の合コンの趣旨からして早めに開催しなければならない。だからこそ今週の土曜と決めたのだが、全てにおいて突発的すぎる。


 いきなりで時間が合わないと断られたらもう涼は頭数を揃えるしかない最悪の状況になり、ほとんど詰みだ。


 翼にしたみたいな取り繕った招待文では逆に涼に疚しいものがあると勘違いされるので(間違ってはいないが)、ストレートに誘ってみた。


「涼が……合コン?」


「そう言われるとすごく心が痛いな。まあ、真がイメージしているようなものにはならないよ。ちょっと知らない子も混じえて食事会をするだけだ。ちなみに相手方三人のうちの二人は僕の塾で講師をやってくれている」


「ああ、そういえば講師が見つかったって言ってたな。もう一人増えたのか」


「これから先どうなるか分からないからな。真も塾の運営にアドバイスしてくれているわけだし、挨拶する気分で来ないか?」


「かなり焦ってるな。もう一人は決まってるのか?」


「ああ、僕の地元の友達で良い奴だよ」


「そうか。合コンね……いいだろう。涼が主催者なわけだし、こういう催し物は参加したことないからな。怖いもの見たさで行きたい気持ちもあるし、単純に涼の塾でバイトしている子がどんなか気になる」


「そうか……ありがとう」


「いいよ、土曜の夜だったな」


「そうそう。よろしく」


「了解」


 説得に長く時間がかかるかと思い、真には電話で招待してみたが、これもすんなりと決まった。涼の心境は複雑だが。


「なになに、やっとメンバー決まったの?」


「まあね。思うところはあるけど僕の考えるベストメンバーだ」


 柚は涼がずっと唸りながら考えていたのを横目で見続けていた。必死にメンバー集めをしている涼は滑稽という二文字がよく似合っており、柚の奥底に眠っていた不満が綺麗に霧散していった。


「なんだかRPGメンバーを選んでいるみたいね」


「あながち間違ってない。RPGなら僕はどんな職業だと思う?」


「うーん、なんでも器用にこなすから……いや、賢さと運動神経の良さを合わせて魔法剣士とか?」


「確かにひとつに絞らないで幅を中途半端に広げているのは僕らしい。柚は間違いなく妖精だろうな」


「それ体格だけじゃない!」


「いいじゃん可愛いんだし」


 大変だった合コンメンバー探しも一段落つき、涼と柚は冗談を混じえながら眠りにつくまで談笑を続けた。




「他の人のクリスマスイブの予定作りに夢中になって来週に迫った私たちのデートをお忘れじゃないかしら?」


 次の日、クリスマスイブまであと一週間。学校がないので二人でゆったりと朝食を食べていると、柚が確かめるように聞いてきた。


「いいや、こう見えて一番気にしているよ。でも、プランニングは柚がしてくれるんだろ?」


「ええ、でもこういうのはお互いの協調で成り立つものだから、この確認も下準備よ」


「なるほどね。大丈夫、日を追う事に待ち遠しくなってるから、下拵えは順調だ」


「あら、そう。なら、もうひと工夫いこうかしら?」


 妖艶な笑みを浮かべた柚は涼のもとへとてくてく近づき、涼の人差し指を両手で掴んだ。


 赤ん坊よりも小さな小さな掌からでもちゃんと熱が伝わってくる。


「涼、あと一週間、本当に待ち遠しいわ。だから一足先にちょっと幸せをいただくね」


 涼の人差し指を顔まで持っていき、柚はその桜の花びらのような薄いピンク色の唇で優しく口付けた。


「……ッ!? た、確かに幸せを盗られた気分だ。でも、それじゃあ期待が落ちちまうんじゃないの?」


「本当に落ちた?」


「いーや、やっぱり幸せを盗られてはいなかった。溢れ過ぎてて減ったとは思えないよ。……柚は恥ずかしさに溢れてない?」


「……実はやり過ぎた。まだこのステップは先走りだったかも」


「そうしてお互い距離を縮めるんじゃないの? 初めて僕らが名前で呼びあった時みたいにさ」


 涼は柔らかく微笑み、柚に口付けられた人差し指で頭を撫で回した。


 合コンで浮かれることは絶対にないだろう。


 妖精の楔は強力だなぁなどと思いながら、涼は恋人との初デートを想起した。

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