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妖精の住処  作者: 速水零
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彼女を説得?

「あー、この季節のロールキャベツは本当に格別よねぇ」


 冴と白は夕飯を食べ終わりしばらく紅茶を堪能したあと帰っていった。


 柚は木下塾から今までずっと涼の部屋から出られないでいたが、恋愛ドラマを一気見していたので退屈はしていないだろう。お腹すかないようにサンドイッチとお菓子の家作りで余った部分を置いておいた。


 最近は全く外に出ていなかったので寒さは感じないだろうと言いたい涼だが、せっかく美味しそうに食べているので黙っておく。


「でも、やっぱりキャベツ分厚! すっごく柔らかいんだけど芯で丸めているみたい。美味しいんだけどね」


「まあ厚みはどうにもならないよ。やっぱり食感も違うんだよな?」


「まあね。でも最近前の身体での経験をだいぶ忘れてきちゃった。歌は歌えるし、涼がこの前買ってくれた人形用の自転車も乗れたけどね」


「もう8ヶ月くらい経つもんな。仕方ないよ。……辛いか?」


「ううん、全然。もう私はこんな身体に生まれ変わったもんだと諦めているし、どんな枷があっても涼が一緒ならハッピーよ」


「柚……」


「涼……」


 2人の距離は自然と近づいていく。


 そっと手が触れ合い、互いの温もりが伝わる。


 涼の掌の上に柚が乗った。持ち上げて目線を合わせる。


 涼はハムスターを可愛がるように愛撫していく。柚もくすぐったそうに身体をくねくねひねりながらも頬を緩めていた。




 しばらく二人の世界を楽しんだあと、二人は食後のコーヒータイムに入った。


「そういえばさ、白ってどんな感じだった?」


「結構良かったよ。本人はかなり自分を卑下していたけど、地頭はかなり良いし、雰囲気がすごく明るいから子どもにも大人気だった。ちょっと自分なりにやり過ぎている部分もあるけど、悪い影響がなさそうならば多目に見るよ」


「そっか。流石紫苑女学院の生徒なだけあるわ。もう新しい講師は雇わないの?」


「とりあえず今は要らないかな。でもなにが起こるかわからないし、他学年をたくさん持つようになったら結構厳しくなるはずなんだよ。候補は用意しておきたい」


「候補? 高校の友達でも誘う気?」


 柚は涼が白と冴、真くらいしか誘う相手がいなかったことをよく知っている。文化祭でエースをやっていただけあって少しはクラスメイトとも打ち解けるようになってきたが、それでも涼が誘えるとは思えない。


「いいや、高校は多分無理だな。もう歳下が二人来てくれて僕が受験期で休むときの代役は立ったから、僕と同い年も候補に入れるけど、僕以外はみんなすでに受験勉強に必死だからね。仮に誘える友達ができても無理だ。真は推薦で行くのがほぼ確実だったから誘えたんだよ」


「なるほどね。確かに高二の冬からバイトを始めるっておかしな話だわ。涼に慣れてて常識を失ってた。これも前の身体の感覚が思い出せなくなる要因よね」


「その言い方は傷つく」


「ほんとのことだもん。……それで、じゃあ誰を候補にするのよ。地元の友達はダメなんでしょ? この辺りでうちの求める学歴に見合う高校って紫苑女学院と翔央高校くらいじゃない?」


「その言い方もなんかすごいよな。その通りなんだけど。…………ちょっと、その話に入るにあたり相談したいことがある」


「え……ゴホッゴホッゴホッ……ウぅっ…………なになになになに? すごく怖いんですけど。今度は何やらかすつもりなわけ?!」


 柚は口に含んでいたデカフェを喉に詰まらせた。あまりにも真剣な表情を浮かべる涼に柚は驚愕を通り越して恐怖を感じ始める。


 こういった雰囲気を醸し出す時の涼は悪い知らせをするか、タチの悪い悪戯をするかくらいしかない。大きくても良い話ならもっと明るく振る舞っている。


「実は……実はな、さっき冴と白と夕飯食べている時、白達から合コンを開いて欲しいと頼まれた」


「…………えっ? えっえっえっえっえっ、ちょっと待って……合コン?」


「合コン」


「誰が?」


「僕とその友達、白と冴とあともう一人友達を連れてくるみたい」


「へー……へえぇぇ。涼、合コンやるんだぁ。いいなぁ、高校生になったら一度はやってみたかったんだよねぇ。うっらやましい! でも、涼って彼女いなかったっけ?」


 柚はダイニングテーブルの上をふらふらふらふらと動き回り、涼を揺さぶるように問い掛ける。


 言わずもがな相当怒っているようだ。


「いや、もちろん柚って可愛い可愛い彼女がいるんだけど、僕はただ人を集めるだけだから」


「でもでも、合コンってすごく明るい雰囲気を出しているようで、水面下では腹の探り合いや、醜い駆け引き、裏切りが行われてて、まさしく人間の醜悪をこれでもかと詰め込んだ会合じゃない! ボサっとしてたら刈り取られるわ!」


「どこからそんな情報を得たんだよ」


「さっき観てたドラマから」


「ああぁ、そういうこと。僕はドラマ内容知らないから否定しきれないけど、僕らの開くものとは世界が違うからな。僕がお願いされたのはゆるいゆるい合コン体験会みたいなもので、ただのお食事会だよ」


「そう……」


「だから浮気したりしないって、絶対。僕は世界で一番柚のことが好きなんだからさ」


「う、うん……まだ完全に納得したわけじゃないけど、涼を信用しているから今回は目をつぶるわ。いーい、今回だけよ!」


 柚は涼の言葉に赤面し、顔を背けて強く言い放つ。


 こんな簡単に許してもらえるとは思わなかった涼だが、それだけ信用されているだと深く受け止めた。心の中で柚に顔向けできないマネはしないと誓う。


「もちろんさ。……それで、さっきの候補の話だけど、冴や白の友達っていうからには紫苑女学院の生徒だろ? 少しだけ仲良くなっておいていつか勧誘できらと考えているんだよ。そうやってコネクションを作るのは大事だろ?」


「そういう意図もあったのね。それで、本音は?」


「一度くらい合コンを体験してみるのも面白そうだ」


「やっぱりぃ! 絶対無傷で帰ってこなきゃダメなんだからね!」


「もちろん。肝に銘じておく」

きっとドロッドロなドラマを見ていたんでしょうね。そういうのは概要だけ聞ければ満足です。

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