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妖精の住処  作者: 速水零
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約束を果たす

「今日は講師の体験に来てくれてありがとう。できればこれから先もよろしく頼む」


「はい! 私も今日はとても楽しかったので、よろしくお願いします!」


 白は私立のお嬢様学校に通うだけあってお小遣いがあればそこそこ不自由なく過ごせる。今まで冴のように苦労して働いてまでお金を欲しいとは思わなかった。


 しかし、木下塾でのアルバイトは大変な部分もあるが、辛いと思うことはなくむしろ今までよりも楽しく過ごせそうだ。


「よろしく。まあ、次で今年の授業は終わりだし、次も体験で講師をやってもらって、気持ちが固まったら来年から正式にお願いするよ。12月の給料は来週渡すから」


「え、お金貰っていいんですか?!」


「そりゃ体験とはいえ講師に来てもらっている訳だし、研修料金ってことで一授業五千円でどう?」


「一授業五千円……って時給二千五百円ですか!? バイトが初めての私でもさすがにそれが異常なほど高いって理解できますよ!! しかも研修料金!?」


「そうなんだよぉ、私も涼さんに高すぎるって言ったんだけど……譲ってくれないの」


 冴には一授業につき六千円、つまり時給三千円支払っている。これは木下塾がすごく儲かっているから羽振りが良い訳ではなく、涼が実力を評価しているからだ。


 現に涼は自分の知る中で最も優秀な親友には、時給五千円で引き受けてくれないかと頼んた事があった。


 冴の仕事と同じことをするのに学力は大して要らないかもしれないが、学歴の力と取り留めのないシーンで見受けられる地頭の良さが子どもに良い影響を与える。


 学歴を子どもが気にしないと思うかもしれない、そう思われるのが一般的だろう。しかし、意外と子どもはかなりそういう所を気にする。サッカーを教えてもらうならプロだった人の方が良いし、勉強を教わるなら良い学校を卒業した者に決まっている。


 教師が大した実績を持っていないと、考えの足りない児童は教師をなめ始めるのだ。


「高いと感じるのは当然だし、僕も立場が逆だったらそう言うだろうけど、能力に対する正当な報酬だからちゃんと受け取って欲しい。もし多すぎて気後れするなら冴のように半分僕が取り置いてもいいしね」


「うーん……私は他にバイトしているわけじゃないし、毎月二万五千円くらいなんですよね。それなら私はいただきます!」


「そうしてくれると僕も嬉しいよ。とりあえず、うちの塾の方針も見せられて、給料の話もできたから仕事のことは忘れよう。今日はうちで食べて行かないか? お菓子の家程立派なものは用意してないけど、普通の夕飯くらいは出せるよ」


「是非いただきます!」


「私もご一緒させていただいても宜しいですか?」


「もちろん。あ、歓迎会は来年また別でやろうね」


「「はいっ!!」」


 白が講師をやってくれるということで、涼はかなり舞い上がっていた。


 私という彼女がいるのに女の子二人を誘って家でご飯を食べるってどういう事!? と思わないでもない柚だが、バイト仲間としてだから寛容でいたいと思う。


 本当にお菓子の家に全力を尽くしていたので、今夜はなんてことないロールキャベツだ。柚には後でパチンコ玉位のサイズを作ろうと思う。


 涼がキッチンで一人料理を作っていると、冴と白は肩を寄せ合い内緒話をしていた。


「白、いつ話すの?」


「え、なんの事?」


「とぼけないで。あの合コンの話」


「あぁぁ……うん。なんの事?」


「その顔絶対思い出したでしょ。約束守って涼さんに取り次いでみたら?」


「うぅぅっ…………わかった、わかったから! そんな鬼みたいな顔しないで!」


 白は慌てて冴のご機嫌をとる。大切な親友と約束した以上破って仲違いするのは御免だ。


 しばらく頭の中で「やるしかない、話すしかない、約束したんだから」とお経のようにブツブツと唱え続ける。やがて白は覚悟を決め、冴に「もう大丈夫、絶対合コン開いてくださいってお願いするから」と伝えた。


 もう彼氏作りなんてどうでもよくなってきた白だが、本気で頼みこもうと決意する。


「夕飯できたよ」


「はーい、ありがとうございます!」


「あ、盛り付けくらいは手伝います!」


 涼一人、冴と白二人でテーブルにつく。ロールキャベツから微かに湯気が登り、三人の食欲をかきたてる。


「「「いただきます!」」」


 フォークをロールキャベツに突き刺すと全く抵抗がなかった。じっくり煮込まれており、期待値はさらに跳ね上がる。


 合わせたかのように同時に口に運ぶと3つの小さな驚嘆が漏れ出した。


「すっごく美味しいです!」


「ほんとほんと、至高の家庭料理って感じ! レストランも開けるんじゃないですか?!」


「それは言い過ぎだよ。まあ、僕としてもかなりの上出来だと思う。やっぱ旬な時期に食べると最高だね」


 皆それぞれ感想を言い合い、歓談を混じえながら食べ進めると、白が意を決したように涼に話を振る。


「なに?」


「あの、お願いしたいことがあるんですけど……」


「講師の件かな?」


「いいえ、そうじゃなくて個人的なものです」


 いつになく真面目な顔をする白に涼はじっと身構える。


「あの……そのぉ…………単刀直入に言うと……りょ、涼さんに合コンを開いて貰いたいんです!!」


「……………………はぁあ!?」


本当に本当に梅雨が長い。

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