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妖精の住処  作者: 速水零
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人の夢

「ねえ涼、人類共通の夢ってなんだと思う?」


 ひとしきり来年からの木下塾運営方針を固めたところで二人はそっとコーヒーで一息ついていた。


 いずれのことを考え冴の親友を講師に誘い、テナントを借りて運営していくという営業方針も保護者に伝えた。


 ベンチャー思考を持って行動すると全てが明るくワイドに感じられる。本当に冒険者になった気分だ。


 そう思うと柚の突発的なこの問いにも大きな意味があるように感じる涼だが、冷静に考えてみるとやっぱりなぜそんなことを聞くのかわからない。


「なんだ突然。……人種関係なしか?」


「もちろん」


「無難だが平和とか平等な世界とかかな? 大穴で宇宙人との交信、タイムマシンの完成、サイコキネシスになる……とか?」


「それはまあ確かに人類の夢ね。でも私の想定解じゃないわ」


「ふぅん。その想定解とは?」


「お菓子の家に住むことよ」


 柚は手を大きく広げお菓子の家についてホットに語る。どれほどの魅力が詰まっているか、どれほどの感動が人類に影響を与えるか、果てには世界平和はお菓子の家が成し遂げるとまで柚は言い切った。


 明らかに誇張だが涼も柚の気持ちがわからないではない。子どもの頃誰もが一度は妄想した夢だ。


「私は今猛烈にお菓子の家に住みたいわ!」


「何か絵本でも読んだのか?」


「ち・が・う! この漫画見て、世界一のパティシエを目指す高校生の物語なんだけど、そこに出てくる話の一つにお菓子の家作りってのがあって、無茶苦茶理性を揺さぶってきたのよ! もうそこに住まなきゃやってられないくらいに私は熱望しているわ!」


「あーわかったわかった。つまり、僕がこれから柚のお菓子の家を作ればいいってことだな」


「うん、お願いマイダーリン!」


 その言い方はちょっとウザいが、面白そうなので涼も乗り気で設計図を書き始める。


「素材は何がいいかな? チョコレート、クッキー、グミ、あとはおしゃれにマカロンとか?」


「そうね。まず壁を何にするかから考えないといけないかも。流石に私が中に入る以上あの貴族おうちセット並の大きさはキツいし、一階建になるわよね」


「そもそも二階建てなんて無理だ。階段はともかく二階の床が抜ける可能性が高い。それにチョコで作ったなら足がベトベトするぞ。壁や屋根の素材はクッキーかチョコレートかな」


「私としてはチョコレートの方がいいんだけど、外観とか作りやすさを考えるとチョコレートはドアに使って、家に合わせた形のクッキーを自作するのがベストね」


「そうだな。屋根もクッキーで作って、上にレンガの代わりにチョコレートを並べよう。あとは装飾に市販のお菓子を使うか」


 しばらく涼たちは議論し合い、ようやく設計図を書き終え、必要な材料をピックアップした頃には寝る時間になっていた。


 途中夕食を挟んだのに飽きることなく続けられたのだから随分と二人は熱中しているようだ。


「次の工程はまた明日だな」


「そうね、つい熱が入りすぎたわ。まさかベッドや椅子まで作ろうって話になるとは。まあ多分面倒すぎるし長持ちしないから作らないかもだけど……」


「そうだな。ちょっと凝り過ぎて嫌になりそうだ。考えてる間は楽しいんだけどな。明日はENGLISHのある日だし早めに作って明後日BASICの後にみんなにクリスマスパーティーって事でパーっと食べ合うか」


「そうね、もう2回で今年の授業は終わりでしょ? 最後にやった方がいいとは思うけどいいアイデアじゃない! それに……涼一人じゃ食べきれないでしょ」


「もちろん。甘いものは嫌いじゃないけど程々がいい。あ、そうだ。どうせ白を雇おうと思ってたところだしBASICの時体験講師をやってもらおうか。女子高生ならこのお菓子の家は盛り上がるだろ?」


「当然。興奮しない子は女の子じゃないわ。あぁ、SNSにあげるために撮影会が行われる姿が目に浮かぶ」


「確かに。それじゃあ今日はもう寝ようか」


「うん、おやすみ」


「おやすみ」


 涼たちはそれぞれのベッドにつき就寝した。


 翌朝涼が日課のサイクリングを終えて朝食を作っていると涼のスマホにringが来る。


 相手は白からで、体験講師を受けるという返事だった。だが一緒に「すみません、そのあと少し相談したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」という不穏な言葉が添えられていた。


(相談事? 給料交渉とかシフトの話か? んー、ありそうだけどしっくり来ないな。白ならこの場で軽く聞いてくるはずだ)


 とりあえず白がお菓子の家を食べる係になってくれそうなのは嬉しいが、僅かなしこりが心の片隅に居座り続ける。

夏にやるとチョコが溶けるのでこの時期に書きました。嘘です。最近面白そうだと思いつき書きました。

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